ATMと鉄砲玉

 『東京新聞デジタル』(25.10.27)の<本音のコラム+>に、大矢英代氏の重要で面白く、やがて悲しくなるエッセイが掲載されていました。ぜひ紹介します。

<本音のコラム+> 不毛な恋愛、もうやめませんか? トランプ来日報道にみる日本人の勘違い 大矢英代(カリフォルニア州立大助教授)

 「もう何十年も付き合ってる彼がいて、今後も関係を大事にしていきたい」
 友人からそう打ち明けられたら、あなたはどんなアドバイスをするだろうか。人柄も素晴らしい相手ならば応援したくもなるが、詳しく聞けば、今年に入ってから「僕たちの関係は不公平だ」などと言って一方的な条件を突きつけられて、わざわざ彼の家まで出向いて話し合ったものの、らちが明かない。結局、何十兆円規模の大金を払う羽目になったらしい。それも今に始まったことではなく、彼には以前から「思いやり」と称して定期的に大金を渡したり、自分の家の敷地を軍事訓練場として好き放題に使わせたり、数年前には売りつけてきた高額の戦闘機を買わされたり…。しかも、彼は自分の家族に対してもめちゃくちゃで、この1カ月、家庭内は機能停止状態。彼を守ろうという側と間違いを正そうという側で真っ二つに割れているという。「それでも彼が好き。彼は、私を誰よりも大事に思ってくれている」などと言う友人には、?をひっぱたいてでも「目を覚ませ」と、私なら言うだろう。
 この不毛で不健康な関係を続けているのが、日本である。自民党政権がアピールし続ける「日米同盟」の本当の姿だ。
 「米国はどこの国よりも日本を大事に思っている」という日本人の凄まじい思い込みは、最近の報道にも透けて見える。もう読者も聞き飽きたであろう、「トランプ来日」関連のニュースである。
 このコラムが公開された今日は、「いよいよ来日」の話題で持ちきりだろう。天皇との面会や日米首脳会談、在日米軍基地への訪問などが予定されているという。高市首相は、ここぞとばかりに「日米同盟の強化」をアピールするだろう。しかし、はっきりと伝えておきたい。トランプ政権も米メディアも、日本人が思うほど日本を重視していない、と。
 米国内の報道を見ていると、「日本訪問」を主題として扱う報道など、ほとんど見かけない。むしろ「アジア訪問の一環」として広い枠組みで伝えられており、日本はその一部にすぎない。
 トランプ大統領にとって最大の目的地は、今月31日から2日間、今年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催される韓国だ。そこで待ち受けているのが、中国の習近平国家主席との会談だ。特に、レアアース(希土類)の輸出規制をめぐって米中のバトルが続いている今、トランプの関心はそちらに向かっている。
 次に重視しているのが、韓国政府との交渉だろう。韓国は自国の自動車産業に影響を与えかねないという懸念から、米国の関税措置に抵抗を続けており、トランプ大統領の未解決問題の一つだ。トランプ大統領は、日本と同じように、韓国にも3500億ドル規模の投資ファンドの設置を求めているが、韓国は米の「現金払い」案を拒み続けている。「我々は日本とは違う」とはっきり言い切った。
 要するに、すでに5500億ドル(約84兆円)の投資を約束した日本は、すでに米国の「ATM」になっているわけで、「便利な金づるには協議は必要ない」というのがトランプ側の本音だろう。したがって、米メディアの紙面が日本に多く割かれることもない。
 米国にとって日本は50カ国以上ある同盟国の一つにすぎない。恋愛に例えるならば、複数の相手との同時交際を双方で認める「オープン・リレーションシップ」状態の相手に対して、なぜか日本は「日米関係が最重要」「相手も同じく大事に思ってくれている」と一方的に思い込み、「関係強化」を叫び続けている。感覚がずれているのは、日本のほうだ。
 不毛な恋愛なら、本人が痛い目を見て、そこから学んで這い上がってもらうしかない。だが、日本国民の血税と未来がかかっている以上、黙っているわけにはいかない。「こんな相手との関係を続けても、幸せにはなれないよ。もういいかげんに、あなたも自立しなさい」
 同じ言葉を、トランプ来日歓迎と叫ぶ日本人に送る。

 まったくもって同感ですね。特にトランプ政権が再登場してから、もはや彼は日本を「暗証番号のないATM」および「アメリカのために体を張る鉄砲玉」としか見ていないでしょう。
 『「核抑止論」の虚構』(集英社新書1272)で、豊下楢彦はこう指摘されています。

