パワークラシー

 衆議院と参議院の5つの補欠選挙で、自民党は4議席、日本維新の会は1議席を獲得しました。やれやれ。衆院千葉5区の投票率は38・25%、和歌山1区は44・11%、山口2区は42・41%、山口4区は34・71%。参院大分選挙区の投票率は42・48%。やれやれ。
 統一教会との癒着も、軍事費の大幅増額も、そのための増税も、いかがわしいインボイス制度の導入も、非正規労働者の増加も、上がらない給料も、入管法改悪の意図も、日本学術会議への介入も、ぜんぶ政権与党にお任せということなのでしょうか。あるいはそれらへの批判を棄権という行動で表したということなのでしょうか。いずれにしても信じ難い結果です。どう理解すればいいのだろう。私の能力ではもはや分析不可能です。
 すると『東京新聞』(23.4.23)で、この異様な事態に対する内田樹氏の鋭い分析が掲載されました。ぜひ紹介したいと思います。

時代を読む 出口なきパワークラシー 内田樹
 この欄の一月号に「今年の予測」を書いた。統一地方選についてこう予測した。
 「統一教会との癒着が指摘された地方議員が次々と落選して、自民党は大きく議席を減らすだろう。首相はその責任を取って辞職」
 「私の予測はだいたい外れる」と予防線を張ってはいたが、ずいぶん外れたものだ。私が見落としていたのは「有権者は統一教会と自民党の癒着なんか気にしていない」ということであった。岸田首相が「統一教会との関係を断つ」と言っても、「どうせ本気じゃないだろう」と思っていたから癒着が続いても別に怒りも感じないのである。
 当然ながら棄権率が高かった。41都道府県議選の投票率は平均41・9%。九つの知事選でも46・8%。「自分の一票くらいで政治は変わらない」という無力感からの棄権もあるだろうし、「今のままで構わない」という現状肯定からの棄権もあるだろうし、逆に代議制民主主義を含めて「今の制度の全部が気に入らない」という理由からの棄権もあるだろう。どのような理由によるにせよ、棄権は「このさき日本の政治がどうなっても自分は特段の関心がない」という意思表示である。
 統一教会のことも、防衛費増額のことも、増税のことも、インボイス制度のことも…みんな「政府が好きにしていいよ。オレは興味ないから」という有権者が60%近くを占めているのである。これはかなり深刻な病態と言ってよいと思う。私の予測が外れたのは日本人がここまで病んでいるとは思わなかったからである。
 この病にどういう診断を下すべきだろうか。私はこれを「パワークラシー」が日本に深く定着したことの徴候だと診立てる。パワークラシーというのは私が思いついた造語だから辞書を引いても出てこない。「権力支配」という意味である。
 ふつうは王政であれ、貴族政であれ、民主政であれ、主権者はおのれの地位を正当化する何らかの理由づけをする。「神から授権された」とか「民意を負託された」とか、あるいは端的に「賢明だから」とか。パワークラシーは違う。権力者の正統性の根拠が「すでに権力を持っていること」だからである。
 「勝てば官軍」という言葉がある。これに「官軍は必ず勝つ」という命題を縫い合わせるとパワークラシーになる。「権力者は正しい政策を掲げたのでその座を得たのであり、その座にある限り何をやってもその政策は正しい」という循環構造がその特徴である。
 パワークラシーの下では市民は政治家を批判することが許されない。市民は「国会議員を批判したければ、お前が国会議員になってから言え」と言われる。野党は「お前たちが選挙で負け続けるのは与党のような政策を掲げていないからだ」と言われる。うっかりそれを信じて、与党の政策に似せることが「リアリズム」だと思い込んでいる野党政治家もいる。しかし、この言い分は論理的に破綻しているのである。「現状を変革したければ、まずこのシステム内で成功しろ」というのは「現状を否定したければ、まず現状を肯定せよ」ということだからである。
 パワークラシーには「出口」がない。私たちはそんな社会にしだいに慣れ始めている。

 言葉を失い、眼前に漆黒の闇が迫ります。「権力者は、権力を持っているから正しい」「権力者は正しいから権力を持っている」、思考停止の極みですね。でもたしかにこう考えると、昨今の日本で猖獗を極めているさまざまな差別やハラスメントも理解できます。「弱者は、負の存在だから弱い」「弱者は、弱いから負の存在だ」。そして弱者を攻撃すれば、権力者の側に留まれると考えている方が多いのかもしれません。
 たしかに「出口」が見えないおぞましい事態です。でもこのままでいいわけはありません。強者がはびこり、弱者が切り捨てられる、そんな国で人間らしく生きていくなんて無理な話です。でもそう言うと「嫌なら日本から出ていけ」と言われるのだろうなあ。どうすればいいのでしょう、内田さん。いや、そういう問いこそがすでに思考停止ですね。自分の頭で考え抜かなければ。

by sabasaba13 | 2023-04-25 06:01 | 鶏肋 | Comments(0)
<< 美瑛編(22):旭川(17.8) 供託金 >>