歴史否定とヘイトスピーチに抗う練馬の集会 2

歴史否定とヘイトスピーチに抗う練馬の集会 2_c0051620_16103282.jpg 「歴史否定とヘイトスピーチに抗う練馬の集会」、前半の石田正人氏に続いて、後半は『地震と虐殺 1923-2024』(中央公論新社)の著者である安田浩一氏の講演です。まずレジュメの項立ては下記の通りです。

社会を壊す「歴史否定とヘイトスピーチ」を許さない

はじめに~
・坑口を開けろ!-「長生炭鉱」をめぐる市民団体の闘い
・デマが招いたクルド人ヘイト

1、「地震と虐殺」-なぜ殺したのか。殺されたのか。殺させたのか。
・デマにお墨付きを与える政府
・虐殺を招いたのは「地震の混乱」なのか
・虐殺までの道のり
・震災から101年、「なかったこと」にしたい人々

2、歴史否定のうごき
①柳本飛行場跡地(奈良県天理市)の「消された案内板」
・柳本飛行場とは何だったのか
・案内板はなぜ「消された」のか
・市民による新しい案内板設置
②「安重根記念碑」をめぐる宮城県の対応
・なぜ栗原市の「安重根記念碑」があるのか
・ネトウヨによる攻撃
・撤去された案内板
③右往左往する松代大本営案内板
・最初はガムテープ
・そして-「様々な意見がある」と書き換え」
④「朝鮮人労働者追悼碑」を破壊した群馬県の欺瞞
・「強制連行」を政治的発言だと問題視した県
・裁判所に押しかけるレイシスト集団
・市民による抵抗
⑤沖縄と歴史否定
・32軍地下壕の案内板取り消し
・宮古島慰安婦追悼碑への攻撃
・沖縄の慰安婦
⑥朝鮮人労働者を「いなかった」ことにする佐渡金山
・世界遺産をめぐる地元の動き
・「朝鮮人労働者」の文言がどこにもない!

最後に~歴史否定が意味するものは何か
・入管法改悪と朝鮮人差別
・米国マンザナー(カリフォルニア州)で見た「レイシズムの記憶」

 以下、私の文責で講演の内容をまとめてみます。

はじめに~ 坑口を開けろ!-「長生炭鉱」をめぐる市民団体の闘い
 海から突き出す二本のピーヤ(排気口)が印象的な海底炭鉱の長生(ちょうせい)炭鉱。
【筆者注】「ヒロシマ平和メディアセンター」というサイトにピーヤの写真が掲載されています。
 当時の保安法では、安全のために海底から40m以上深いところで石炭を掘らないといけない。しかし長生炭鉱は30m、安全性を無視して安上がりにつくられていた。そして安上がりの労働力である朝鮮人を酷使した。安全性を無視して生産をあげ、コストのために坑夫に死を強いたのである。危険なので炭坑夫は朝鮮人が中心で「朝鮮炭鉱」と呼ばれた。1942年2月3日、天井部分が落盤、浸水。これを「水非常」と言う。183人が犠牲となるが、そのうち朝鮮人・中国人が136人。戦時中、日本のインフラ建設を担わされたのは朝鮮人・中国人であった。戦後、殉難碑がつくられたが、「朝鮮人」「強制連行」の文言はなかった。それでは不十分だと、市民有志が「強制連行」と刻んだ慰霊碑を建立。皆で大喜びし、祝賀会に韓国から遺族を招いた。感謝の言葉を期待していたが、「骨はないのですか」と言われて冷水を浴びたような衝撃を受ける。そして遺骨を回収する決意を固めたのである。採炭は国策事業であり、遺骨の回収は当然国の責務である。しかし国にかけあうが動かない。「骨があるかどうかわからない、見えないものに金は出せない」というのがその理由であった。井上洋子代表は切れ、「自分たちでやる」決意。寄付を募って遺骨回収に取り組むが難行した。重機を使って坑口を探し、なんと昨日(※9月26日)発見できた。骨を見つけて国を動かしたい。
 「なぜ30年間も活動を続けてきたのか」と井上氏に問うと、「責任だから。日本社会に生きている者としての責任があるから」という答え。この国や政府にもっとも欠けているのが「責任」。責任をとろうとする市民は、国の誇り。無責任がデマやヘイトスピーチや歴史の否定を生む。

