国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」を主催した愛知県が、8月3日に、「平和の少女像」(少女像)が出品された「表現の不自由展・その後」企画展示全体を中止させました。
徴用工問題に加えて、これに関しても感情的な発言がされていますが、やはり事実に基づいて冷静に考えましょう。そもそも作者は、なぜこの少女像をつくったのか。なぜ傍らに椅子を置いたのか、なぜ彼女のかかとは地から浮いているのか。AbemaTIMESによると、『Abema的ニュースショー』が少女像の作者の一人であるキム・ソギョンさんに取材を申し入れたところ、「日本の報道では私たちの正しい意図が伝わっていない」などと取材に応じられない旨、そして、取材を受けないことを詫びる気持ちが書かれた手紙が送られてきたそうです。さらにソギョンさんは「少女像は反日の象徴ではなく、平和の象徴であることを知らせるために展示会への参加を決意した。しかし、日本の報道では(少女像は)反日の象徴として映っていた。不快に思うという人がいるのも事実。しかしその不快さは、河村市長の言う"国民全体の総意"なのかは疑問です」と複雑な心境を明かし、今回の中止の決断に対して反論されたそうです。 この少女像および従軍慰安婦問題については、以前に拙ブログに掲載しましたので、読んでいただけると幸甚です。その第4回で紹介した、作者であるキム・ウンソンさん、キム・ソギョンさん夫妻のことを紹介した「神奈川新聞」(2015.1.28)の記事を再掲します。 いすに腰掛けた等身大の少女像は静かに前を見据える。穏やかな表情は見る者を鋭く射すくめるようにも映る。2011年、韓国・ソウルの日本大使館前に建てられた「平和の碑(少女像)」。旧日本軍の従軍慰安婦を模したもので、日本では「反日の象徴」と反発する向きもある。「悲劇が再び起きないよう平和を願って作った」。韓国人彫刻家、キム・ウンソンさん(50)、キム・ソギョンさん(49)夫妻は込めた思いをやはり静かに語った。間近で見ると、はだしの少女はかかとをわずかに浮かせていることに気付く。膝の上の両の拳はぎゅっと握られ、左肩には黄色い小鳥が乗る。(中略) 一見しただけでは分からないが、かかとはすり切れているのだという。「大変だった人生を象徴している。遠くに連れて行かれ、故国に戻ってきても居場所がない人もいたから」 ソギョンさんが説明を始めた。なぜこの「少女像」に対して過剰な感情的反応を起こす方が多いのか、この話を聞いて、この像を謙虚に見つめているとわかるような気がします。言葉にできないような下劣で卑劣で低劣な犯罪的行為をこの静謐な少女像に糾弾されているようで、心底から怯えているのでしょう。『普遍の再生』(井上達夫 岩波書店)で紹介されている、大沼保昭さんの言葉を再掲します。 過ちを犯したからといって卑屈になる必要はない。過ちを犯さない国家などというものは世界中のどこにもないのだから。しかし、過ちを犯さなかったと強弁することは自らを辱めるものであり、私たちの矜持がそうした卑劣を許さない。私たちの優れた到達点を率直に評価し、同時に過ちを認めるごく自然な姿をもつ国家こそ、私たちが愛し誇ることのできる日本という国ではないか。私はそう思う。(「日本の戦争責任と戦後責任」 『国際問題』 501号 2001年12月号) (p.68~9)そう、自称愛国者の私としては、この日本が過ちを認めない恥知らずな国になってほしくないのです。失敗や過ちから学ぶことをしないから、この国はいまだに失敗と過ちを繰り返し続けているのではないでしょうか。
by sabasaba13
| 2019-08-16 07:35
| 鶏肋
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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