背広を着た関東軍

 「敵基地攻撃能力の保有」「防衛費のGDP比2%以上」。戦後の安全保障体制を大転換させるきわめて重要な路線変更を、岸田文雄政権は、国会で議論をせずに閣議決定してしまいました。さらに国会や国民の頭ごなしに、訪米してジョー・バイデン大統領にそれらを約束する始末です。その報道写真の岸田氏は、「暗証番号が要らない銀行口座をつくったのでご利用ください」と平身低頭する銀行員に見えてきました。希代の詐欺師集団・自民党と公明党の暴走はますます加速しています。

 そして岸田政権を許せないのは、安全保障政策を変更した理由を、私たちにきちんと説明していないことです。おそらく、一般的に流布しているのは次のようなイメージではないでしょうか。

 中国・北朝鮮・ロシアは、日本に向けて突然ミサイルを発射する可能性がきわめて高い。その直前に、アメリカから購入した高性能・高額のミサイルで攻撃して敵基地を破壊すれば、日本人の命と安全を守れる。だから防衛費が増えても仕方がない。Q.E.D.

 『毎日新聞』の世論調査(22.5.24)によると、敵基地攻撃能力の保有への賛成は66%で、反対の22%を大きく上回ったのも、こうした単純なイメージによるものではないでしょうか。
 しかし、このイメージはあまりにも粗雑です。ちょっと考えれば、突っ込みどころが満載。

①中国・北朝鮮・ロシアが日本に向けて突然ミサイルを発射する可能性はほんとうに高いのか、高いとしたらその理由は何か。
(まさか習・金・プーチン各氏は「一人でも多くの日本人を殺傷することに病的な喜びを感じるため」という理由ではありませんよね)

②「日本に向けてミサイルを発射する直前」という状態を、正確に把握できるのか。またそれを国際的に証明できるのか。
(これができないと、国際法で禁止されている「先制攻撃」となります)

③「日本に向けてミサイルを発射する直前」という判断が誤認だとしたら、どうするのか
(答えてください、岸田首相)

④日本が先にミサイルを発射する以上、対象国からの報復攻撃が確実にあるだろうが、どう対処するのか。またそのミサイル事故により原子力発電所が破壊された場合、どう対処するのか。
(これこそ存立危機事態なのに、岸田政権はまったく答えていません)

 それでは安全保障政策を抜本的に変更した本当の理由は何なのでしょうか。半田滋氏が『週刊金曜日』(№1407 23.1.13 p.14~17)に掲載した分析がたいへん参考になったので、私の文責で要約して紹介します。
 結論から言ってしまえば、この重要な変更は「国民を守るため」ではなく、「アメリカ軍を守るため」のものです。
 安倍政権下で制定された平和安全法制(安全保障関連法)で、これまで「行使できない」とされてきた集団的自衛権を存立危機事態であれば「行使できる」と180度変えました。存立危機事態とは「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(自衛隊法76条1項2号)と定義されます。つまり、「密接な関係にある他国」が攻撃された場合を存立危機事態と認定し、他国を守るために自衛隊が海外で武力行使できるという意味です。政府は米国を「密接な関係にある他国」とみており、米国への攻撃があれば、日本は集団的自衛権を行使して米国を守るために戦うことができるわけです。これは米国という「国」が攻められた時だけではありません。政府は「(米軍基地がある)グァムが攻撃された場合、存立危機事態にあたるのか」との野党の質問に対し、「米国の抑止力、打撃力の欠如は、日本の存立危機に当たる可能性がないとは言えない」(17年8月10日衆院安全保障委員会、小野寺五典防衛相〈当時〉)と答弁し、米軍の損耗は存立危機事態にあたり得るとの見解を示しています。つまり安全保障関連法により、日本は米国や米軍を守るために集団的自衛権を行使することが合法化されたわけです。

 さらに改定された国家安全保障戦略は、武力行使ができる要件として「日本への武力攻撃が発生した場合」と「存立危機事態が認定された場合」の二つが記されています。後者の根幹は、日本が攻撃されていないにもかかわらず、日本は米国の交戦相手を攻撃できるということです。そう、国際法では許されない先制攻撃が可能となったわけです。

 では攻撃対象となる敵基地の正確な地点をつかむのか。専守防衛の枠内で兵器類を揃え、そのための訓練を繰り返してきた自衛隊になどそれがわかるはずはありません。米軍からの情報に頼ることになります。改定された国家防衛戦略は「我が国の反撃能力については、情報収集を含め、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築する」としました。これは米国が導入を進める「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」構想への参加を意味します。IAMD構想は陸海空、宇宙のあらゆる情報と兵器を統合し、敵ミサイルを撃滅します。さらに迎撃だけでなく、攻撃も行ないます。そのために欠かせないのは米軍の高い情報収集力です。自衛隊がこのIAMD構想にくわわれば、敵の情報を米軍と共有することになり、当然ながら作戦行動は一体化されます。その性能を熟知する米軍からの命令で、米政府から購入する巡航ミサイル「トマホーク」を自衛隊が発射する日はそう遠くないかもしれません。

