望月衣塑子講演会

c0051620_21492128.jpg 『武器輸出と日本企業』(角川新書)を読んで以来注目してきたのですが、東京新聞社会部記者の望月衣塑子氏が、最近脚光を浴びるようになってきました。嬉しいことです。木で鼻を括ったような、上から目線の、誠意の「せ」の字も真摯の「し」の字も感じさせない、傲岸不遜な態度の菅義偉官房長官を舌鋒鋭く問い詰める場面には、思わず快哉を叫びたくなります。
 その彼女を支えているのは、真実を隠そうとする政治家や官僚に対する怒りだと思います。最近読んだ『新聞記者』(角川新書)の中で、望月氏はこう述べられていました。
 …500回以上の官邸会見を見続けてきた南記者によれば、会見で手を挙げているのに、内閣記者会の記者が質問を打ち切るという光景は、いまだかつて見たことがないという。
 なぜ同じ記者が打ち切るのか…
 信じられない思いで取材してみると、おどろくような事実がわかってきた。
 8月下旬、菅長官は幹事社を通じて菅番の担当記者に、会見時間を短縮したいとの趣旨を打診してきたという。番記者は「時間制限はできない」と突っぱね、要求は呑んでいないというが、あと「〇人」「あと〇回」と官邸の広報官が質問を打ち切っているのを認めているのが現状だ。
 これは、メディアの自殺行為ではないか。
 あまりの出来事に呆然とし、愕然とした気持ちで涙があふれそうになった。日本のメディアの限界なのかと足が震えるほどの衝撃を受けた。
 さらに、事前に質問を渡すことも本格化しているように思える。この手法は以前からあり、官房長官会見に限らないが、最近は菅長官が手元のペーパーを見ながら答えることがほとんどになってきた。これをシャンシャン会見といわずになんというのか。
 以前私は、前川事務次官に対する「教育者としてあるまじき行為…」という非難の言葉までも菅氏が下を向いて発していたので、思わずこう聞いてしまった。
 「事前に準備されたペーパーを読み上げているのですか」
 すると菅氏が怒りをあらわにこういった。
 「あなたにそんなことを答える必要はない」
 このごろは最初から手を上げてもぜんぜん指名してもらえない。挙手しているのが私しかいなくなると、やっと当てられるという状況だ。(p.185~7)
 呆然、愕然、涙、衝撃。氏の熱い思いが伝わってくる一文です。詩人の茨木のり子氏が、詩歌とは"喜怒哀楽"を表現するものだが、日本の詩歌にもっとも欠けているのは"怒"だとおっしゃっていました。これはジャーナリズムにも言えるのではないでしょうか。真実を隠蔽する権力者への怒りが、ジャーナリズムの根幹にあるべきだと考えます。

 その望月衣塑子氏が、練馬文化センター小ホールで講演会を行なうという耳寄りな知らせが届きました。これは是非聞きたいものです。山ノ神といっしょに駈けつけました。
 嬉しいことに小ホールはほぼ満席、残念なことに若者の姿があまりありません。韓国でも、香港でも、台湾でも、若者は社会や政治に強い関心をもって闘っているのになあ、残念だなあ。

