関東大震災と虐殺 61

 それではかつて虐殺を、そして戦争を生みだした制度・社会構造・価値観は払拭されたのでしょうか。強大な力を持ちながらも、結果責任や説明責任を果たそうとせず、不都合な事実を隠蔽する国家権力。他国・植民地・弱者を犠牲にした飽くなき利潤追求と経済成長。それと通底する人権の軽視と差別。国家=民族や中間集団に個人が埋没し、思考や判断を委ねてしまう集団主義。思考することを億劫がる反知性主義。組織的な残虐性。モラル・バックボーンの欠落。

 残念ながら十全には払拭されていないと結論せざるをえません。あるものは隠微な形で、あるものはおおっぴらに、今も息づいていると考えます。とても網羅はできないので、思いつくままにいくつか挙げてみましょう。無責任かつ隠蔽を体質とする国家権力の有り様の例は数多ありますが、特定秘密保護法の制定と福島原発事故を挙げればよいでしょう。また関東大震災時の虐殺を、いまだに調査せず謝罪もせず補償もしないこともその一例ですね。弱者を犠牲にした経済成長路線も、水俣病などの公害、格差社会、福祉の切り捨て、ブラック企業、TPPへの固執といった現象を見る限り変更されていません。人権の軽視と差別も徐々に改善されてはいますが、いまだ不十分でしょう。『戦争の克服』(阿部浩巳・鵜飼哲・森巣博 集英社新書0347)の中で、森巣氏はこう指摘されています。
 ここ数年で、国連の人種差別撤廃委員会から人種差別にかかわり九回も勧告を受けた先進国は、日本だけです。驚くべきことに、日本の新聞は、それを数行の記事で済ませちゃう。テレビにいたっては、まったく報道しない。だから多くの日本人は、日本にはレイシズムがないと思っている。とんでもない話ですよね。(p.114)
 集団主義については、国家による個人への締め付けと抑圧は多少弱体化しましたが、学校と会社という中間集団によるそれはさほど減じていないと思います。「社畜」「ブラック企業」「いじめ」「体罰」といった現象も、中間集団への個人の埋没と隷従という視点から理解できます。これは組織的残虐性と関連するでしょう。反知性主義についても、不平等や階層間格差の拡大の是認、個人の自由の制限と国家による秩序管理の強化、軍事力による抑止重視、歴史修正主義や排外主義の主流化といった自民党の政策に人びとの支持がある程度集まっている現状を見ると、相当に浸透しているようです。(『右傾化する日本政治』 中野晃一 岩波新書1553  p.177~8) モラル・バックボーンの欠如については、原発事故によって故郷を追われた10万人の被災者の方々を思い起こしましょう。中には職業を無くし、家族がバラバラにされ、健康不安をかかえ、先の見えない生活に疲弊している方も覆いのですが、「復興のさまたげになる」「風評被害になる」とのことで、健康被害も口にできません。
by sabasaba13 | 2018-01-11 06:25 | 関東大震災と虐殺 | Comments(0)
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