熊の出没、および熊による傷害致死が多発しています。幸いというか何というか、今住んでいる所は熊と遭遇する確率は天文学的に低いので非常事態ではありません。でもその恐怖に慄いている方も多いと思います。
 そこで余計なお世話かもしれませんが、以前に行った知床旅行で教えていただいた熊に対する最善の対処法を紹介したいと思います。

 まずヒグマに出会わないことが最善の対処法!! ヒグマは大型の野生動物です。人を見てすぐ襲ってくるような凶暴な動物ではありませんが、つき合い方をまちがえると人身事故につながりかねません。私たちが、注意深く行動することによって、ヒグマとのトラブルのほとんどが回避できます。ヒグマとの事故を防ぐには、ヒグマに出会わないことが最も重要です。そのためには、音を出して自分の存在をヒグマに知らせること。たとえば「パンパン」と手を叩く、「オーッ」と声を上げる、鈴を鳴らす。
 そしてヒグマにエサを与えたり、ゴミを捨てないことも大事です。ヒグマは人を警戒しますが、エサをもらうことによって、あるいはゴミを食べることによって、人間は食べ物を連想させる対象となります。つまり近づいてくる…
 それでも出会ってしまったらどうするか。絶対にしてはいけないのは、走って逃げること。ヒグマが追いかけてくることがあります。もう一つは大騒ぎをすること。ヒグマを興奮させてしまいます。
 それではどうすればよいのか。…書いてありませんでした。ここからは私の推測ですが、妙手はない、ということでしょう。静かに逃げる、それでも襲われたら、♪LET IT BE♪、あるいは♪THE END♪。
 『静かな大地』(池澤夏樹 朝日文庫)の中で、あるアイヌが"おまえたち和人は、狼が害をなすという。それはおまえたちが狼の食べるものを奪うからだ。(p.222)"と言っていました。熊と出合わないための一番良い方法は、自然環境を壊さないことだと思います。知床財団のポスター曰く「人とクマがうまくやっていく道はあるはずだ」、その道はそこにしかないのでは。

 最後に、熊にエサをあげたことで起きた悲劇「ソーセージの悲しい最後」という、まるで『シートン動物記』の一節のような悲しい物語を紹介します。

 コードネーム97B-5、またの名はソーセージ。初めて出会ったのは1997年秋、彼女は母親からはなれ独立したばかりだった。翌年の夏、彼女はたくさんの車が行きかう国立公園入口近くに姿を現すようになった。その後すぐ、とんでもない知らせが飛び込んできた。観光客が彼女にソーセージを投げ与えたというのだ。それからの彼女は同じクマとは思えないほどすっかり変わってしまった。人や車は警戒する対象から、食べ物を連想させる対象に変わり、彼女はしつこく道路沿いに姿を見せるようになった。そのたびに見物の車列ができ、彼女はますます人に慣れていった。
 我々はこれがとても危険な兆候だと感じていた。かつて北米の国立公園では、餌付けられたクマが悲惨な人身事故を起こしてきた歴史があることを知っていたからだ。我々は彼女を筆致に追い払い続け、厳しくお仕置きした。人に近づくなと学習させようとしたのだ。しかし、彼女はのんびりと出歩き続けた。
 翌春、ついに彼女は市街地にまで入りこむようになった。呑気に歩き回るばかりだが、人にばったり出会ったら何が起こるかわからない。そしてある朝、彼女は小学校のそばでシカの死体を食べはじめた。もはや決断の時だった。子供たちの通学が始まる前にすべてを終わらせなければならない。私は近づきながら弾丸を装填した。スコープの中の彼女は、一瞬、あっ、というような表情を見せた。そして、叩きつける激しい発射音。ライフル弾の恐ろしい力。彼女はもうほとんど動くことができなかった。瞳の輝きはみるみる失われていった。
 彼女は知床の森に生まれ、またその土に戻って行くはずだった。それは、たった1本のソーセージで狂いはじめた。何気ない気持ちの餌やりだったかもしれない。けれどもそれが多くの人を危険に陥れ、失われなくてもよかった命を奪うことになることを、よく考えてほしい。
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by sabasaba13 | 2025-10-08 07:00 | 鶏肋 | Comments(0)
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