「亀も空を飛ぶ」

c0051620_2252186.jpg 岩波ホールで「亀も空を飛ぶ」という映画を見てきました。監督はバフマン・ゴバディ、イランとイラクによる共同制作作品です。トルコとの国境に近いイラク北部クルディスタン地方の小さな村が舞台です。イラン・イラク戦争や湾岸戦争で荒廃した村で暮らす、親を失ったクルド人孤児や難民の子どもたちが主人公です。時は2003年春、そうアメリカによる攻撃が始まる直前の時期ですね。孤児たちのリーダーがアメリカへの憧れを抱くサテライトという少年です。そこに現れたのが、クルド人難民の兄妹。兄は地雷で両腕を失い、妹はイラク兵に強姦されて子どもを出産しています。目の不自由なその子をいたわる兄と、憎悪する妹… サテライトは彼女に恋心をいだきますが、やがて悲劇的な破局がおとずれます。

 映画を見る喜びの一つは、見知らぬ土地の見知らぬ人々の暮らしを追体験できるということです。迫害を受け続けているクルド人に、戦争がどのような傷跡を残したのか。村のいたるところに戦車の残骸や薬莢がころがり、市場には武器があふれ、対人地雷が村の周囲を埋めつくしています。そうした中で孤児たちは、対人地雷を掘り起こして商人に売るなど必死に生きていきます。解説で知ったのですが、こうした地雷を国連が回収し、それが武器産業に回されリサイクルされて新しい地雷となり、また各地に埋められていくそうです。何という絶望的な連鎖。イラクが今どういう状況にあるのかを知るためにも、是非多くの人々に見てほしい映画です。特に自衛隊をアメリカ軍の傘下におき、海外での戦闘に従事させたいと考えている方々に見てほしい。重く厳しい映画ですが、子どもたちの逞しさが一縷の希望を与えてくれます。こうした子どもたちを救おうとしていた高遠菜穂子さんが人質になった時に、凄まじい中傷にあったことは記憶にとどめておきましょう。あの時ほど、人間を人間たらしめている知性とか理性とかモラルを欠落させた人が、日本人の中でいかに増えているか痛感したことはありません。

 それにしても、戦時における強姦と対人地雷のおぞましさには慄然とします。前者は上層部による命令である可能性もありますね。生まれた子どもをめぐる不協和音や対立を生じさせて、敵側のコミュニティを破壊する意図があるのではないか。また後者は、あえて生命を奪わず手足を失わせる程度の威力におさえて、被害者を支えるための負担を周囲に負わせ、そして敵側の経済力や軍事力にダメージを与えるのが狙いでしょう。人間の善意につけこんだ悪魔の兵器です。なお自衛隊も百万個ほど保有しているそうですね、どこに埋めるつもりなんですか。そのうちどの程度までが日本製なのかも知りたいところです。

 また直接映画には描かれていませんが、劣化ウラン弾による被害も心配です。湾岸戦争で投下された劣化ウラン弾の影響が、5年間の潜伏期間を経てあらわれ、小児ガンや先天性異常の発生率が急増しているとのことです。イラク戦争ではその二倍の劣化ウラン弾が使用されたので、2008年以降に影響が出ることが懸念されています。あるイラク人医師の叫びです。
 助けてください、医師として辛い毎日を送っています、病気の子どもたちを救えないのです。…病院はベッドも天井も壊れたまま、ない、ない、ない物だらけです。点滴セットも、注射針も、注射薬も、飲み薬もみんな足りません。…助けてください、イラクの子どもたちにも未来をください。
 イラクに対して凄絶な国家テロを行い子供たちの未来を奪いつつあるアメリカとイギリス政府、そしてその片棒をかつぐ日本政府の諸氏は、この言葉をどう受け止めるのでしょうか。そして数百億円の税金を使ってわずかな水を配っている、イラク駐留の自衛隊。この事実だけでも政府は、人道支援を本気で行うつもりはさらさら毛頭ないということがよくわかります。自衛隊を即時撤退させ、数百億円の医薬品や医療機器、そして放射能障害にくわしい医師団を派遣したほうが、どれだけイラクの人々が喜ぶことか。想像力の「そ」の字くらいあるでしょう、ぜひ日本政府は考えてほしい。ま、アメリカ政府は嫌がるでしょうけれどね。

 なお両腕のない主人公には予知能力があり、イラク戦争の開始なども予言します。その彼が、開戦の275日後にまた何かが起こるとサテライトに告げたところで映画は終わります。2003年12月22日頃がその日に当たるのですが、調べても何が起きたのかわかりませんでした。ぜひご教示ください。

c0051620_22532820.jpg ふうっ 軽くため息をつきながら、山ノ神と夕食をとりました。このあたりは、餃子の「スヰートポーヅ」、洋食の「キッチン南海」、ロシア料理の「ろしあ亭」と、私好みの店が多々あるのですが、中華料理の「揚子江菜館」を選択。ひさしぶりに上海肉絲炒麺(上海式肉焼そば)を堪能しました。シンプルで深みのある味つけとコシのある細麺の絶妙なバランスには、ぞっこん惚れこんでいます。この玉葱ともやしと木耳の下に、至福の細麺が隠れているのですよ。

 追記 イラク医療支援を行っている日本のNGOや関心のある日本・イラク両国の医師たちが立ち上げたJIM-NET(日本イラク医療支援ネットワーク)という組織があるそうです。
● 日本イラク医療支援ネットワーク http://www.jim-net.net 
by sabasaba13 | 2005-10-31 06:05 | 映画 | Comments(4)
Commented by みどり at 2005-11-03 13:32 x
はじめまして。
映画「亀も空を飛ぶ」、まだ見ていませんがぜひ見たいと思っています。
今朝、新聞の解説記事をアップしました。
TBさせていただきますので、よかったらご覧ください。

Commented by sabasaba13 at 2005-11-03 16:34
 こんにちは、はじめまして。ブログと上野千鶴子氏の映画評を拝見いたしました。フセイン政権が使用した毒ガスの影響による失明者が多いという事態には、うかつにも気づきませんでした。ほんとうに一人でも多くの人に見てほしい映画です。そして日本政府と自衛隊がイラク情勢にどのような形で加担しているのか、本気で考えるきっかけになってほしいと思います。イラクの人々が、今何をもっとも望んでいるのか、そろそろ気づかなければ。小泉軍曹、ぜひ見に行ってくださいね。
Commented by 泉田 at 2007-03-04 12:23 x
昨日、みたか平和映画祭でこの映画をみました。
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/a002/p001/g05/d00100025.html
「275日後にまた何かが起こる」
これについてここで話をしても良いでしょうか?
私もこの数字については気になり、いろいろと調べてみました。
イラク戦争開戦
2003年3月19日 - 米英軍による空爆「イラクの自由作戦」を開始。
2003年12月13日 - イラク中部ダウル(Ad-Dawr)でフセイン大統領を拘束。
この間の日数がちょうど275日になっていますね。
Commented by sabasaba13 at 2007-03-04 16:50
 こんにちは。映画祭のHPを拝見しました。素晴らしい映画が勢ぞろいですね、三鷹市民の高い知性に感服します。「GAMA 月桃の花」はぜひ見てみたい映画です。
 「275日後の件」、ご教示をありがとうございました。納得しました。彼の次の予言を知りたいですね。
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