『なぜ君は総理大臣になれないのか』

『なぜ君は総理大臣になれないのか』_c0051620_19510818.jpg その高い評判はよく耳にしていたのですが、なかなか観る機会に恵まれませんでした。はい、大島新監督による『なぜ君は総理大臣になれないのか』という、大胆不敵なタイトルのドキュメンタリー映画です。ところがポレポレ東中野で上映されているという情報をキャッチ、山ノ神を誘ってやっと観ることができました。
映画の公式サイトから、紹介文と監督のコメントを引用します。

 衆議院議員・小川淳也(当選5期)、49歳。
 2019年の国会で統計不正を質し、SNSで「統計王子」「こんな政治家がいたのか」と注目を集めた。
 彼と初めて出会ったのは、2003年10月10日、衆議院解散の日。
 当時32歳、民主党から初出馬する小川にカメラを向けた。「国民のためという思いなら誰にも負けない自信がある」と真っすぐに語る無私な姿勢に惹かれ、事あるごとに撮影をするようになる。地盤・看板・カバンなしで始めた選挙戦。
 2005年に初当選し、2009年に政権交代を果たすと「日本の政治は変わります。自分たちが変えます」と小川は目を輝かせた。
 現在『news23』のキャスターを務める星浩や、安倍政権寄りと評される政治ジャーナリスト・田﨑史郎ら、リベラル・保守双方の論客から"見どころのある若手政治家"と期待されていた。しかし…
 いくら気高い政治思想があっても党利党益に貢献しないと出世できず、選挙区当選でなければ発言権も弱い。小川の地元である香川1区の対抗馬は、自民党の平井卓也。平井は地元有力メディアである四国新聞や西日本放送のオーナー一族で、強固な地盤を持つ。
 そのため、小川は惜敗しては敗者復活の比例当選を繰り返してきた。権力への欲望が足りず、家族も「政治家には向いていないのでは」と本音を漏らす。
 2012年から安倍政権が始まると、我慢の時期が続く。そして、2017年の総選挙では、希望の党への合流を決断した前原誠司の最側近として翻弄されていく。小池百合子代表への不信感から無所属での出馬を最後まで検討するが、前原や地元の盟友・玉木雄一郎への仁義というジレンマの中、苦悩は益々深まっていく。
背水の陣の選挙戦に小川はどのように挑んでいったのか。
 17年間、小川を見続けた監督・大島新の目に映ったのは日本政治の希望か絶望か。
 小川を通して日本の未来を問いかけていく。


なぜ小川淳也を撮り続けたのか 監督:大島新
 「このままでは死んでも死に切れん」。
 2003年、小川淳也は総選挙への出馬を猛反対する家族に対し、そう言って説得した。その言葉を借りれば、私は「この映画を完成・公開しなければ死んでも死に切れん」と思った。ドキュメンタリー映像製作をはじめてから20年余り経った、2016年のことだった。
 私が小川淳也と初めて出会ったのは、2003年10月10日、衆議院解散の日。小川は、私の妻と高校で同学年。妻から「高校で一緒だった小川くんが、家族の猛反対を押し切って出馬するらしい」と聞いて興味を持ち、カメラを持って高松を訪れたのだった。初めは興味本位だったが、およそ1カ月間取材をするうちに、「社会を良くしたい」と真っすぐに語る小川の無私な姿勢と、理想の政策を伝える説明能力の高さに触れ、私は「こういう人に政治を任せたい」と思うようになった。小川はこの選挙では落選し、2005年の総選挙で初当選を果たす。以降、小川と私は年に数回会う関係になった。そして発表するあてもなく、時々カメラを回した。とはいえ、撮影なしで会うことがほとんどだった。
 「やるからには目標を高く。自らトップに立って国の舵取りをしたい」と、初出馬の32歳の時から私に語っていた小川。2009年に民主党が大勝し政権交代を果たすと、目を輝かせながら「日本の政治は変わります。自分たちが変えます」と、意気揚々と話してくれた。しかし…
 2011年の東日本大震災以降、民主党の政権運営の拙さが、徐々に白日の下に晒されていく。2012年、総選挙で大敗し、安倍政権が誕生。以降、野党は長期低迷期に入り、安倍一強と呼ばれる状態が続いた。そうした時期の 2016年、小川との食事会の席で、私は「この人をもう一度きちんと取材し、記録したい。映画にしたい」という、突き上がるような思いを抱いた。この時期は自民党の"魔の2回生問題"が世間を騒がせ、閣僚も含めた自民党議員の失言や暴言、スキャンダルが相次いだ。にもかかわらず、安倍政権は盤石、野党はと言えば、まとまりがなく、本気で政権を取りにいこうとしているようには見えなかった。小川も民進党の中で、もがいていた。優秀であることと、党内でポジションを上げていくことは、必ずしも比例しない。その頃私は「もしかしたらこの人は政治家に向いていないのではないか」と感じ始めていた。世界でも、日本でも、激しい言葉を発する強権的なリーダーが支持を得る傾向が強まっていた。そんななか、小川の誠実さは、いまの政治の潮流の中では、むしろあだになっているのではないかと思ったのだ。
 その食事会の翌日に、私は一気に映画の企画書を書いた。タイトルは『なぜ君は総理大臣になれないのか』。不遜なタイトルだが、小川本人にぶつけてみようと思った。その企画書を持って、2016年の夏に議員会館を訪ねたのが、映画の冒頭のシーンだ。小川はタイトルも含め、取材を受け入れ、「すべて大島さんにお任せします」と言った。以後、政治の節目節目に小川が何を考えているのかを聞いた。そして、2017年の総選挙がやってきた。 それは、"民進党の希望の党への合流"というドタバタ劇に巻き込まれた男の、悲壮感に溢れた選挙戦だった。
 これは、長期にわたって見つめた一人の政治家の苦闘と挫折のドキュメンタリーである。私は、その記録を映画として発表することによって、日本の政治の一断面を社会に問いたい。