 それでは米国が誤った戦争に踏み込んだ場合、日本は参戦を拒否できるのでしょうか。米国は「フセイン政権が大量破壊兵器を隠し持っている」とウソをついてイラク戦争を始めた国であり、米軍の艦船が北ベトナム軍からの攻撃を受けたと「トンキン湾事件」をでっち上げてベトナム戦争に参入した国でもあります。しかし拒否はできません。15年4月、当時の安倍政権は「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を改定して、自衛隊が米軍に全面的に協力することを約束しました。そのガイドラインの中身を法律に落とし込んだのが安全保障関連法です。米国との約束がある以上、日本は米国の戦争に協力せざるを得ません。「誤った米国の戦争」や「本音では参戦したくない米国の戦争」であっても参戦した自衛隊によって、敵基地攻撃が実施されます。それは日本が攻撃されるより前の先制攻撃となります。
 なお与党協議で公明党は「攻撃着手」を厳格化するよう求めましたが、自民党が「手の内を明かすことになる」と反対し、最後は「個別具体的に判断する」で合意しました。攻撃対象について、自民党は敵基地に加えて「相手国の指揮統制機能等を含む」よう求めましたが、こちらも「個別具体的に判断する」となりました。結局、安保3文書には「攻撃着手」の定義も「攻撃対象」も明示されませんでした。攻撃の基準を示すことなく、あいまいにしたことで責任を押しつけられたのは自衛隊です。イラクに派遣した自衛隊に「後はよきに計らえ」とばかりにシビリアン・コントロールを事実上、放棄した政治の無責任ぶりは何ひとつ変わっていません。

 先制攻撃であれ、着手後の反撃であれ、日本からの敵基地攻撃は全面戦争を招きかねません。北朝鮮は数多くの移動式ミサイル発射機を保有し、その行動は神出鬼没です。中国は日本を射程に収めるミサイルを2000発以上保有しています。そして両国は核保有国です。自衛隊の中途半端な攻撃力に相手がひるむはずがなく、壊滅的破壊を呼び込みかねません。

 以上、見てきた通り、「敵基地攻撃能力の保有」「防衛費のGDP比2%以上」は地域を破滅へと導きかねない「悪魔の道標」です。岸田首相は防衛力強化の正体を明らかにした上で衆議院を解散し、国民に信を問わなければなりません。

 ふう。拙い要約でしたがいかがでしょう。以下は私見です。今回の安全保障政策の変更によって、日本が戦争を呼び込む可能性が極めて高くなったと考えます。さまざまなケースが想定されますが、私が考えたシミュレーションを提示します。
 某月某日、台湾海峡付近で、ヒューマン・エラーあるいはメカニカル・トラブルによって、中国軍とアメリカ軍の間で偶発的な軍事衝突が発生します。米軍側に被害が出ると、アメリカ政府に忖度して日本政府はこれを存立危機事態と認定。アメリカ軍からの情報提供により、中国のミサイル基地に向けてトマホークを発射。先制攻撃です。中国側からすぐに反撃のためのミサイルが、自衛隊のミサイル基地に向けて雨霰と発射されます。多くの民間人が殺傷され、多くの住宅や施設が破壊されます。そのうちの一発が、意図的か偶然か、原子力発電所を直撃。深刻な規模の放射能汚染が発生し、まともな避難計画がないために被害者の数はさらにさらに増えていきます。

 近未来小説でしょうか。いやいやすぐにでも起こり得ることです。1939(昭和14)年、渡辺白泉は「戦争が廊下の奥に立つてゐた」という句をつくりましたが、もう彼は部屋の中に入ってきて舌なめずりをしているようです。なお彼を入れたのは岸田文雄政権であり、自民党・公明党であり、彼らを支持した人びとや選挙で棄権した人びとであることを銘肝しましょう。

 それにしてもありとあらゆる手練手管と権謀術数を用いて、日本を戦争の道へとひきずりこんだ自公政権と官僚たち。似たような集団が戦前の日本にもありました。半田滋氏の卓抜な表現(『週刊金曜日』[№1249 19.9.20]・[№1403 22.12.2])をお借りしましょう。


背広を着た関東軍

by sabasaba13 | 2023-01-25 06:17 | 鶏肋 | Comments(0)
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