そして平安神宮神苑へと歩いていきました。そう、お目当ては、谷崎潤一郎の『細雪』にも登場する紅枝垂れ桜です。寒竹泉美氏の「
古都の影」で紹介されているので、引用します。
土曜日の午後から出かけて、南禅寺の瓢亭で早めに夜食をしたため、これも毎年欠かしたことのない都踊を見物してから帰りに祇園の夜桜を見、その晩は麩屋町の旅館に泊って、明くる日嵯峨から嵐山へ行き、中の島の掛茶屋あたりで持って来た弁当の折を開き、午後には市中に戻って来て、平安神宮の神苑の花を見る。(中略) 彼女たちがいつも平安神宮行きを最後の日に残しておくのは、この神苑の花が洛中における最も美しい、最も見事な花であるからで、圓山公園の枝垂桜がすでに老い、年々に色褪せて行く今日では、まことにここの花を措いて京洛の春を代表するものはないと云ってよい。
あの、神門をはいって大極殿を正面に見、西の廻廊から神苑に第一歩を踏み入れた所にある数株の紅枝垂、―――海外にまでその美を謳われているという名木の桜が、今年はどんな風であろうか、もうおそくはないであろうかと気を揉みながら、毎年廻廊の門をくぐるまではあやしく胸をときめかすのであるが、今年も同じような思いで門をくぐった彼女たちは、たちまち夕空にひろがっている紅の雲を仰ぎ見ると、皆が一様に、 「あー」と、感歎の声を放った。
「あー」と言いたかったのですが、残念ながら八分咲き。それでも十二分に奇麗なのですけれど、ぜひ満開のころに訪れたいものです。
なおこちらのお庭も、小川治兵衛(植治)の作庭によるものです。よろしければ、以前に掲載した
訪問記をご照覧ください。
本日の三枚です。