京都錦秋編(23):東福寺本坊庭園(14.11)

 それでは拝見することにしましょう。庫裡から方丈へと進む渡り廊下を歩いていくと、右手に東庭が見えてきます。北斗七星をあらわす石の円柱、白川砂、苔、背後の二重生垣で構成された小さなお庭です。円柱は、山内にある東司(とんす:便所)で使用されていた礎石で、東司の解体修理をした際に、余材として出てきた廃材です。円柱形の石材を使うという手法は、すでに小川治兵衛(植治)によって行われています。彼は、三条大橋や五条大橋で使われていた橋脚を使って、龍の姿に見える沢飛石「臥龍橋」を平安神宮の神苑につくりました。三玲は「日本庭園史図鑑 全26巻」を執筆するに際して、神苑の詳細な実測調査をしているので、この手法は熟知していたことでしょう。七石の高さは、高・中・低のバランスを考えたリズミカルな構成となっています。背後の二重生垣も、大徳寺本坊庭園、孤篷庵方丈前庭などに用いられている手法が取り入れられ、古典的な庭園に学んでいることがわかります。波紋のように広がる砂紋も洒落ていますね。
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 そして南庭へ。ここでは日本庭園の定型的な表現方法である、蓬莱神仙思想を中心とした意匠となっています。神仙島を構成する、寝かせた長石と、鋭く屹立する立石のバランスが絶妙ですね。このような石の扱い方は、古庭園ではほとんど例がないとのこと。重森三玲の面目躍如です。一切石を使用していない築山は、京都五山を表現しています。ぽこぽこぽこぽこぽこと、苔に覆われた緑の築山がリズミカルに並ぶ造形の面白さ。斬新です。この築山の部分は、斜線上に苔と白川砂の仕切りが設けられています。こうした直線を使ったシャープな意匠は、小堀遠州の表現方法からヒントを得ているそうです。この仕切りに呼応するような、直線と同心円の砂紋もモダンな意匠で素晴らしいですね。
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 西庭の大市松模様「井田の庭」は、日本古来から伝えられてきた伝統的な市松模様を、サツキの刈込と葛(かずら)石の使用によって表現してあります。葛石とは、社寺・宮殿などの基壇の上端の縁にある、縁石(へりいし)を兼ねる長方形の石のことです。この本坊内に使われていた、廃材である長方形の葛石を再使用してできあがった意匠です。こうした長方形の石は通常の作庭では使われませんが、それでも廃材利用という東福寺からの要求にそって使用しなくてはならなかったことから考え抜いた末に辿り着いた答えが「市松」だったのですね。市松は、桂離宮内の松琴亭の襖や床に、また修学院離宮の茶席の腰張りに使用されるなど、日本の伝統的な紋様です。また東福寺山内においても、先ほど見た開山堂の市松の砂紋を三玲は昭和13年2月に実測してその美にも引かれていたことが、彼の記述したものに残されているそうです。また南西の角には、自然石による三尊石組がありますが、これは東庭の北斗七星による七石、南庭の京都五山の五つの山と組み合わせると「七五三」になっているのですね。なお「井田(せいでん)」とは、井の字に等分した古代中国の田制にちなんでいます。
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 北庭へ行く途中には「通天台」とう舞台が設けられ、通天橋と洗玉澗を一望することができました。
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 そして最後の北庭です。廃材の切石を再利用した市松模様と、それをうずめるような緑の苔の対比が美しいですね。しかも西庭の大きな市松から、小さい市松へと変化し、しかも徐々に崩れてまばらとなり、最後は消えてしまうというドラマチックな構成となっています。このお庭を見たイサム・ノグチが「モンドリアン風の新しい角度の庭」と評したのも頷けます。
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 というわけで、何度見ても素晴らしいお庭です。また再訪しそうな♪恋の予感♪

 本日の五枚です。
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by sabasaba13 | 2016-10-01 06:34 | 京都 | Comments(0)
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