レディーススーツを着た関東軍

 高市早苗首相の素振りに関する、インターネットやSNSでの毀誉褒貶が喧しいですね。一方で「媚びている」「はしゃぎすぎ」「卑屈」といった批判、他方でそれに対する反論。
 やれやれ、私にとっては素振りなどは基本的にどうでもいいことです。問題にしたいのは、首相として将来の日本をどのような国にしたいのかというヴィジョンと、そのための設計図と海図です。それさえしっかりしてくれれば、媚びようがはしゃごうが卑屈であろうが微笑もうが踊ろうが、どうでもいいことです。
 さて、高市首相のヴィジョンは何か。そしてどのような海図を描いているのか。うーん、説明してくれないので、全くわかりません。一つだけ明らかなのは、軍事費(防衛費)を大幅に増やそうとしていることです。『しんぶん赤旗』(25.10.25)から一部引用します。

主張 高市首相所信表明 自民党政治の転換こそ必要だ
 「衣の下に鎧」―。高市早苗首相が国会で初めて行った所信表明演説を聞いて頭に浮かんだ言葉です。
 「鎧」の最たるものは、2027年度に軍事費とその関連経費を合わせ国内総生産(GDP)の2%にするという政府の目標を前倒しし、今年度中に実現するというものです。加えて、この目標を定めた安保3文書を来年中に改定することを目指し、検討を開始するとしました。
 一見、その重大さは抽象的な表現で隠されています。
 安保3文書は22年に閣議決定されました。同年度の軍事費は5・2兆円(米軍再編経費など除く)。GDP比2%は11兆円となり、軍事費をおよそ2倍にするという大軍拡計画です。それを2年も早く実現するというのです。
 高市首相はそのために補正予算を組む意向を明らかにしました。防衛省によると、今年度の軍事費と関連経費を合わせると9・9兆円(GDP比1・8%)に達します。補正予算に盛り込む軍事費は1・1兆円に上ることになります。
 しかも、安保3文書の来年中の改定は、軍事費のGDP比2%を達成した後も大軍拡を続けることが狙いです。
 今年2月、石破茂首相(当時)はトランプ米大統領との会談で、27年度にGDP比2%を達成した後の28年度以降も「防衛力を抜本的に強化する」とし、軍事費の大幅増を約束していました。安保3文書の改定はそれをいっそう加速するものです。
 こうした大きな問題にもかかわらず、首相はなぜ前倒しするのか説明を避けました。「さまざまな安全保障環境の変化」というだけです。
 トランプ米政権は日本に対し、対中国軍事戦略の最前線に立たせるため、軍事費をGDPの3・5%にするよう求めています。今年度のGDPの見通しで計算すれば21兆円超です。今回の表明が、週明けに来日し、首相と会談予定のトランプ大統領への土産であることは明らかです。
 首相は、中小業者や医療機関への支援策など聞こえのいいさまざまな物価高対策を並べました。しかし、大軍拡予算が暮らしを守る予算を大きく圧迫することは避けられません。(以下略)

 そして見逃せないのが、防衛省が設置した「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」が、武器輸出ルールの緩和や原子力潜水艦(原潜)の保有、2023年度からの5年間で43兆円とされた防衛費のさらなる上積みを求める報告書をまとめたことです。『週刊金曜日』(№1541 25.10.17)から引用します。