 そして望月氏の登壇。さあどんな語り口で報道について述べてくれるのでしょう。キャリア・ウーマンのような冷徹で抑制的な語り口かな、と勝手に予断をしていたのですが… 飛んでも八分歩いて十六分。その早口、声のでかさと張り、大げさな抑揚、迫力、まるでMG08重機関銃のようです。それに加えて、手ぶり身振り顔振りをまじえたオーバー・アクション。いやはや圧倒されました。
 肝心の内容ですが、「記者として私のテーマ」として「権力側が隠そうとすることを明るみに出すこと!」を挙げられていました。また取材で感じていることは「記者会見の発表は、当局に都合のいい事実」「不都合な真実は隠したい」「キーマンを見つけ、何度も聞く」「嘘をつかれて当たり前」「隠すことにすべての関係者が納得しているわけではない」「だんだん嘘と真実の見分けがつくように」と、現場で場数を踏んだ記者でなければ言えない言葉ばかりでした。
 中でも一番印象的だったのが、官僚たちがメディアを恐れていること、政治家はそれに加えて選挙を恐れていることです。ある防衛官僚のところへ取材に行って、「あんな記事を書きやがって!」「あなたは国防がわかってない」と恫喝されたそうですが、その際、その官僚がいかに「東京新聞」を隈なく丁寧に読んでいるかがわかったそうです。「東京新聞の一番の愛読者は防衛官僚のみなさん」と笑っておられましたが。官僚諸氏は、自分たちの政策や発言がどう報道されるのかについて、ほんとうに細心の注意を払っておられるのですね。
 政治家については、9月30日の沖縄県知事選の敗北で、官邸の空気が一変したと紹介されていました。
 真実を伝える報道によって正確な判断をして、少しでもまともな候補者に一票を入れる。"愚者の楽園"に堕したこの国を立て直すための直近の道はそれしかないと痛感しました。頑張れ、望月さん。

 第2部のパネルディスカッションでパネラーとして登壇したのが猿田佐世氏(弁護士)です。シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)として、さまざまな外交・政治問題について、ワシントンにおいて米議会等にロビイングを行う他、国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施されている方です。つい最近、氏の著『自発的対米従属』(角川新書)を読んだばかりでしたので、どんな話を聞けるのか楽しみにしていました。
 望月氏を"動"とすれば、猿田氏は"静"。ひとつひとつの言葉を吟味しながら、理性的に話す冷静沈着な語り口が印象的でした。望月氏とのあまりの違いに思わず緩頬。
 内容については、前掲書をほぼ踏襲するものでしたので、引用します。
 典型的な「アメリカの声」の発信源となってきたアメリカの知日派は、アメリカの中の少人数の集まりにすぎない。しかも、その限られた人たちに情報と資金、そして発言の機会を広く与え、その声を日本で拡散しているのは日本政府であり日本のメディアである。日本の既得権益層が、いわば一面「日本製の"アメリカの外圧"」ともいえるものを使って、日本国内で進めたい政策を日本で進める-。これが長年続いた手法となっているのである。このように、日本も関与したアメリカからの外圧作りを私は「ワシントンの拡声器効果」を利用するものと表現してきた。(p.9)
 この「日本製の"アメリカの外圧"」を破砕するためにも、外交を政府の専権事項と決めつけるのではなく、さまざまなチャンネルを通した外交が必要という主張には納得しました。

 望月氏の報道と猿田氏の活動、これからも注目していきたいと思います。

 追記。望月氏のレジュメに次の一文がありました。
ニュース23での質問で…
加計問題で「利害関係者と頻繁にゴルフ好ましくないのでは?」
安倍首相「ゴルフに偏見をもっておられると思います。ゴルフはオリンピックの種目にもなっていますから。ゴルフはダメで、テニスや将棋は良いのか」…
 また猿田氏の前掲書からも引用します。
 2016年4月7日の衆議院TPP特別委員会で、民進党の柿沢未途議員はこの点を突き、かつては断固反対と言っていたTPPに活路を見出そうとしているのではないか、と阿部首相に質問した。
 すると安倍首相は、こう答えたのである。
 「私自身は、TPP断固反対などと言ったことは一回も、ただの一回もございませんから。まるで私が言ったかのごとくの発言は慎んでいただきたい」
 しかし、2012年12月の総選挙で「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」のスローガンを掲げたとき、安倍氏は自民党総裁だったのである。このような詭弁が許されるだろうか。(p.107)
 嗚呼、こんな暗愚な嘘つきが日本の首相なのか… そして彼に、彼が率いる政党の候補者に一票を入れる有権者は…

 本日の二枚です。
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by sabasaba13 | 2018-10-24 06:25 | 講演会 | Comments(0)
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