セシル・マクロリン・サルヴァント頌

 『週刊金曜日』のCD評で、セシル・マクロリン・サルヴァントという若きジャズ・ボーカリストの存在を知りました。さっそく紹介されていた、グラミー賞最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞に選ばれたアルバム「ドリームス・アンド・ダガーズ」を購入して聴きましたが、これがなかなかいける。近々来日して、「ブルーノート東京」でライヴを開くとのこと、ぜひ聴いてみたいですね。そういえば、最後にジャズの生演奏を聴いたのは、大学生のときに新宿の「ピットイン」以来です。最近合唱にはまっている山ノ神を誘ったら快諾、ジャズ・ボーカルにも興味があるようです。チケットぴあでチケットを購入したところ、お店に電話を入れて整理番号を得るとのことでした。連絡をしたところ、開演一時間前に来店して整理番号順に席を選べるとのことです。なるほど。でも一時間も店の中でぼーっとしているのもなんですし、近くに面白い場所はないでしょうか。インターネットで所在地を調べてみると、ぬぅわんと、すぐ隣が根津美術館、歩いて行ける距離位に青山霊園があります。時は3月24日、例年より早く東京では桜が満開になりつつあります。青山霊園で桜並木を愛で歴史上の人物のお墓を掃苔し、「ブルーノート東京」に行って席をおさえ、桜に期待して根津美術館のお庭を徘徊し、店に戻ってサルヴァントのライヴを聴く。おお、巨大な連関が音を立ててつながった。がしゃん。

 当日、すこし早めに家を出ようとすると、「きゃージャズ・クラブなんて初めて、何着ていこうかしら何着ていこうかしら」とはしゃぐ山ノ神。お召し物の選択に時間をとられ、出立の時刻が大幅に遅れてしまいました。せんかたない。掃苔は後日にゆっくりすることにして、まずは青山霊園の見事な桜並木を遊歩。その途中で小村寿太郎と川上操六のお墓を偶然見つけることができました。
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 そして十分ほど歩いて「ブルーノート東京」へ、地下へ降りる階段のあたりに所狭しと貼ってあるジャズメンの写真に血沸き肉躍ります。
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 フロントで整理券をもらって順番を待ち、さらに地下へ降りると意外に広い空間でした。さてどこに座ればよいか、係の方にお薦めの席を訊ねると、やはりステージ近くで歌い手を間近に見られる席がよいでしょうと案内してくれました。「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」(『徒然草』第52段)ですね。開演まで退席すると係の方に告げて再入場券をもらい、すぐ近くにある根津美術館に行きました。隈研吾の設計による竹を使った印象的なエントランスを抜けて、館内へ。「香合百花繚乱」という企画展が開催されていましたが、時間がないので庭園だけ見ることにしました。起伏のある池泉回遊庭園で、都心とは思えないほどの静寂な雰囲気に満ち満ちています。残念ながら桜は少なかったのですが、心洗うような緑、爽やかな潺の音、鳥の声と風の音を楽しみました。
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 開演直前に「ブルーノート東京」に戻って席に着き、ジャマイカン・ジャークチキン、パスタ、シーザーサラダ、ビールを注文。不味くはないのですが、いかんせん値段が高い。次は、食事は違うところでいただいて、飲み物だけ注文することにしましょう。各テーブルには著名なジャズマンのプレートがありますが、われわれのテーブルにあったのはゲイリー・バートン。こいつは春から縁起がいいわい、私の大好きなヴィブラフォン奏者、チューリヒでライブ録音された「チック・コリア&ゲイリー・バートン・イン・コンサート」は愛聴盤です。用を足しにトイレに行くと、男女表示は音符。でもなぜ男性が四分音符で女性が八分音符なのでしょう? 女性は半人前ということですかい。
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 席に戻ってビールを飲みながらパスタを食していると、伴奏のアーロン・ディール(p)・ポール・シキヴィー(b)・カイル・プール(ds)を従えて、セシル・マクロリン・サルヴァント(vo)の登場です。ハイチ人の父とフランス人の母のもと、米国フロリダ州マイアミで誕生。5歳でピアノを始め、21歳の時に「セロニアス・モンク・コンペティション」のヴォーカル部門で優勝。2015年リリースの『フォー・ワン・トゥ・ラヴ』はグラミー賞の最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞に輝いた気鋭のヴォーカリストです。貫頭衣のようなシンプルなワンピースとサンダル履き、リラックスした雰囲気ですが、その恰幅の良さには驚きました。大学生の時にオーケストラの先輩が「腹も楽器のうち」とよく言っていましたが、なるほど、声がよく響きそうです。
 そして歌が始まりましたが、一曲目から♪身も心も♪惹きこまれてしまいました。素晴らしい… 艶やかで張りのある声、伸びる高音と響く低音、気持ちのこもった節まわし。これぞジャズ・ボーカルという醍醐味を堪能しました。それに加えてバックをつとめるピアノ・トリオがお見事、サルヴァントの歌声を際立たせようと、隅々まで神経を使った繊細な演奏でした。なかでもカイル・プールのドラムがいいですね。ブラシやリム・ショットなどの多彩な小技を駆使したり、スティックを持つ位置を変えたりマレットを使ったりして、単調になりがちな太鼓の音に彩りを添えています。
 ニュー・アルバムを中心とした選曲で、スタンダード・ナンバーが少なかったのがすこし残念でしたが、十二分に楽しめました。アンコールで歌ってくれたのは、ア・カペラによるショパンの「別れの歌」。涙がにじむくらいに胸を打たれました。
 山ノ神もご満悦の様子。♪When you're smilin' The whole world smiles with you♪ 彼女の歌を、そしてジャズの生演奏を、また聴きに来るぞと、♪俺の闘志がまた燃える♪のでした。
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by sabasaba13 | 2018-04-23 08:11 | 音楽 | Comments(0)
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