 小川議員をヨイショするだけのバッタモン映画ではないのかと半分危惧していたのですが…ごめんなさい。とんでもない濡れ衣でした。自称「日本を良くする政策オタク」、永田町でのアダ名は「修行僧」、日本を良くするための政策を真摯に考え、それを実現するために誠心誠意尽力する熱意の人・小川淳也議員の姿を、真っ向から記録した素晴らしいドキュメンタリー映画です。「自らトップに立って国の舵取りをしたい」「国民のためという思いなら誰にも負けない自信がある」という熱い思いがスクリーンからビシビシと伝わってきました。
 しかしそのためには党内でのポジションを上げなければならない、そのためには選挙区選挙で当選しなければならない。小川氏の奮闘を、カメラは克明にとらえていきます。立候補者の側から描いた選挙戦は(不謹慎ですが)面白く、かつ興味深いものでした。「本人。」という幟を立てた自転車で街中を走り回り、名前を連呼する。街頭に立ち、政策を訴え、名前を連呼する。さまざまな集会に出席して顔を売る。妻や娘を動員して、家族ぐるみの戦いであると印象づける。
 選挙結果については伏せますが、見終わってあらためて大島監督の問いが思い浮かんできました。これほど誠実な政治家が、どうして総理大臣になれないのか? 立憲民主党が選挙で勝てないから。なぜ勝てないのか? 政策の差ではなく、「名と顔を売る」ということが中心となる現今の選挙において、自由民主党が圧倒的に強いから。つまるところ、われわれ有権者が、政策を見て投票する候補者を選んでいないということですね。タイトルの問いに私が答えるとすれば、「有権者の政治意識の劣化のため」としておきましょう。選挙について、政治について、そして日本の未来について考えさせられた映画でした。

 なお上映前に、大島監督と小川議員のプレ・トークを聴くことができたのは僥倖でした。心に残ったのは、「一番大切にしていることは何か」という問いに対して、小川議員が「理由」と答えたことです。理由? 氏曰く、なぜその政策を立案しようとするのか、その理由を常に考えると。ああ、ほんとうに良い政治家だ。なぜあなたが総理大臣になれないのだろう。それはね、それはね…
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 余談です。『週刊金曜日』(№1416 23.3.17)に下記の記事が掲載されました。女性が立候補しづらい、あるいは家族ぐるみで選挙戦を戦う候補者に好感をもつ有権者が多い。うーむ、これも大きな問題点ですね。

被害や痛みを知る女性の声が議会を動かす 政治は「誰がやっても同じ」ではない 尾辻かな子
 また、結婚している男性候補者は、妻が代理を務める場面がある。本人がいなくても、家族の出席で好感度がアップするからだ。しかし女性候補者で夫が全面支援するというケースは多くない。家族が選挙を手伝うことが応援団の士気をあげるために求められるが、女性は家族に反対されることもあり不利だ。
家族といえども候補者とは別人格なのに、一丸となって戦うのが選挙だという考え方を変えなければ、新たに立候補する人は増えないだろう。(p.25)

by sabasaba13 | 2023-05-30 06:01 | 映画 | Comments(0)
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