弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽

c0051620_21593230.jpg まだ聴いたことがないクラシックの名曲が多々あります。ホルストの「惑星」は先日聴くことができましたが、他にはバルトークの「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」「管弦楽のための協奏曲」、ラベルの「ボレロ」、ムソルグスキーの「展覧会の絵」、ドビュッシーの「ダフニスとクロエ」、シェーンベルクの「グレの歌」、アルバン・ベルクの「ヴォツェック」などなど五指に余ります。
 中でもバルトーク・ベラの曲には心惹かれます。その真摯さとストイックさ、血沸き肉躍る土俗的なリズム、民謡の研究から生まれた情感にあふれるメロディ、気楽に聴ける音楽ではありませんが、時に居住まいを正して無性に聴きたくなります。鈴木雅明氏の指揮による紀尾井ホール室内管弦楽団の第117回定期演奏会で、その「弦チェレ」が聴けるということで、心弾ませながら四谷の紀尾井ホールに行ってきました。バッハ・コレギウム・ジャパンの主宰者にして、J・S・バッハ演奏の第一人者、鈴木雅明氏が、この現代曲にどう演奏するのか、ほんとうに楽しみです。なお山ノ神は野暮用のため同伴できませんでした。
 利休鼠の雨が降る某土曜日、会場に着くと意外なことにほぼ満席。まずは紀尾井ホールをレジデント(本拠地)として演奏活動を行う二管編成の室内オーケストラ、紀尾井ホール室内管弦楽団舞台に登場しました。ソリスト・室内楽奏者として第一線で活躍している器楽奏者、主要オーケストラの首席奏者などで構成されているオケだそうです。そして鈴木氏が白髪をなびかせて颯爽と登場。一曲目はモーツァルトの交響曲第29番、嬉しいなあ私の大好きな曲です。溌剌、清新、歓喜、どう表現すればいいのでしょう、音楽をつくる喜びが詰まった名曲です。なおA・アインシュタインは「小ト短調交響曲(第25番)とイ長調交響曲(第29番)はひとつの奇跡である」と評したそうですが、宜なるかな。演奏も弾けるような小気味のいい、ダイナミクスの変化に富んだ素晴らしい演奏でした。
 そしてオケはいったん退場し、係の方が「弦チェレ」のためのセッティングを始めました。几帳面なバルトークは、楽器の配置まで細かく指示しているそうです。弦楽器群は二つに分けられて識者の左右に配置、中央にはピアノ・チェレスタ・ハープ、そして後方に打楽器群が配置されます。そのテキパキとした機敏な動きを見ているだけで、期待が高まってきました。そしてオケと指揮者が登場、静かに上がるタクト、楽器を構えるオケ、期待と緊張感はピークに達します。
 第1楽章 Andante tranquilloは変拍子の変則的なフーガ。まるで宇宙の誕生のように、ヴィオラの無調性の主題から静かに始まります。そしてマグマが徐々に沸騰するように、主題が重なり、音域が広がり、音量が大きくなり、ティンパニの打撃とともにクライマックスに達して、また静かに冷えていく。冷→熱→冷の変化の妙に、手に汗を握ってしまいました。
 第2楽章 Allegroは一転、躍動的でダンサブルな曲です。指揮者の左右に配置された二つの弦楽器群の掛け合いが何ともスリリング。ピアノや弦楽器によるバルトーク・ピチカートの打撃音に、アドレナリンがびしびしと分泌しました。
 第3楽章 Adagioはまた一転、新月の闇夜のように、身が凍てるような冷たく静かな音楽です。バルトークお得意の、いわゆる「夜の音楽」ですね。闇を引き裂く稲妻のようなシロフォンの打撃音がとても印象的です。
 第4楽章 Allegro moltoはまたまた一転、狂熱の坩堝と化します。挑み合うようにフレーズを交換する二つの弦楽器群、複雑な変拍子にエッジの効いたリズム、咆哮する打楽器、前に前に疾駆するようなドライブ感、めまぐるしく変わるテンポ。「ああずっとこの音楽が続いて欲しい」という願いを断ち切るように、突然音楽が崩れ落ちて曲は終わります。響きが終り静寂が会場に訪れるまで拍手が起こらないほど、聴衆を音楽に集中させた素晴らしい演奏でした。
 それにしても、この氷山のような、マグマのような、夜の静寂のような、狂熱の祭のような難曲を、ノーミスかつ完璧なアンサンブルで、しかもさまざまな気持ちを込めて表現した鈴木氏の指揮と紀尾井ホール室内管弦楽団の演奏に頭を垂れましょう。ブラービ。これまでに私が聴いたコンサートの中で五指に入る名演でした。
 ここで休憩、心身に籠った熱を冷まそうと外へ出て紫煙をくゆらしました。山ノ神がいれば熱っぽくいろいろと語れるのに。やはり一人だと寂しいですね。
 後半はバロック作品を換骨奪胎したストラヴィンスキーのバレエ音楽「プルチネルラ」、声楽パートのある全曲版です。なかなか上手い構成ですね。古典(モーツァルト)、現代(バルトーク)、古典+現代(ストラヴィンスキー)。“厳しさ”を“優しさ”でサンドイッチした構成とも言えます。バルトークの曲で緊張した心身をもみほぐしてくれるような、軽やかで華やかな演奏でした。木管楽器の合奏を演奏者たちに任せて、歌手たちともに椅子に座って演奏を楽しむ鈴木氏。金色の大きな蝶ネクタイをつけて、トロンボーンと二重奏をするコントラバス奏者。その遊び心にも緩頬しました。

 というわけで予想をはるかに超えて楽しめた演奏会でした。鈴木雅明氏と紀尾井ホール室内管弦楽団、また聴いてみたいものです。これからも贔屓にさせていただきます。今度はチャイコフスキーとドヴォルザークの「弦楽セレナーデ」をリクエストします。
by sabasaba13 | 2019-06-30 08:31 | 音楽 | Comments(0)
<< 闇にさらわれて 壁と卵 2 >>