先日、コンサート会場でもらったチラシを見ていると、ブラームスの弦楽六重奏曲第一番とシェーンベルクの「浄められた夜」の演奏会があるそうです。いずれも私の大好きな曲で、特に前者はエア・ハグしたくなるような愛おしい曲です。演奏家については、白寿ホールの公式サイトを引用します。
世界の音楽コンクールの中でもとりわけ難関として知られるARDミュンヘン国際音楽コンクール。1952年以来4年ごとに14回行われてきたその弦楽四重奏部門で、東京クヮルテット、ウェールズ弦楽四重奏団に次いで日本の団体としては3団体目の入賞という快挙を2016年に成し遂げたカルテット・アマービレが、Hakuju Hallで室内楽シリーズをスタートさせます。シリーズの柱に据えて挑むのは、室内楽の王道のブラームスです。その様々な編成による室内楽作品に他の作曲家の作品を加え、折に触れ多彩なゲストと共演しながら室内楽の奥深い魅力を掘り下げていきます。第1回目となる今回は、彼らにとっては恩師にあたり、また桐朋学園の大先輩でもあるチェロの堤剛、ヴィオラの磯村和英、二人の大家をゲストに招きます。演奏するのは、ブラームスの室内楽でも特に人気が高い弦楽六重奏曲第1番、ブラームスに深い尊敬の念をいだいていたシェーンベルクの傑作六重奏曲、そしてシェーンベルクに学び、後には師と共に新音楽を牽引したウェーベルンの青春時代の四重奏曲です。新世代を牽引することが期待されるフレッシュな弦楽四重奏団の挑戦にご注目ください。これは楽しみですね、山ノ神を誘って二人で聴きにいってきました。小田急線の代々木八幡駅で降りて、商店街を五分ほど歩くと白寿ホールに到着です。白寿…"九十九歳"ホール? 不思議な名称ですね。いま、インターネットで調べたところ、電位治療器などを手掛ける白寿生科学研究所が運営を行なっているそうです。音楽を聴いて健康になって長生きしましょう、というコンセプトでしょう。エレベーターで七階にあがると、300席の清楚な雰囲気のホールがあります。なお全席がリクライニングシートで、定員を半分ほどにしてリクライニングで音楽を楽しむ特別はコンサートも開かれるとのこと。一度経験してみたいものです。なおNHKのクルーが巨大なテレビカメラを設置していたので、後日に同局の番組で放映される模様です。 そして舞台に、篠原悠那・北田千尋(ヴァイオリン)、中恵菜(ヴィオラ)、笹沼樹(チェロ)の四人が登場。一曲目はウェーベルンの「弦楽四重奏のための緩徐楽章」(1905)、シェーンベルクやベルクと並んで新ウィーン楽派の中核メンバーであった彼が、シェーンベルクに入門する前後に独力で書かれた初期作品です。はじめて聴く曲でしたが、心身が洗われるような美しく清々しい曲でした。視線や身振りや呼吸を駆使してひとつの音楽をつくりあげる四人のアンサンブルも見事。こうしたアンサンブルを楽しむことが、室内楽の醍醐味ですね。 そして二曲目はシェーンベルクの「浄められた夜」(1899)、十二音技法に走る前に作曲された初期の作品です。この曲から二人の御大が合流しました。若者四人と白髪の老人二人、孫と祖父、生徒と老師といった風情に、思わず緩頬しました。なお恥ずかしながら知らなかったのですが、ヴィオラの磯村和英氏は、かつて東京クヮルテットで活躍された方なのですね。それはさておき、何と幻想的かつ官能的な音楽なのでしょう。三十分間、心を揺さぶられ続けました。そして音楽をがっちりと支える、堤・磯村両氏の骨太の音には脱帽です。先ほどのウェーベルンではさほど気にならなかったのですが、この曲では若者四人の奏でる音の線の細さが耳につきました。しかし技術もあるし音も綺麗なのでどんどん伸びていくでしょう、今後の精進を期待します。ただヴィオラの中恵菜氏はいいですね、全身全霊を音楽に吹き込まんとする姿に見惚れてしまいました。 ここで20分の休憩、うれしいことに9階のスカイラウンジで喫煙ができるそうなので、行ってみました。音楽の余韻で火照った体を夜気でさまし、新宿の夜景と心に潜む闇のような代々木公園を眺めながら紫煙をくゆらせればこの世は天国さ。 そして後半はお待ちかね、ブラームスの「弦楽六重奏曲第1番」(1860)です。弦楽四重奏曲については、ベートーヴェンの残した名作群の重圧により、40歳になるまで曲を発表することができなかったブラームスでしたが、弦楽六重奏曲については、これまで同様の曲種がなかったという気安さから、27歳にして作曲したのがこの第1番です。彼の若々しい清新な感情に満ち溢れた名作で、特に切なく甘美な第1楽章と、激しく抒情的な第2楽章をこよなく愛しております。やはり若手の線の細さがありますが、全体として名演でした。六人が心を一つにしてブラームスの素晴らしい音楽を紡ぎだせる喜びが、こちらにもびしびしと伝わってきます。この曲でも、堤・磯村両御大と中氏の存在感が大きかったですね。第1楽章、ヴィオラとチェロがユニゾンで旋律を奏でるところでは、中氏と堤氏がやや半身になって向き合い、互いを見つめ微笑みながら二重奏をされていました。おじいちゃんと孫娘が仲睦まじく語らっているようなその風情には、羨望すら覚えました。 演奏が終わると万雷の拍手、それに応えてのアンコールは、ドボルザークの弦楽六重奏曲、イ長調、op.48の第三楽章。最後まで、室内楽の喜びを満喫できた、すばらしいコンサートでした。 なおいただいたチラシによると、堤剛氏によるベートーヴェンのチェロ・ソナタ全曲演奏会がサントリー・ホールで開かれるとのことです。これはぜひ聴きたいものです。
by sabasaba13
| 2020-02-04 06:45
| 音楽
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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