「BALLUCHON」

c0051620_1456755.jpg ジャズが大好きですが、専門誌を読んで新譜を追いかけるほどではない、へたれな愛好家です。主に参考にしているのは『週刊金曜日』の音楽評、時々素敵なジャズ・アルバムを紹介してくれるので重宝しております。ビル・エヴァンスの『アナザー・タイム』も本誌で知りました。
 この音楽評で紹介されていたのが、小川理子(みちこ)氏の最新ジャズ・ピアノ・アルバム『BALLUCHON(バルーション)』。何と彼女は、パナソニック株式会社で執行役員とアプライアンス社副社長・技術本部長の要職にあり、さらに日本オーディオ協会の会長も務めるなど、日本の家電・オーディオ業界を牽引している方だそうです。選曲は、2018年に生誕 120 周年を迎えたジョージ・ガーシュインの作品と、2019 年に生誕120 周年を迎えるデューク・エリントンの作品を中心としたスタンダード・ナンバー。そしてレーベルは、オーディオ評論家の潮晴男氏と麻倉怜士氏が運営する「ウルトラ・アート・レコード」、音質も期待できそう。A面は麻倉怜士氏がプロデュースし、メンバーは浜崎航(ts・fl)、中平薫平(bs)、吉良創太(ds)。B面は潮晴男氏がプロデュースし、メンバーは田辺充邦(g)、 山村隆一(bs)、バイソン片山(ds)。アナログ・レコードを意識した構成になっています。

 うわお、ご機嫌なアルバムでした。一聴、驚いたのはその音の美しさとタッチの明晰さです。黒々とねばりつくパワフルな音を期待する方には少々物足りないかもしれませんが、私はこれはこれで楽しめました。まるで真珠のように、ひとつひとつの音の粒が際立ち輝いています。ライナーノートによると、彼女は、3 歳からピアノレッスンを開始、バッハからモーツァルト、ベー トーヴェン、ショパン、リスト、さらには現代音楽まで弾きこなすそうです。コード(和音)の響きが美しいのも、そのクラシック・ピアノを練習した賜物でしょう。それに加えて、スピード感とグルーヴ感がアルバム全体を貫き、思わずスイングしてしまいます。「Oh lady be good」「Love for sale」「In a sentimental mood」「Do nothing till you hear from me」「I got Rhythm」「But not for me」「Take the A train」「C jam blues」「Smile」「Perdido」「Nobody knows the trouble I've seen」「Lady Madonna」、みんな素晴らしい出来ですが、私が一番好きなのが何といってもデューク・エリントンが1935年に作曲した名曲「In a sentimental mood」でした。この曲には、作曲者本人とジョン・コルトレーンによる名演がありますが、それと双璧をなします。上質なタッチと、情感に溢れた即興演奏、しかし感情に流されずに凛とした佇まいが見事。身も心も溶解し、聞き惚れてしまいました。
 また「Do nothing till you hear from me」「Smile」「Nobody knows the trouble I've seen」では、ハスキーな声でヴォーカルを披露してくれます。中でも「スマイル」は私の大好きな曲、しんみりと拝聴いたしました。チャールズ・チャップリンの映画『モダン・タイムス』で使用されたテーマ曲に、ジョン・ターナーとジェフリー・パーソンズが歌詞とタイトルを加えたものだそうです。映画では、少女(ポーレット・ゴダード)とチャップリンが勤めていたキャバレーを解雇され絶望にうちひしがれる彼女を、「笑って」と励ます場面で流れた曲ですね。高校生の時、ラジオから流れたこの曲を聴いて思わずほろりと涙ぐんだ記憶があります。
 なおアルバムタイトルのBalluchon (バルーション)とは、フランス語で「旅立ち」の意味だそうです。彼女がどこまで行くのか、楽しみです。
by sabasaba13 | 2019-01-31 07:43 | 音楽 | Comments(0)
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