『共犯者たち』

c0051620_2234570.jpg 『しんぶん 赤旗』(2018.12.1)の「潮流」というコラムに、次のような記事がありました。
 自由や権利は、国民の不断の努力なくして保持できない。1日公開の韓国映画「共犯者たち」(東京・ポレポレ東中野)で教えられました▼李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政権と韓国で2代続いた保守政権による言論弾圧と、それへの反撃を描いたドキュメンタリー映画です。ここでいう共犯者とは、権力の"飼い犬"になった二つの公的放送局KBSとMBCの幹部たち。主犯は大統領(当時)です▼暗黒の時代は、約9年間にわたりました。政治介入の始まりは2008年。米国産牛肉の輸入問題の報道で、李政権が大打撃を受けたことがきっかけです。まず社長を解任し、政権の意のままになる社長を送り込む。調査報道チームを解散する一方で政権の広報番組を開始。弾圧はすさまじく警察も動員されます▼その過程で犠牲になったのは、"真実"です。朴政権の下、二つの放送局は修学旅行中の生徒ら約300人が犠牲となったセウォル号惨事を「全員救助」と誤報。「国家の私物化事件」でも真実を隠ぺいする偏向報道が続きました▼映画のエンドロールで報道の自由のためにたたかって懲戒されたジャーナリストたち約300人の名前が流れます。MBC労組は放送の正常化を求めて170日間のストライキ。チェ・スンホ監督自身、MBCを不当解雇された一人。現在はMBCの社長として改革に着手しています▼映画は朴政権の誕生と同時に生まれた独立メディアが製作。市民の寄付で完成しました。市民とジャーナリストの連帯。学ぶことは多い。
 『タクシー運転手』や『1987、ある闘いの真実』など、過去の国家犯罪を暴いた硬骨の映画が作られ、市民によって支えられる韓国から、また凄い映画が生まれました。これは山ノ神をし…もとい、山ノ神と一緒に是が非でも見にいかなければ。残念ながら彼女は所用のため同伴できず、やむを得ず一人で「ポレポレ東中野」に行きました。なおチェ・スンホ監督によるもう一本の映画『スパイネーション/自白』が次の回で上映されます。こちらも国家犯罪を告発する骨太の映画だそうなので、一気に二本見ることにしましょう。

 マスコミに質問されるのを恐れ、煩わしく思い、言論を弾圧する「主犯」である大統領、権力に迎合して韓国の報道を骨抜きにした放送業界内の「共犯者たち」。未来のため、子どもたちのために、それらと闘うジャーナリスト、その闘いを支える市民。その一部始終を描いた見事な映画でした。しかも、「主犯」「共犯者」はすべて実名・実写でカメラの前に立たされます。凄い… 日本では考えられないですね。この映画を観客に公開する理由を、チェ・スンホ監督はインタビューの中でこう語っています。
 もう少し長期的な理由としては、どんなにマスコミを掌握しようとしても、結局は失敗に終わるしかないことを記録に残し、教訓にしたいと思うからです。今後、どんな権力であれ、マスコミを掌握しようとしたら、待ち受ける結果は、権力自身の凄惨な失敗に終わるしかないということです。
 権力による言論弾圧の事実と実態を、そしてそれがいかに惨めな失敗に終わるかという教訓を、後世のために記録として残そうとする強い意思と熱い意欲をびしびしと感じます。一番心に残ったシーンは、MBC労組副委員長としてストライキを牽引したキム・ミンシクの行動です。朴槿恵政権による"天下り" MBC社長キム・ジャンギョムが行なった報道局への介入に怒ったキム・ミンシクは、MBC社屋の中で、"キム・ジャンギョムは出ていけ"と叫ぶ姿を動画で自撮りしてFacebookで生中継します。帰宅後、「あんなことをして何になるの」と妻に詰られる彼。しかし翌朝出勤すると、社屋の中では、数十人の仲間たちがスマートフォンを片手に"キム・ジャンギョムは出ていけ"と叫ぶ姿を自撮りしているのでした。いやあ涙腺が決壊しそうでした。「闘っている者を孤立させない」、勝利への第一歩ですね。
 自由と民主主義を自分たちの力で勝ち取った韓国の人びと、またあらためて敬意を表します。それにしても、こうした動きを日本のマスコミは何故大々的に報道しなかったのでしょうか。言論の自由を守るために、国境を越えて連帯の姿勢を見せてもよさそうなものなのに。「共犯者」である自分たちの立ち位置を恥じたからなのでしょうか。頑張れ、日本のジャーナリスト。映画のチラシに「記者が黙った 国が壊れた」と記されていましたが、これ以上この国を壊さないためにも。

 なおわが敬愛する日本のジャーナリストや知識人たちが、この映画に熱いオマージュを捧げていたので紹介します。
加藤直樹 (ノンフィクション作家)
 政府によるメディアへの介入に対して、生活を賭けても拒否しようとする現場のテレビマンたちと、権力に追従する経営幹部たちの、9年にわたる対決の記録。「公正な報道」とは何か。「共犯者」とは誰なのか。垣間見える一人ひとりのドラマからも目が離せない。

森達也 (映画監督/作家)
 メディアは危険だ。でも僕たちはメディアを手放せない。ならば対抗策は一つ。メディアを以てメディアを制す。これができるかどうかに、国の存亡がかかっている。

三上智恵 (映画監督/ジャーナリスト)
 主犯は政権のトップ、共犯者は権力に擦り寄った放送局員。どの国のテレビ局もこの罠にはまりかねない。しかし局を叩き出された人間が、メディアは民主主義の砦と信じて闘い挑む姿に、元放送マンの血が騒ぎ、涙が溢れてくるのを止められなかった。

小熊英二 (歴史社会学者)
 厳しい状況を乗り切るユーモア、知性と誠実さの共存、自分と他人を信じる力。長い民主化を経験してきた社会が持つ、直情的なほどの「まっとうさ」が光る。

望月衣塑子 (東京新聞記者)
 大統領による露骨なメディア介入に屈する韓国大手メディアの"共犯者"たち。だが、反骨の記者たちは、自らの存在意義をかけ、腐敗を許さず、マイクを向け続けた。これは"対岸の火事"ではない。

by sabasaba13 | 2018-12-24 09:30 | 映画 | Comments(0)
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