はじめに~ デマが招いたクルド人ヘイト
 埼玉県川口市におけるクルド人へのヘイトが激化している。社会の体温とも言うべきSNSには下記のような書き込みがある。

 都心から北に遊びに行くときは、かならず刃先ギザギザにしたシークレットナイフ持ち歩いてる。いつでもクルド人や中国人と喧嘩出きるように。

 クルド人は殺処分か強制送還にすべき!! 人権などクルド人にあってたまるか

 もしよければ20人ぐらいでチーム作ってクルド人をボコしに行きませんか?!手を出さずとも、クルド人が怒り狂うまで煽って撮影を続けたり。生命の保証はできません。根性のあるやつだけ来てください。

クルド人は殺していい法律がほしい

川口自警団公式Xを始動させて頂きます。

 芝のヨークマート2階のダイソーではクルド人の子どもが平気で万引きしてるのをよく見かけます。店員に声かけられてもニホンゴワカラナイと言えば済むので今後どんどんエスカレートしていく事でしょう。
 万引きの瞬間は顔を映ってしまうので割愛します。

 一番最後の事例は、幼い少女を盗撮して万引きをでっち上げた悪質なものである。このSNSは600万回以上閲覧されている。見つけたのはこの少女の中学生の姉。毎日SNSを見て、クルド人へのデマ等をチェックしている。楽しいはずの中学校生活なのに、こうしたところまで追い込むのは許し難い。その後、クルド人へのヘイトデモが、彼女の通う中学校前に押し寄せて彼女の名前を怒号した。絶対に許せない。

 なぜ「クルド人排斥」なのか。90年代末からクルド人住民が増加した。現在、日本にいるクルド人は約3000人。そのうち約2000人が関東地方南部で暮らす。難民に対する無理解、差別、偏見がその原因である。しかし、クルド人ヘイトが流布されたのは1年前から。それまでクルド人はまったく関心を持たれなかった。
【筆者注】 2022年に、埼玉県に住むクルド人一家を描いた『マイスモールランド』という映画を観ましたが、激しいヘイトのシーンはありませんでした。
1年前、入管法改悪に対して取材に応じたクルド人が苦難の声をあげた。それをきっかけにクルド人への反発や非難が急増した。もともとは西川口一帯は県内有数の歓楽街、「NH(西川口)流」と呼ばれ数千円で性交が行われていた。市が歓楽街を整理すると中国人が移り住むようになり、中国人ヘイトがはじまった。しかしクルド人ヘイトが始まると中国人ヘイトはなくなった。
 おとなしく従順な社会的弱者は許容する。しかし自己や権利を主張する、物を言う社会的弱者はヘイトの対象となる。「マイノリティはマイノリティらしくふるまえ」という差別意識。

1、「地震と虐殺」-なぜ殺したのか。殺されたのか。殺させたのか。
 震災直後、政府が自らデマを飛ばしていた。

1923年9月3日、海軍東京無線電信所船橋送信所を通して、内務所(ママ)警保局長(当時の治安トップ)は各地方長官宛に電文を送付。
「鮮人ハ各地ニ放火シ不逞ノ目的ヲ遂行セントス既ニ東京市内ニ於テハ爆弾ヲ所持シ石油ヲ注ギ放火セル者アリ」
「鮮人の行動に対しては厳密なる取り締まりを加えたし」
埼玉県内務部による通牒文(1923.9.2)
「不逞鮮人多数が川口方面より本県に入り来るやも知れず、その間、過激思想を有する者らに和し、彼等の目的を達成せんとする趣、聞き及び…町村当局は在郷軍人会、消防手、青年団等と一致協力してその警戒に任じ、一朝有事の場合には速やかに適当の方策を講ずるよう、至急、相当手配相なりき…」