 1979年1月に米国が中国と外交関係を樹立し台湾と断交したことを受けて、米議会は同年4月に「台湾関係法」を成立させた。同法の第二条B項では、平和的な手段以外によって台湾の将来を決定しようとする試みは米国の「重大関心事」と位置づけられ、台湾への「いかなる武力行使または強制的な方式にも対抗しうる米国の能力を維持」し、防御的な兵器を台湾に供給すると規定された。つまり、米国は台湾の防衛に深くコミットしていくことを法律で定めているのだ。しかし日本は台湾との間で、こうした法的な関係を持っていない。
 とすれば、「台湾有事」が切迫するなかで米国が真に台湾を防衛する意思があるのであれば、それこそ台湾本島に本格的な米軍基地を設けるべきであろう。しかし現実に行われていることは、台湾周辺の沖縄やフィリピンでの米軍のプレゼンスを強化する事であって、米軍自らが中国軍と戦い合うか否かは「あいまいさ」が残されているのである。こうした状況で「日本有事」論に翻弄される日本が正面に立つならば、文字通り梯子を外されて「代理戦争」を戦うはめになりかねない。(p.251~2)

 まず、トランプ新政権において日米同盟はいかに位置づけられているかを問わねばならない。これまで日米同盟は建前であれ、自由、人権、民主主義、法の支配といった「共通の価値観」にもとづいて成り立ってきた。しかし、そもそもトランプは「共通の価値観」などとは無縁である。おそらく、同盟関係の前提である「共通敵」という概念も存在しないであろう。
 彼にとって重要な問題は、二国間における「取引(deal)」であって、これさえ成立すればロシアであれ北朝鮮であれ、それこそ中国であっても昨日の敵はたちまち友となり、逆に取引が失敗すれば、長年の友も敵として位置づけられることになる。ちなみに、トランプは習近平を「鉄拳で14億の人々を支配する賢い男」とも評している。
 新たなトランプ政権は日本に対し、防衛費をGDP比2%から3%に引き上げよとの要求を突きつけてくるであろう。日本の財政を破綻させかねないこの強引な要求をめぐって、日本の政界は揺れ動くことになる。しかし、ここで問われるべきは、そもそも「何のための防衛費増額」なのか、という根本問題である。「共通敵」に対する抑止力を高めるためであろうか。しかし、トランプにあって「共通敵」など存在しない以上は、彼が防衛費の大幅増額を求めてくるのは、要するに「米国の軍需産業の兵器を買え」ということであろう。日本が買えば買うほど米国の軍需産業は儲かり、大幅に雇用が増える、という構図である。(p.279~80)

 ま、米国製の武器をガバガバ買ってくれる「暗証番号のないATM」、そしてその武器を使って中国を攻撃し多大な犠牲を引き受けてくれる「アメリカのために体を張る鉄砲玉」が、日本です。
 それでもなぜ日本政府はここまで、およそ想像を絶するほどアメリカに卑屈に従属するのか? これは真剣に考えるべきテーマだと思います。その一つのヒントとなるのが、内田樹氏の分析です。『週刊金曜日』(№1418 23.3.31)から引用します。

 日本の指導者たちは、ある時期から、徹底的に対米従属することによって米国から「属国の代官」の官位を「冊封」されてきた。かつて中華帝国の「東夷」として「日本国王」の官位を受けていたのと構図は変わらない。東西の方位が入れ替わっただけで、いま日本はアメリカ帝国の西の辺境、西太平洋戦略の前線基地である。
 日本の国防政策を決定するのはホワイトハウスであって、永田町ではない。防衛費がGDPの2パーセントというのもアメリカがNATO諸国に対して要求した数字に揃えただけで、岸田政権の発意ではないし、F35を「爆買い」したのもトマホークを購入したのも、米政府の指令に従っただけである。米国の指令に素直に従っていれば、米国は自民党政権が半永久的に続くことを保証してくれると信じてそうしているのである。(p.15)

 アメリカの受けが良い政治家・官僚は周囲から尊敬と羨望の目で見られ、日本における権力や権勢の確保につながる。と、政権の中枢にいる方々が信じていることなのでしょうか。
 それにしても、組織利益と己の保身のために、我らが納めた血税でアメリカ製武器を爆買いし、中国との戦争で自衛隊員や市民を犠牲にするなんて信じ難い行いです。こういう方々を"売国奴"と呼ぶのではないでしょうか。私たちの生活苦を放置し、福祉・医療・教育予算を削り、気候危機対策や防災対策には関心がなく、あらゆる差別や核(原子力)発電を野放しにして、組織利益と己の保身のためにアメリカの*を舐める。彼らの脳裡には、市民の安全や安心を守るなどという発想はひとかけらもないのでしょうね。あるのは組織と大企業とアメリカの利益と、己の保身のみ。

 アメリカのATMにして鉄砲玉、これが"世界の真ん中で咲き誇る日本外交"なのでしょうか。高市首相、どこが?

by sabasaba13 | 2025-10-28 07:02 | 鶏肋 | Comments(0)
<< よくわかりません、高市首相 孫崎享氏講演会 >>