堀文子展

 新逗子駅から20分ほどバスに乗ると、神奈川県立近代美術館葉山館に着きました。私は以前に「ベン・シャーン展」を見に来たことがあるのですが、山ノ神ははじめてです。おっどこかで会ったことがある二人組がいます。そうだ、今はなきカマキン(神奈川県立近代美術館鎌倉館)にいたイサム・ノグチ作の「コケシ」です。よかった、こんな風光明媚な場所で余生を過ごせるんだね。御慶。受付で入場料を支払おうとすると、「三浦半島1DAYきっぷ」をもっているので100円割引となりました。こいつは冬から縁起がいいわいpart5。

堀文子展_c0051620_14312546.jpg それでは「堀文子展」を拝見しましょう。美術館の公式サイトから紹介文を転記します。
 未知のものを求め、自然と生命を描きつづける日本画家・堀文子の清新な世界を紹介する展覧会です。初期作品や絵本の原画をはじめ、メキシコ、イタリア、ネパールなど世界各地への旅や、四季と草花のうつろいを描いた代表作を展示し、その芸術と人間像に迫ります。
 寡聞にして知らなかった日本画家ですが、素晴らしい数々の絵に出会えて幸福でした。購入した図録によると、1918(大正7)年生まれ、よってこの展覧会開催時には99歳、白寿です。父親の反対を押し切って女子美術専門学校(現/女子美術大学)日本画部に入学。美術に自由を求めた彼女は、官展からは距離を置き、権威におもねらない姿勢を貫きました。

 どの絵からも、自然や動植物に対する愛情と畏敬が伝わってきます。澄んだ色調、自由な構成、そして的確な描写力に見惚れてしまいました。また海外に長く滞在したこともあり、異国の自然や人びと、異文化に対する飽くなき興味と敬意にも心打たれます。
 特に気に入った絵は三枚。まずは「トスカーナの花野」(1990)。起伏に富んだトスカーナの沃野、たちならぶ糸杉、そして百花繚乱に咲き乱れる花々、見ているだけで夢心地となりました。彼女の言です。
 二枚目は「霧氷」(1982)。彼女が住んでいた軽井沢の風景でしょうか、朝霧のなかに、霧氷を美しく纏った木々が描かれています。彼女の言です。
 厳冬の二月。この木の梢は、精緻なガラス細工に変るのだ。夜の中(うち)に、レースをかけたように細い枝が氷に包まれ、朝日を浴びて輝く霧氷の森となる。その神々しさは此の世のものではない。陽が昇るにつれ、枝のガラスはキラキラと身を躍らせ散り落ちる。歩く度に氷の梢が虹色に変り、ふりしきるガラスの糸に見とれて、私は気もそぞろに歩き廻る。
 三枚目は「アフガンの王女」(2003)です。図録の解説によると、ユニセフ親善大使をつとめる黒柳徹子から送られた絵葉書をもとに描いた絵です。山ノ神曰く、「徹子の部屋」にこの絵が飾られているとのこと。そういえばそこはかとなく彼女に似ています。青を基調とした美しい.っ民族衣装を着て、こちらを見つめる凛とした女性。心に残る一枚です。注目したいのは、この絵が2003年に描かれたということです。2001年9月11日の米国同時多発テロ事件を受け、アメリカ合州国を中心とする北大西洋条約機構(NATO)がアフガニスタン戦争を始めたのが2001年10月。その二年後に描かれたのですね。無辜の人びとを苦しめる戦争、その戦争を引き起こした国々の指導者、それを支持した国民に対する、無言の厳しい抗議を感じます。

 海が見えるレストランに入って珈琲を飲みながら一休み。ベランダに出ると、空を真っ赤に染め上げる美しい夕映え、そして海の向こうには夕雲を纏った富士のシルエットがよく見えました。

 松輪サバ、海、猫、富士山、堀文子、三浦半島1DAYきっぷ、いろいろな良きものに出会えた良き一日でした。

 本日の四枚です。
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by sabasaba13 | 2018-01-22 14:33 | 美術 | Comments(0)
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