東京女子大チャペルコンサート

 あー東京女子大学に入りたい! あっ、いや、別に変な意味ではなくて(しどろもどろ)、ただただ純粋に同大学の見事な建物群を見たいだけです、いやほんと。きっかけは、『建築探偵 神出鬼没』(藤森照信 朝日新聞社)所収の下記の一文です。

 東京の女子大でどこがいちばん美しいか? といっても中身じゃなくて器の方の話ですが、僕がこれまで各学校の勤勉な守衛さんの納豆のように背中にねばりつく視線を振り払い振り払いしながら、つぶさに観察してきたところによると、
 〈東京女子大〉
 に尽きます。
 ここの卒業生で面識のあるのは如月小春さんで、彼女のお姿が学校のイメージをいささか押しあげ気味なのを認めたうえで、それを割り引いても東京女子大のキャンパスは美しい。
 まずシンボルになる塔が遠くから見えるのが良い。JR中央線の上り電車が吉祥寺の駅を出てしばらくすると左手の窓とおく緑のかたまりが現れ、その中にスッと白い尖塔が突き出ている。
 塔にさそわれてキャンパスに向かうと、途中の道はゴチャゴチャしてイメージが壊れるが、壊れ切る前になんとか正門を通過すると、目の前に美しい光景が待っていてくれる。
 個々の建物もさることながら、全体が計画的に作られた故の整った美しさがある。正面には図書館、右手にはさっきの塔の付くチャペルなどが、正門と図書館をつなぐ軸線の周りに幾何学的に配置されている。たいていの学校で隅の方についでに置かれる寮もちゃんと幾何学に乗っている。
こうした全体の配置の中で図書館が中心になっていることに僕は感心した。
 東京大学をはじめ歴史の古い多くの学校は安田とか大隈とか誰か個人の名の付いた記念講堂を中心に置くのに、東女(トンジョ)はなかなかニクイことをする。
 こういうニクイ配置をいったい誰が決めたんだろうか。まず建築家のアントニン・レーモンドの名が挙がる。大正10年、東京女子大が創立地の新宿から今の敷地に転出するに当たり、キャンパス計画の見事な絵図面を引いたのが彼だった。しかし、図書館をキャンパスの中心に据えるといった大学の基本的な在り方についての決定を建築家が決めたとは思えない。やはり、新渡戸稲造と並ぶ大学の創立者にして移転のリーダーのカール・ライシャワーの意志と思われる。
 ライシャワーは、自ら土地を選び、配置の考え方を決め、さらに自ら率先して畑と林しかない文化果つる地のキャンパスの中に移り住んでいる。その時の住まいは現在ライシャワー館として保存されているが、ちなみにここで生まれ育った息子が例のエドウィン・ライシャワー大使である。
 さて、中心に建つ図書館であるが、キューと水平に伸びた全体構成や屋根の軒の作りにどことなくライト設計の旧帝国ホテルをしのばせるところがある。それもそのはずで、設計者のレーモンドは帝国ホテルの設計スタッフとしてライトに連れられて日本に来たが、工事途中でケンカ別れをして独立してからこの仕事を手がけている。
 図書館の中に入ると、奇妙な図柄の無彩色のステンドグラスがはまっているのに気づいた。花札の松の図柄だ。まさかライシャワーがコイコイ好きだったなんて思えない。
 大学の人にたずねると、ライシャワーは赤松の林をたいそう気に入ってここをキャンパスに選んだのだという。
 赤松林はヤセ地の植物学的証明でもあるから、土地の値も安かったんじゃないかと僕は憶測している。(p.48~9)

 実は十数年前に、駄目でもともと、当たって砕けろ、人生万事塞翁が馬、赤子泣いても蓋とるなと訪問したのですが、守衛さんにすげなく断られてしまいました。その時のPTSDで、堂々と突入する方策をさがす努力を放棄して無為な日々を過ごしてしまいました。
 しかし二年ほど前に「新・美の巨人たち」で取り上げられた、同大学の美しいチャペルを見て、♪俺の闘志がまた燃え♪てきたのでした。念ずれば花開く、いろいろと調べているうちにこのチャペルで一般人対象のコンサートが時々開かれるという情報をキャッチ。パイプオルガンと弦楽合奏のコンサートに葉書で応募したところ…当選! ただ午後六時開演なので、ステンドグラスを通した柔らかく美しい光にはお目にかかれそうにありませんが、建物を至近から見られるだけで諒としましょう。