 四ツ木橋での虐殺を証言した伴淳三郎。

 「阿鼻叫喚の地獄絵図だった」
 「朝鮮の人と思われる死体が地面にずらーっと転がっている。その死体の頭へ、コノヤロー、コノヤローと石をぶっつけて、めちゃくちゃにこわしている。生きた朝鮮の人を捕まえると、背中から白刃を切りつける。男はどさりと倒れる。最初、白身のように見えた切り口から、しばらくしてビャーっと血が吹くんだ。俺はそれを目撃して震え上がっちゃった」
 「朝鮮の人はたまらず屋根へ逃げのびる。それを下から猟銃で、パパパーンと打ち落とす。その死体めがけて群衆が殺到する。手に手に持った石を、死体めがけて投げつける。死体はたちまちハチの巣のようにメチャメチャになってしまう」

 「朝鮮人を殺す」ではなく「朝鮮人を壊す」という表現に注目したい。襲撃に使われた鳶口は、破壊消防のための道具。それを使って朝鮮人を、さらには社会を壊した。今は、言葉とSNSを使って社会を壊している。

 「地震の混乱」が虐殺を招いたのか? ちがう。震災の前年の1922年にすでに朝鮮人虐殺事件が起きていた。新潟県中津川の信越電力工事現場で、大倉組(事件当時は日本土木、大成建設の前身)による朝鮮人労働者虐殺が起こされていた。朝鮮人を殺す準備はできていた。

 中には、こうした虐殺に対して深甚なる反省をした人物もいた。

東京市社会教育課長 大迫元繁
一、震災に於ける鮮人虐殺事件に直面して、私共は何と云つて鮮人諸君に、御詫び致したらよいかを知らないものです。餘りに惨酷無慈悲、無思慮の致し方で、天人共に長く許し難き罪悪と思ひます。そこで日本人は、根本的に生れ代つて出直さねばなりません。悔ひ改めて全く彼等に対する邪念、邪情を一掃し、謝罪の心持ちを忘れず、彼等の幸福の為凡ゆる方法を講ずる必要がありませう。

 しかし日本人は、"根本的に生れ代つて出直"すことができなかった。
 いまだに、こうした事実を否定する人たち。

 ・「虐殺は嘘であります。まったく根拠がない。不逞鮮人が略奪、強姦などをした」
 ・「(震災直後)コミュニストによる暴動があった。テロもあった。それに対する住民の自警行動があった。虐殺ではない」(鈴木信行葛飾区議)
 ・「在日朝鮮人との戦いの真っただ中にある。必ず勝利する」(ナオナチ[ママ]活動家の瀬戸弘幸氏)
 ・「(関東大震災では)朝鮮人の放火などの卑劣な犯罪によって10万人以上の尊い命が奪われた。なのに日本人だけが汚名を着せられた」(慰霊祭実行委員会代表)

 朝鮮人に対して害を加える人たち。

ウトロ地区「放火犯」の裁判における証言
・韓国が憎かった
・情報はネットで得た
・韓国による領土侵犯が許せない
・放火は間違いだったが理由は正当
・今後も同じような事件が起こるであろう