半田滋の新・安全保障論 防衛の「有識者」による安倍氏への「献辞」

 防衛省が設置した「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」が武器輸出ルールの緩和や原子力潜水艦(原潜)の保有、2023年度からの5年間で43兆円とされた防衛費のさらなる上積みを求める報告書をまとめた。
 この手の会議は思惑通りの結論を出すメンバーを選び、議論を尽くした体裁をとり狙い通りの結論を得るのが常套手段とはいえ、その顔ぶれにはあ然とさせられる。
 企業献金を復活させ、安倍晋三内閣を全面支援した榊原定征(さだゆき)元経団連会長を座長とし、憲法解釈を変更して集団的自衛権腰を解禁すべきとの報告書を安倍首相に提出した安全保障有識者懇談会の座長代理を務めた北岡伸一元東大教授がここでも座長代理だ。
 ほかに安倍首相の改憲案を掲載した読売新聞グループ本社社長、アベノミクスの旗振り役を務めた元日銀副総裁、原発の建て替えを主張した大学教授らが顔をそろえる。亡くなった安倍氏の考えに近いメンバーが集まり、集団的自衛権行使の解禁を盛り込んだ安全保障関連法が10年前に成立した日と同じ9月19日に公表したのだから報告書は安倍氏への「オマージュ(献辞)」と考えて間違いない。
 政府側は、元防衛相、元防衛事務次官、前幕僚長が名前を連ね、その下の部会には防衛産業最大手の三菱重工業名誉顧問(会議招集時には会長)がいる。利益相反する武器の発注側と受注側が一緒になって防衛費増を訴えるのだから茶番劇でもある。
 「平和国家」として紛争を助長しないとの国是により定めた武器禁輸を見直し、武器輸出を解禁した安倍首相の考えを引き継ぎ、さらに発展させるべく、報告書は殺傷力のある武器は輸出しないとの運用方針を見直し、友好国であれば紛争当事国であっても輸出すべきだと提言した。
 「次世代の動力を活用する」との婉曲な言い回しで原潜の保有にも言及した。原潜を持つには、原子力の平和利用を定めた原子力基本法の改定が必要になるが、より大きな懸念は、原潜保有国は米英仏露中印といった核保有国であり、いずれも核ミサイルを搭載しているという点だ。
 生前、安倍氏は米国の核兵器が配備され、その配備国が使用に協力する核共有について「議論をタブー視してはならない」と主張した。報告書は核保有には触れていないものの、「核の脅威を直視した抑止力を我が国としてどのように構築していくかを真剣に検討する必要がある」と含みを残した。
 報告書を受け取った中谷元防衛相は「提言を真摯に受け止め、防衛力の抜本的強化をさらに進めていくにあたり大いに活用したい」と述べ、さらなる軍事大国化を目指すとした。報告書を読み、自民党総裁選の結果を見て、あらためて思った。死してなお、安倍氏の影響力はこれほど強いのかと。(p.57)

 高市首相が好んで使用する枕詞「防衛力の抜本的強化」の具体的な内実であり、彼女は間違いなくこの提言を粛々かつ喜々として実行するでしょう。

 というわけで、高市首相が熱心にやろうとしていることがいくつか見えてきました。とにかく軍事費(防衛費)をひたすら増やすこと。アメリカ製の兵器を爆買いしてトランプ大統領の歓心を買い、己の権力基盤を盤石なものにすること。および日本の軍事(防衛)産業から兵器を爆買いして、見返りに自民党への政治献金をいただくこと。
 武器輸出ルールを緩和して殺傷力のある武器を輸出して軍事(防衛)産業が稼げるようにすること。これも自民党への政治献金へとつながります。なお1976年5月14日衆院外務委員会で、当時の宮澤喜一外相は「わが国は武器の輸出をして金を稼ぐほど落ちぶれていない。もう少し高い理想を持った国として今後も続けていくべきだ」と述べました。言うなれば、これからの日本を「武器輸出して稼ぐほど落ちぶれ、高い理想を捨てた国」にしたいわけですね。(『週刊金曜日』 №1525 25.6.20 p.48)
 そして敵基地攻撃能力(反撃能力)を持つミサイル垂直発射装置(VLS)搭載の原子力潜水艦の保有。非核三原則を撤廃して核ミサイルを搭載することも視野に入れているのかもしれません。これも日本の軍事(防衛)産業の莫大な利益となり、自民党への政治献金の爆増へとつながります。

 以上、ヴィジョンも海図も提示しない高市首相ですが、アメリカと日本の軍事(防衛)産業に莫大な利益を供与することによって、己の権勢を保持し、自民党の組織利益をはかることが見えてきます。しかし絶対に忘れてはいけないのが、その財源をどうするのか、です。これについても氏は全く説明責任を果たしていないので、想像するしかありません。私が考えるに、消費税の大幅アップと、社会保障・教育・防災・文化関連予算の大幅削減でしょう。アメリカと日本の軍事(防衛)産業がぶくぶくに肥え太って、われわれ庶民は馬車馬のように働かされながら生活苦と貧困に喘く。だとしたら許し難いヴィジョンですが、知ってか知らずか、高市氏の支持率は68%です。(※朝日新聞調査)

