さらに十数分歩いて王子稲荷の先にある名主の滝に到着。王子村の名主畑野家が、屋敷内に滝を開き一般の人々に開放したことが嚆矢だそうです。本日の一押しはここですよ、ここ。複数の滝とせせらぎと築山と樹々が濃縮された空間で、狭いながらもマイナスイオンがムンムン充満しております。紅葉した落葉がはらほろひれはれと風に舞い落ち、せせらぎに浮かび流れ、そして水底に錦繍の如く折り重なっています。人影もまばらで、去り行く秋を思う存分堪能することができました。
そして音無川親水公園あたりの紅葉も拝見して、王子駅へ。1930(昭和5)年建築のこの橋は御茶ノ水の聖橋と酷似しています。今調べてみたら、聖橋の建築年は1929(昭和4)年、東京市復興局橋梁課架設で、設計は
山田守でした。旅をしていると時々でくわす、気になる建築家です。
実は王子駅から少し歩いた所に、わが敬愛、そして畏怖するボクサー大場政夫が所属した帝拳ジムがあり、彼が通いつめた喫茶店「ディオンヌ」があります。以前行ったことがあるし、彼のことを思い出すと辛くなるので、今回は割愛しました。とにかく凄いファイターでした。興味のある方は(いないだろうなあ)、彼の伝記『狂気の右ストレート』(織田淳太郎 中公文庫)をご一読ください。(絶版だろうなあ) 「負けるなんて考えたことがない。」 彼の言葉です。ダウンして右足を捻挫しながらも、チャチャイ・チオノイを倒した試合(1973.1.2)は忘れられません、彼と一体になってチオノイを殴り続けた覚えがあります。自分の中の獣を、私は飼い慣らせたのでしょうか。三週間後の1月25日、ファイトマネーで買ったばかりのコルベット・スティングレイを走らせていた大場は首都高速のガードレールに激突、死亡しました。享年23歳。合掌。
本日の二枚は、名主の滝と音無川親水公園です。
追記。「首都高に散った世界チャンプ」(織田淳太郎 小学館文庫)と改名された上で再出版されているかもしれません、未確認ですが。「激しく倒れよ」(沢木耕太郎 文藝春秋社)所収の「ジム」も大場政夫を描いたノンフィクションです。
●「奇人発見伝」より 大場政夫
http://www.j-tierra.com/tm/kijin/index41.htm