[座・高円寺]ドキュメンタリーフェスティバルで、『丸木位里 丸木俊 沖縄戦の図 全14部』を観てきました。実は以前に「ポレポレ東中野」で観たことがあるのですが、素晴らしい映画だったので再見してきました。その時に上梓した映画評を再掲しますがご海容ください。 公式サイトより、映画と「沖縄戦の図」についての紹介、そして河邑厚徳監督からのメッセージを引用します。 広島・長崎の核爆発の凄絶さを《原爆の図》15部に描きつづけた丸木位里・丸木俊が、晩年に取組んだのが地上戦を体験した沖縄戦だった。 私も山ノ神も佐喜眞美術館で沖縄戦の図」を観て、心を揺さぶられた思い出があります。ただ連作14部をすべて観ることはできませんでした。 この映画では、14部すべての絵とそのクローズアップ、そのテーマについての解説、そして丸木夫妻の画像やさまざまなエピソードを紹介しています。なお、そのタイトルは「久米島の虐殺(1)」「久米島の虐殺(2)」「亀甲墓」「自然壕(ガマ)」「喜屋武岬」「集団自決」「暁の実弾射撃」「ひめゆりの塔」「沖縄戦の図」「ガマ」「きゃん岬」「チビチリガマ」「シムクガマ」「残波大獅子」です。 心に残った作品をいくつか紹介しましょう。まず「久米島の虐殺(1)(2)」です。沖縄戦の際にこの島で日本軍による島民と朝鮮人の虐殺が行われました。アメリカ軍による降伏勧告を届けに来た郵便局員、アメリカ軍に捕らえられて解放された家族、そして朝鮮人の父をもつ家族… 鹿山兵曹長ひきいる海軍通信隊による犯行です。鬼のような形相で日本刀を振り上げる兵士と、そのもとにうずくまる母と子。縛り首にされた犠牲者と、その縄をひきあげる日本兵。絵の上部をおおいつくす紅蓮は炎でしょうか、血でしょうか。軍隊がもつ非人間性と狂気を、丸木夫妻は余すところなく描きつくしています。 「集団自決」は、1941年3月28日、アメリカ軍が慶良間諸島に上陸したという知らせでパニックに陥った329名の渡嘉敷島民が追い込まれた集団自決を描いた絵です。鎌をふりあげて肉親を殺そうとする老人、血まみれで横たわる女性と子どもたち。凄惨な絵ですが、「目を背けてはいけない」という丸木夫妻の声が聞こえてくるようです。なお『写真記録 総史 沖縄戦』(岩波書店)のなかで、著者である大田昌秀氏は、「集団自決」ではなく「強制集団死」と呼ぶべきだと主張されています。まず「自決」とは軍人が使う言葉で、民衆の行為に使うのはふさわしくないという点。そして米軍に捕えられると悲惨な目にあわされるから死を選べと日本軍に追い込まれ、肉親を殺害し最後に自死したという点から、"強制"という言葉を入れるべきだという点です。 「暁の実弾射撃」は、現在も行なわれているアメリカ軍による県道104号線を封鎖しての実弾砲撃演習に抗議する人びとを描いた絵です。有刺鉄線で雁字搦めに縛られながらも、毅然とした表情でこちらを見つめる人物が心に残ります。米軍基地の鉄条網の前では機動隊が立ち並んでいますが、ジュラルミンの盾で顔が見えません。丸木夫妻は、人間としての顔を持たない軍隊の本質を表現したのではないでしょうか。フランシスコ・デ・ゴヤの『マドリード、1808年5月3日』を思い起こしました。 「ひめゆりの塔」は衝撃的な作品です。ひめゆり部隊の女学生たちの苦悶にみちた顔が虚空に数多浮かぶ中、皇太子夫妻(当時)が献花を行なっています。そこに新左翼系活動家が火炎瓶を投げつける場面を、丸木夫妻は描きこんでいます。なぜ? 「自分の頭で考えてください」という夫妻からのメッセージだと受け止めました。天皇制護持のために、米軍に相応のダメージを与えることにこだわり戦争を長引かせた昭和天皇の戦争責任について、私は思いを馳せました。なお火炎瓶を皇太子夫妻に向かっていままさに投げつけようとする人物を背後から撮影した写真が存在するのですね。はじめて知りました。 「沖縄戦の図」はこの連作の中心となる、4m×8.5mの大きな絵です。沖縄戦のあらゆる様相が描き込まれています。 「チビチリガマ」は、米軍上陸直後、このガマ(鍾乳洞)に避難した村人83人の集団自決(強制集団死)を描いた作品。画面をうめつくす無数の死者に言葉を失います。竹槍をもった三人はいったい、どこへ、何のために向かうのでしょう。 「シムクガマ」は、チビチリガマの近くにあるガマで、やはり地元民が避難していました。ここでも強制集団死に追い込まれる可能性もあったのですが、ハワイ帰りで英語が話せる人がいて、米兵とのやりとりから捕えられても殺されることはないと分かり、みんなを説得してガマから出て全員無事でした。この絵では人物は一切描かれておらず、ガマの光景がおだやかな筆致で描写されています。救われた人びとの心象風景でしょうか。 そして最後の作品が「残波大獅子」。私は行ったことがないのですが、読谷村にある高さ8m75cmの巨大なシーサーの像です。その像とともに、屹立し、歌い、三線を弾き、太鼓を叩く、戦後の沖縄人の群像が描かれています。映画によると、山内徳信氏や知花昌一氏などこの連作に関わった方々も描き込まれているとのことです。落下傘で降下する米兵が、下のほうに小さく小さく描かれているのも目を引かれました。明るさと力強さと、未来への希望を感じる絵です。そしてよく見ると、そこここにいくつもの頭蓋骨が描かれています。また柔らかい光の中に浮かび上がる、昔の服を着た少年は、沖縄戦で亡くなったのでしょう。死者との共闘、中島岳志氏の言葉をかみしめました。 なお上映後に、プログラムディレクターの山崎裕氏を聞き役とした河邑厚徳監督のトークがありましたので、私の文責で要約して紹介します。 沖縄の復帰50年にあたる2022年、コロナ禍のためか人のいない佐喜眞美術館で「沖縄戦の図」と向き合い、魂を揺さぶられた。自分がこの絵を見ているのではなく、ここに描かれている125人から見られているような気がした。また背面には、沖縄戦の証言者たちの写真パネルが掲示されているが、彼ら/彼女らからも見られている気がした。そして「あなたは沖縄について何を知っているのか」と問われている気も。それについて考えはじめたのが、この映画をつくるきっかけだった。 以上、拙い要約でした。"台湾有事"を怒号し、沖縄がふたたび戦禍にまきこまれようともやむを得ないと考える御仁たちが跋扈する昨今、戦争で沖縄はどうなってしまったのか、その地獄が再来されてもいいのかについて知り考えさせてくれる素晴らしい映画です。ぜひ一人でも多くの方に観てほしいと思います。
by sabasaba13
| 2025-08-24 07:02
| 映画
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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