 そして最も重要な点は、莫大な軍事費(防衛費)を使って強大な軍隊(自衛隊)を作る目的はなにかです。政治家・官僚がよく「厳しい国際環境」という表現を使いますが、湯水のようにわれらの税金を注ぎ込んで強大な軍隊(自衛隊)をつくらねばならぬほどの「厳しさ・危うさ」なのか具体的な説明はありません。台湾有事? 前川喜平氏がおっしゃるとおりです。

『東京新聞』(25.11.2)
<本音のコラム> 厳しさを増す安全保障環境? 前川喜平(現代教育行政研究会代表)

 10月30日の米中首脳会談。トランプ大統領は事前に「台湾の話もする」と言っていたが、結局何も言わなかった。米国インド太平洋軍司令官が「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性」に言及してから4年半。そんな緊張感は全くない。
 31日の日中首脳会談。高市早苗首相と習近平国家主席は「戦略的互恵関係の推進」と「建設的で安定的な関係の構築」で一致した。「台湾海峡の平和」は付け足し程度に触れただけ。「台湾有事は日本有事」と言ってきた高市氏にしてはずいぶん弱腰だ。日米首脳とも、本気で台湾有事を心配してはいないのだ。
 防衛費の増額に邁進する政府は、2013年の国家安全保障戦略以来一貫して「我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している」と言い続けてきた。12年も厳しさが増し続けたのなら、今ごろは一触即発の危機になっているはずだ。つまり「厳しさを増す安全保障環境」は防衛費増額の口実に過ぎないのだ。
 24日の所信表明で高市首相は、防衛費の対GDP比2%水準を今年度中に前倒しすると表明。28日の日米首脳会談でも防衛費の増額を約束した。3.5%(21兆円)に引き上げる密約もありそうだ。こんな途方もない大軍拡が犠牲にするのは庶民の生活だ。
 その目的は何なのか? 日米の軍事産業を儲けさせること以外ない。

 さらに気がかりなのが、強大な軍隊(自衛隊)をつくった結果、起きる事態です。他国をびびらせて日本への攻撃をためらわせるための抑止力の強化につながる? そのような超楽観的な見方に与することはとてもできません。
 第一に、「ATMと鉄砲玉」で述べたように、強力な武器を使って中国を攻撃し多大な犠牲を引き受けてくれる「アメリカのために体を張る鉄砲玉」として使い捨てられる危険です。
 第二に、日本の軍備増強が、抑止ではなく、戦争リスクにつながるという危険です。『従属の代償 日米軍事一体化の真実』(布施祐仁 講談社現代新書2754)から引用します。

 私も、自衛のための必要最小限の軍備は必要だと考えています。しかし、軍備増強には抑止力を高めるという「効能」だけでなく、重大な「副作用」もあるという事実を忘れてはなりません。
 中国の台湾侵攻を抑止する目的で日米や台湾が軍備を増強すれば、台湾の独立と米国の干渉を絶対に認めないと主張している中国もこれに対抗して軍備を増強します。際限のない軍拡競争となり、軍事的緊張は高まるばかりです。軍事的緊張が高まれば、ナイが警鐘を鳴らす「計算違いによる衝突」のリスクも増大します。
 このように、抑止力を高めるための軍備強化がかえって戦争のリスクを増大させてしまう事象を、「安全保障のジレンマ」と呼びます。(p.217)

 というわけで、高市首相の軍事費(防衛費)大幅増額には反対です。アメリカと日本の軍事産業を太らせ、自民党が多額の政治献金を受け取り、われわれ庶民を貧窮へと追い込み、自衛隊員がアメリカの鉄砲玉として使い捨てられ、「安全保障のジレンマ」として戦争リスクを高める。とても看過することはとてもできません。
 想像ですが、高市首相は戦争をしたいとは考えていないと思います。ただ、起きたら仕方ない、ま、その時はその時だと、軽く考えているのではないかな。「平和はどうするのか」という古賀誠元幹事長の真摯な問いかけにきちんと答えようとする姿勢は見られません。

 己の権勢保持と自民党の組織利益のために、戦争を招き寄せる高市早苗首相。まるで…

 レディーススーツを着た関東軍

by sabasaba13 | 2025-11-06 07:04 | 鶏肋 | Comments(0)
<< 赤坂プレスセンターと横須賀基地 京都錦秋編(13):東華菜館(... >>