【Q&A】
Q.「強制連行」と記された長生炭鉱碑への攻撃はないのか?
A.今のところない。私有地なので非難のしようがない。
Q.「③右往左往する松代大本営案内板」とはどういうことか?
A.当初は「強制的に動員され」という文言だったが、批判を受けて「強制的に」の上に白いガムテープを貼って隠した。それに対して逆批判があったので「必ずしも全てが強制的ではなかったなど、さまざまな見解があります」という曖昧な表現に改変した。
Q.ヘイトスピーチをするのは、どういう人たちか?
A.わからない。老若男女さまざまな人がおり、共通点はない。ただ社会的弱者すべてを差別するようだ。その際に、ものを言うマイノリティ、自己や権利を主張するマイノリティへの攻撃が激しい。逆に、おとなしく従順なマイノリティであれば許容する。「マイノリティなら、マイノリティらしく振る舞え」と強要する。
A.ヘイトスピーチを禁止する法律はないのか?
Q.「ヘイトスピーチ解消法」があるが、理念法なので罰則がなく、効果はほとんどない。川崎市のように、罰則をつけた条例で規制しようとする自治体が増えている。罰則をともなった法律を制定すべきである。なおヘイトスピーチは表現の自由であるとする主張もあるが、そうではない。最も表現の自由を奪われているのは差別されている側なのだということを、忘れてはいけない。
A.カウンターについてどう思うか?
Q.差別を許さず過去の歴史を忘れないということさえ押さえれば、それぞれの仕方で行ういろいろなカウンターがあっていいと思う。
最後に一言。過去の歴史を否定すれば差別と偏見がはびこり、その差別と偏見が殺戮につながる。『地震と虐殺 1923-2024』執筆のための取材をしている間、私はずっと心の中で「殺すな、殺されるな、殺させるな」と唱え続けた。

 以上、拙い要約でした。過誤等は全て私の責任です。時間の関係で後半についてのお話を聞けなかったのが残念でしたが、安田氏の思いは十二分に伝わってくるものでした。
 一番心に残ったのは、差別の醜悪さです。関東大震災時における虐殺、クルド人に対する言葉の暴力。なぜこうした醜悪な行為を平然と行えるのでしょうか。思うに、当時も今も、生活や将来に対する不安やストレスを解消するためではないでしょうか。朝鮮人と劣った存在として、日本人を優れた存在として位置づけ、根拠のない優越感を得る。そして劣ったと見なした人びとを攻撃し、痛めつけ、最悪のケースでは殺すことによって、不安やストレスを解消する。そう考えました。その不安やストレスは朝鮮人やクルド人のせいではなく、政界・財界がつくったシステムが原因であることに気づかないのですね。
 もう一つ考えたのは、日本政府の無責任さです。長生炭鉱内の遺骨収集に消極的で、クルド人へのヘイトスピーチを規制せず、関東大震災時の虐殺にも無関心な日本政府。まるで過ちを繰り返しても仕方がないと開き直っているようです。同時に、差別を黙認する態度にも疑問を持ちます。なぜ包括的な差別禁止法を制定せず、独立した人権救済機関を設立しないのか。推測するに、差別を禁止した結果、私たちが連帯して政府に抗うことを恐れているのだと思います。差別を黙認することによって私たちを分断し、無力で従順な存在として支配する。
 これに対して、過ちに対して責任をとろうとする市民たちの動きには感銘を受けました。長生炭鉱内の遺骨収集のために尽力し、寄付を募り、政府を動かそうとする井上洋子代表の言葉が耳朶に残ります。

 日本社会に生きている者としての責任があるから。

 こうした動きに連なるとともに、過去の過ちに責任を果たす政府を選出するよう努力をしていきたいと思います。
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by sabasaba13 | 2025-01-16 07:30 | 講演会 | Comments(2)
Commented by 名無しさん at 2025-05-30 22:49
筆者自身、歴史修正主義者
Commented by sabasaba13 at 2025-05-31 11:53
 こんにちは、「名無しさん」さん。コメントをありがとうございました。ただあまりにも文章がシンプルで、私が歴史修正主義者であることを論証する内容もないので、回答のしようがありません。
 きちんとした論証や明証をともなったコメントをいただければ、実りある議論もできるかと思います。そうしたコメントをお待ちしております。それでは。
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