 というわけで神無月好日、山ノ神とともに東京女子大を訪れることになりました。中央線のJR西荻窪駅で下車、「こけし屋」で夕食がとれれば文句なしなのですが残念ながら改修中。次善の策として「フランクフルト」でサラフワコンビーフを購入して、帰宅してからコンビーフ丼を食べることにしましょう。
 駅前からバスに乗って十分ほどで到着。コンサートがあるためか、守衛所の前をノー・チェックで通過することができました。そして思い焦がれたキャンパスへ…嗚呼…何と蠱惑的な芳香…ちがうちがう魅力的な光景なのでしょう。中央には清楚でモダンな意匠の白亜の図書館、左右対称の木立、整形庭園のような芝生と小道。一幅の絵のようです。
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 なお正面に記されている「QUAECUNQUE SUNT VERA」は、「すべて真実なこと」という意味だそうです。同大学の公式サイトから引用します。

 本学の標語は新約聖書「フィリピの信徒への手紙 第4章8節」に書かれた聖句の一節を示したものです。大学が、一人ひとりのありのままの姿を尊重し、真理探求のための自由な学問の場であること。一人ひとりが"真実"を感じ取り、学び、尊ぶこと。それが創立から今まで続く、東京女子大学の願いです。

 できればキャンパス内をうろうろと徘徊したかったのですが、もう黄昏時だし開演時刻も近いので断念、再訪を期しましょう。掲示板には「老人は夢を見 若者は幻を見る (ヨエル書)」と達筆な墨書がありました。そうか、夢を見るのは私のような老人の特権なんだ。
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 そしてチャペルを撮影。斬新なデザインの尖塔と壁面を埋めつくす(たぶん)積みブロックが印象的です。「文化遺産オンライン」によると、オーギュスト・ペレのランシー教会堂をモデルとしたそうです。
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 それでは中に入りましょう。壁面を埋めつくす積みブロックとそこにはめこまれた十字架、さまざまな色と形の切り石でかたどられた下部の壁、モダンな意匠の照明、幾何学的なデザインの階段、堂内はどこを見ても魅力的な意匠に満ち溢れています。
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 そして演奏会が始まりました。前半は、中内潔氏によるパイプオルガンの演奏です。

 池宮英才 オルガン前奏曲「詩篇42篇による」
 L.ボエルマン 「聖母への祈り」~ゴシック組曲
 J.S.バッハ 「主よ、人の望みの喜びよ」「ただ愛する神に任せまつる人は」「おお愛する魂よ、汝を装え」
 D.ブクステフーデ 前奏曲、フーガとシャコンヌハ長調

 響きはデッドですね、もう少し響くとよいのですが。とりたてて感銘を受けた曲はありませんが、オルガンの重厚な響きに包まれて、堂内の素敵な意匠を眺めているだけで幸せです。なおボエルマン作の「聖母への祈り」というチャーミングな佳曲を聴けたのは僥倖でした。曲名を頭にインプットしておきましょう。
 十分間の休憩が入り、後半はさきほどオルガンを弾いた中内潔氏が指揮するカペラ・コレギウム・ヴェリタスによる弦楽合奏です。

 G.F.ヘンデル 合奏協奏曲ヘ長調
 W.A.モーツァルト セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
 E.グリーグ 組曲「ホルベアの時代より」

 奇を衒わない譜面に忠実な演奏には好感がもてました。嬉しかったのはグリーグの「ホルベアの時代より」が聴けたことです。先日、愛聴しておりますNHK-FMの「×(かける)クラシック」ではじめてこの曲を聴いてその魅力の虜となり、すぐにネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ交響楽団のCDを買って毎日聴きまくっているところなんです、これが。なかでも一番好きなのが第1曲の前奏曲、その溌溂としたリズムと清新なメロディとハーモニーは、聴き飽きることがありません。その曲を、こんな素敵なチャペルで生演奏で聴けるとは、このうえもない喜びです。カペラ・コレギウム・ヴェリタスの演奏も、息のあったアンサンブルとドライブ感にあふれた活きのよいものでした。

 というわけで、素敵な建築と音楽にふれられた素敵なひと時でした。今度はぜひ、昼間に訪れてステンドグラスの光にあふれたチャペルを見たいものです。再訪を期しましょう。
 家に帰って、山ノ神がつくってくれたコンビーフ丼に舌鼓を打ち、素敵な一日の〆としました。

by sabasaba13 | 2023-11-30 06:13 | 音楽 | Comments(0)
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