それでは無料で松方コレクションを鑑賞しましょう。美術館の中に入ると、スマートフォンで作品を撮影している方がいます。もしや…係の方に訊ねると、フラッシュを焚かなければ一部の絵を除いて写真撮影が可能だということです。やった。幸いなことに本日は東京文化会館小ホールを撮影するためにデジタルカメラを持参しています。せっかくの機会なので写真を撮りまくりましょう。
まずはルーベンスの『眠る二人の子供』、愛くるしい寝姿もさることながら、温かい血が通う肌の描写が見事ですね。

ドラクロワの『馬を連れたシリアのアラブ人』と『聖母の教育』。ショパンとドラクロアの交友を描いた小説『葬送』(平野啓一郎 新潮文庫)をいま読んでいますが、下記の一文がありました。
手を抜くという才能が自分には完全に欠落しているのだと彼はつくづく考えた。それは明らかに技術の問題であった。駄作を人前に曝すことへの恐れだとか、画家としてあるべき姿勢だとか、そういったことは皆あとから考えつくものである。自分の場合はもっと単純だ。要するに手を抜く術を知らないのだ。(第一部下 p.284)
なるほど、彼の創作姿勢はこうした小品を観ても頷けます。

クールベの『罠にかかった狐』、セザンヌの『ポントワーズの橋と堰』、ドガの『舞台袖の3人の踊り子』。クールベのリアルな描写には舌を巻きます。

ルノワールの『アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)』がありましたが、これがゴッホの『アルルの寝室』の身代わりとされたいわくつきの絵ですね。

モネの作品は、『ウォータールー橋、ロンドン』、『舟遊び』、『睡蓮』などがありました。『世界 名画の旅』(朝日新聞日曜版)の中に次の一文がありました。
松方幸次郎は、パリ郊外ジベルニーの村のモネの家を再三訪れ、交友を結んだ。モネは、愛着を抱いて手元に残していた多くの作品を松方に譲った。このため松方コレクションの中では特にモネの作品が、質量ともに群を抜いている。(p.45)
山ノ神と二人で訪れたジベルニーの風景が、懐かしく思い出されました。

モローの『牢獄のサロメ』の妖艶さを堪能。

おっ私の好きなエルンストの『石化した森』がありました。そこはかとないユーモアと詩情をまじえた超現実的な絵に魅力を感じます。

松方コレクション展 高階秀爾
野上弥生子の小説『真知子』のなかに、主人公の真知子が友人といっしょに「M-という富豪の有名な洋画の蒐集を主とした」展覧会を上野の美術館に見に行く話が出て来る。
「豊富な蒐集は、これまで写真版で想像したり、名前を聞いたりしてゐた画家たちの原作を見せて呉れる点だけでも、貴重な観物であった。たとへばセガンチニの『羊毛刈』の画に向ふ時、…、如何にもアルペンらしい高原の空気と、自然と、生活を味ふ楽しみに酔ふと共に、同時にひそかな子供らしい感激に打たれる。今こそ真実のセガンチニを見る、と云ふ悦びでそれはあった。」
この「M-という富豪」の集めた作品が松方コレクションであったことは言うまでもない。
『真知子』の発表は昭和三年八月からである。小説のなかには、セガンチーニ以外にもいくつか作品名が登場して来るが、その内容から見て、それは、昭和三年三月、上野の東京府美術館で開催された「松方氏蒐集欧州美術展覧会」であったろう。「今こそ真実のセガンチニを見る」とう真知子たちの感激ぶりは、当時の日本の美術愛好者の反応をよく物語っている。
事実、松方コレクションは、それまで単に知識としてだけ知っていた西欧の名画の本物に接するというかけがえのない喜びを日本人に与えてくれた。画学生のなかには、作品を見るため、額縁屋の職人に化けて松方家にはいり込んだ者までいたという。(p.47)
実際にこの絵を見た当時の美術愛好家には衝撃だったでしょうね。アルプスの清冽な空気のなかで羊の毛を黙々と刈る男女を優しく見つめる画家の眼差し。心に残る一枚です。サンモリッツにある
セガンティーニ美術館にまた行きたくなりました。

ミロの『絵画』は、絵を描く喜びにあふれた楽しい作品です。

私がいちばん好きなのはデュフィの『モーツァルト』。色と形が、まるで室内楽曲のようにキャンバスのなかで響きあっているようです。クレーとは違うタイプですが、音楽を感じさせてくれる画家です。

そして併設されているカフェ「すいれん」できれいな中庭を眺めながら、コーヒーとティラミスを楽しみました。

というわけで、なかなかアートに満ちた一日でした。朝はNHKの「日曜美術館」で、土門拳の写真展「古寺巡礼」が東京都写真美術館で開かれていることを知り(近日中に行くつもり)、駅へ行く途中にあった本屋の店頭で村上春樹の新作「街とその不確かな壁」(新潮社)を知りました(即購入)。そして東京文化会館で山下洋輔氏のコンサートを聴き、国立西洋美術館で松方コレクションを満喫。こういう日々をもっと増やしたいものです。
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