江戸東京たてもの園編(17):(14.9)

 そして本日の見納めは鍵屋です。解説板を転記します。
 鍵屋は、下谷坂本町(現、台東区下谷)にあった居酒屋である。1856年(安政3)酒問屋として創業したと言い伝えられ、酒の小売店を経て1949年(昭和24)から居酒屋の営業を始めた。手頃な値段で旨く静かに飲むことのできる鍵屋は地域の人びと、職人、サラリーマン、芸人などに支持されていった。また雰囲気と主人の人柄を愛して小説家の内田百閒などの多くの著名人も通っていた。
 鍵屋は当初平屋だったが、大正期頃に2階部分を増築した。震災・戦災をまぬがれ今なお江戸時代末期の面影をとどめている。
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 へえ、内田百閒が常連客だったんだ。彼の名を聞くとすぐに思い出すのが、『餓鬼道肴蔬目録』(ちくま日本文学全集所収 筑摩書房)です。食べる物がなくなってきた1944(昭和19)年、記憶の中から美味しいもの、食べたいものを列挙した目録。その執念には脱帽です。ちなみに「オクスタン」とは牛タンのこと、橄欖とはオリーブのことです。
註 昭和十九年ノ夏初メ段段食ベルモノガ無クナッタノデセメテ記憶ノ中カラウマイ物食ベタイ物ノ名前ダケデモ出シテ見ヨウト思イツイテコノ目録ヲ作ッタ
昭和十九年六月一日昼日本郵船ノ自室ニテ記

さわら刺身 生姜醤油
たい刺身
かじき刺身
まぐろ 霜降りとろノぶつ切
ふな刺身 芥子味噌
べらたノ芥子味噌
こちノ洗い
こいノ洗い
あわび水貝
小鯛焼物
塩ぶり
まながつお味噌漬
あじ一塩
小はぜ佃煮
くさや
さらしくじら
いいだこ
べか
白魚ゆがし
蟹ノ卵ノ酢の物
いかノちち
いなノうす
寒雀だんご
鴨だんご
オクスタン潮漬
牛肉網焼
ポークカツレツ
ベーコン
ばん小鴨等ノ洋風料理
にがうるか
カビヤ
ちさ酢味噌
孫芋 柚子
くわい
竹の子ノバタイタメ
松茸
うど
防風
馬鈴薯ノマッシュコロッケ
ふきノ薹
土筆
すぎな
ふこノ芽ノいり葉
油揚げノ焼キタテ
揚げ玉入りノ味噌汁
青紫蘇ノキャベツ巻ノ糠味噌漬
西瓜ノ子ノ奈良漬
西条柿
水蜜桃
二十世紀梨
大崎葡萄 註 備前児島ノ大崎ノ産
ゆすら
なつめ
橄欖ノ実
胡桃
椎ノ実
南京豆
揚げ餅
三門ノよもぎ団子
かのこ餅
鶴屋ノ羊羹
大手饅頭
広栄堂ノ串刺吉備団子 註 広栄堂ハ吉備団子ノ本舗ナリ
日米堂ノヌガー
パイノ皮
シュークリーム
上方風ミルクセーキ
やぶ蕎麦ノもり
すうどん 註 ナンニモ具ノ這入ッテイナイ上方風ノ饂飩ナリ
雀鮨 註 当歳ノ小鯛ノ鮨ナリ
山北駅ノ鮎ノ押鮨
富山ノますノ早鮨
岡山ノお祭鮨 魚島鮨
こちめし
汽車弁当
駅売リノ鯛めし
押麦デナイ本当ノ麦飯

by sabasaba13 | 2016-07-30 07:55 | 東京 | Comments(0)
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