『日本国憲法を口語訳してみたら』

 都議会選挙での自民党の惨敗、「御慶」と叫びたいですね。これで憲法改悪の野望も潰えたかと思いきや、安倍上等兵は往生際も悪く諦めていないようです。それを頓挫させるためにも、多くの方々に(特に若い人に)憲法について考えてもらいたいものです。そもそも憲法とは何か? 無知な私の蒙を啓いてくれたのが、小室直樹氏です。『痛快! 憲法学』(集英社インターナショナル)から引用します。
 一人の犯罪者ができる悪事より、国家が行なう悪事のほうがずっとスケールが大きいのです。…憲法とは国民に向けて書かれたものではない。誰のために書かれたものかといえば、国家権力すべてを縛るために書かれたものです。司法、行政、立法…これらの権力に対する命令が、憲法には書かれている。国家権力というのは、恐ろしい力を持っている。警察だって軍隊だって動かすことができる。そんな怪物のようなものを縛るための、最強の鎖が憲法というわけです。(中略)
 ホッブズは、国家とはリヴァイアサンであると言った。これはまさしく万古不易の名言です。国家権力が自由に動き出したら、それをくい止める手だてはありません。何しろ近代国家には軍隊や警察という暴力装置がある。また人民の手から財産を丸ごと奪うこともできる。さらに国家の命令一つで、人民は徴兵され、命を戦場に投げ出さなければならない。こんな怪物を野放しにしていたのでは、夜もおちおち寝ていることはできないでしょう。だからこそ、近代西洋文明は持てるかぎりの知恵を振り絞って、この怪物を取り押さえようとした。…そこで法律や制度でぐるぐる巻きにしたうえに、さらに太い鎖をかけることにした。それが憲法というわけです。だから、憲法はあくまでも国家を縛るためのもの。一般国民に対して「仲良くせよ」「平和を愛せ」なんて、訓辞を垂れている余裕はない。敵はリヴァイアサン、そんな悠長なことは言っていられないのです。(p.28~31)
 また最近、『転換期を生きる君たちへ』(晶文社)を読んでいて、岡田憲治氏の一文にも出会えました。
 憲法は、学校の校則を偉くしたみたいなものだと、いい歳をした多数の大人がひどい勘違いをしているので言っておくが、憲法とはそんなものでは断じてない。
 軍隊(大砲)や警察(拳銃)を使って、必要となれば人間を殺したり(戦争)、脅し付けて静かにさせたりすること(治安維持)が例外的に認められている団体は、国家だけだから、暴走して人間や社会を破滅に追い込むことがないように、人々ではなく国家「を」きびしく縛るものが必要だ。そしてそれこそが、憲法がこの世にある最大の理由だ。だから縛られる側である政府にこそ、率先して憲法を守る義務があると書かれている。(p.154)
 はい、よくわかりました。国家という恐るべき怪物を縛る鎖、それが憲法です。よってその怪物が憲法を変えようとしたら要注意、どう考えても暴れるためにその鎖を緩めようとするのは目に見えていますから。自由民主党の改憲案を読めば一目瞭然です。この緊要な本質を理解せず、「押し付けられたから」とか「一度も改正されていないから」とか「時代遅れ」とかいう安直な理由で改正に賛成する方がいることに危惧を覚えます。繰り返しますが、重要なのは、怪物を縛る鎖を、緩めるのか締めるのかという点です。

 ぜひ多くの方々に日本国憲法全文を読んでいただき、その重厚な鎖の質感を感じてほしいのですが、取っつきにくいと思われる方も多いでしょう。そうした方にお薦めしたいのが、『日本国憲法を口語訳してみたら』(幻冬舎)です。法学部学生だった塚田薫氏が、「憲法って何?」という友人の質問に「こんな感じ」と答えたのが好評となり、それを「2ちゃんねる」に書き込んで大きな反響を呼びました。その内容を一冊にまとめたのが本書です。いくつか紹介しましょう。なお括弧内の斜体が原文です。
第17条 俺たちは、もし国や公務員がちゃんとした理由がないのに、俺たちの権利を侵したら、国とか公的なとこに、その補償をしろって要求できるよ。

(第17条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる)

第19条 どんな考えでも、それはお前の考えなんだから、大事にされるよ。もし公権力がお前の考えや良心に反することを要求しても、全部無視していいよ。

(第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない)

第21条 みんなで集まって考えたり、自分の考えをしゃべったり、本とかにしたりして表現することは、すべて自由だぜ。どんな表現でも、それはお前の権利だから、胸はってやれよ。
2項 国は検閲っていって、発表される前の本なんかの内容をチェックしたり、いちゃもんをつけたりしちゃだめだよ。あと、どんな話をしたとか、どんな考えをもってるとか探っちゃだめだよ。検閲の禁止と通信の秘密な。

(第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない
)

第25条 俺たちはみんな、健康で人間らしい最低限の生活をする権利があるよ。
2項 国は、このためにできることをちゃんとやれよ。

(第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない
)

第36条 公務員は、刑罰とかでエグいことすんなよ。拷問なんてもってのほかだからな。絶対な。

(第36条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる)

第83条 国のお金は、国会が決めたことにしたがって使えよ。

(第83条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない)

第97条 この憲法が大事にしてる基本的人権っていうのは、世界中の人たちがこれまで何百年もずーっとがんばって考えて、闘って、そして勝ち取った結果だよ。これは俺たちと俺たちのガキ、またそのずっと先のガキまで永久に受け取った、誰にも侵されない超重要な権利なんだ。

(第97条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである)

第98条 この憲法は日本で一番偉いルールだから、それに逆らうようなことを国がしたら、全部無視していいよ。[※2項は省略]

(第98条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。[※2項は省略])

第99条 総理大臣やほかの大臣、国会議員、裁判官、公務員、天皇や摂政は、この憲法をきちっと守ってね。これ、義務だからな。

(第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ)
 うわお、これはお見事。ざっくばらんな親しみやすさ、スピード感と力強さが素晴らしい。何よりも国家に対する「上から目線」が、びしびしと伝わってきます。国家権力に対して「~するなよ」「~に逆らうなよ」「~を守れよ」という小気味のよい命令が、フリッカー・ジャブのように次々とくりだされる爽快さ。ぜひ多くの方々が読み、鎖の重要性を実感し、そして原文を読み、憲法改正の国民投票がもし行われた際には参考にしていただきたいと思います。

 余談です。自民党の改憲案では、第97条はそっくり削除され、第36条からは「絶対に」という文言が削除され、第99条には「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」という文言が追加されています。語るに落ちるとはこのこと、彼等の考える憲法とは「国民を縛る鎖」なのですね。また第21条には次の条項が追加されています。
 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
 この改憲案全体の主語が、国民ではなく、国家権力を行使する官僚・政治家であるという印象を強く受けますが、これもそうですね。口語訳してみましょうか。
 表現の自由は認めるけど、俺ら官僚・政治家に損をさせ、俺らの顔にドロをぬるようなことはさせないし、そんなことをするグループはつぶすぜ。
 誰か自民党の改憲案全文を口語訳してくれないかなあ。そして本書と読み比べれば、その違いがいっそう鮮明になると思います。
by sabasaba13 | 2017-07-15 06:19 | | Comments(0)
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