おとなしくしろ

 高市首相についてのニュースが氾濫するなか、恐るべき事態が静かに進行していることに留意しましょう。目立ちませんが、とても重要な記事を二つ転記します。

『東京新聞』(25.10.30)
こちら特報部 ビラ配りで突然逮捕「30年やってきたのに」 労働運動への相次ぐ警察介入… 「物言う人を孤立させる」懸念が

 今年2月、駅構内で東芝に賃上げなどを求めるビラを配布した団体のメンバーらが軽犯罪法違反容疑で現行犯逮捕された。長年活動する場所での突然の身柄拘束に関係者は戸惑う。また関西で多くの逮捕者を出した「全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(関生支部)」を巡る国家賠償請求訴訟は31日に判決が言い渡される。ビラまきやストライキが犯罪行為とみなされた二つの事件から、社会運動への圧力が強まる現状を考える。(太田理英子、加藤文)
 2月20日朝、JR北府中駅(東京都府中市)の改札前。東芝府中事業所へとつながる通路上で、同社OBの海老根弘光さん(79)と塩田儀夫さん(75)は、通勤中の社員らにビラを配っていた。
 2人は同社OBや現役社員でつくる労働運動団体「東芝の職場を明るくする会」のメンバー。ビラは同社に賃上げや適正な人員配置を求める内容だった。
 ビラを配り始めてから約1時間後、1人の駅員から「やめてください」と注意を受けた。塩田さんが「公共の空間ではないか」と答えて配り続けると、まもなく制服と私服姿の警察官8人以上に取り囲まれ、中止するよう求められた。
 過去にも警察官に注意されたことはあったが、「こんな人数で来るのは何かおかしい」と海老根さんは感じた。終了予定時間になり、警察官と押し問答をしていた塩田さんに声を掛け、電車に乗るため改札に入ると、警察官たちがどっと追いかけてきた。
 私服警察官は「今日は逮捕するんだ」「身柄を確保しろ」と指示。海老根さんが振り切ろうとすると体を引っ張られ、「抵抗すれば公務執行妨害になる」と考えてうずくまった。
 容疑を聞くと、禁じられた場所などへ立ち入った軽犯罪法違反容疑だという。その場で現行犯逮捕され、2人がかりで運び出されてパトカーに押し込まれた。
 塩田さんも同容疑で逮捕され、2人は府中署で取り調べを受けた。「こんなことで逮捕するなんて。裁判になったらどうしたらいいのか」。海老根さんはそう考えながら、黙秘。会の活動内容などを聞かれた塩田さんは「今後も続けるのか」と問われ、「死ぬまで続ける」と反論したという。
 人権団体「日本国民救援会」から連絡を受けた弁護士が署に抗議し、2人は逮捕から約2時間半後に釈放された。その後、海老根さんは署から供述調書の作成などに応じるよう求められたが、拒否。4月末、2人とも不起訴処分となった。
 「同じビラ配りを30年やってきたのに、なぜ逮捕されないといけなかったのか」と2人は憤る。
 1995年の明るくする会発足以来、退職強要や不当配置などの労働相談、東芝本社や子会社への労働者の処遇改善の要求をしてきた。北府中駅前では毎年、同じ場所でビラ配りをしてきた。今回も含め、通行を妨げないよう、穏やかに活動することを心がけてきたという。
 署は、当時の対応について「管理者の承諾を得ずに、駅利用以外の目的で立ち入った行為」が軽犯罪法違反に当たると判断したと説明。過去のビラ配りと関係なく、あくまで当日の行為が法律に触れたとし、「拘束の必要性があった。逮捕は適法だった」とした。
 これに対し、2人の弁護人を務めた岩村智文弁護士は「短時間とどまっただけで、重大な違法行為が継続した状況はない。身元も特定されており、逮捕は必要なかったはずだ。活動の弾圧だ」と批判する。
 署は2人の釈放後に実質取り調べをしておらず、検察は書類送検から9日で不起訴処分を決めた。「警察は初めから事件にならないと分かっていたのだろう」
 なぜ、警察は逮捕に踏み切ったのか。
 2人が背景にあると考えるのが、5月に施行された、経済安全保障分野の機密情報を扱う公務員や民間人らを身辺調査する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度を盛り込んだ「重要経済安保情報保護・活用法」の存在だ。恣意的な解釈やプライバシー侵害の問題が指摘されてきた。
 逮捕は法施行前だったが、東芝は府中事業所などで原子力事業を進めていることを踏まえ、海老根さんは「重要産業を担う企業内で、職場への不満の声が警戒されてもおかしくない」と指摘。「労働運動が敵視され、今後も摘発の標的になるのでは」といぶかしむ。
 塩田さんは、現場が私有地ではあるが「自由に出入りでき、パブリックフォーラム(公共の言論の場)として認められるべき場所」と主張。「他の運動で萎縮が起きかねない」と警鐘を鳴らす。
 労働運動への圧力は近年、強まっている。特に顕著なのが、2018年以降、ストライキなどの活動をした労働組合員らが恐喝や強要未遂などの疑いで摘発された「関西生コン」を巡る事件だ。
 延べ66人が起訴された一方、これまで12人の無罪が確定。644日間にわたり勾留され、京都地裁で無罪判決を受けた湯川裕司さん(52)らが国などに損害賠償を求めた訴訟の判決が、今月31日に東京地裁で言い渡される予定で、捜査の違法性などの判断が注目されている。
 労働運動で逮捕が続く現状をどう見るべきか。JR北府中駅での事件について、立命館大の松宮孝明教授(刑事法)は「(逮捕することに)本来の目的の逸脱、他の目的があったとしたら法律違反だ。警察はそんなことをすべきではない」と指摘する。
 軽犯罪法は4条で、法律の適用にあたり「国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」と規定するからだ。
 同法1条32号の「入ることを禁じた場所に正当な理由がなくて入った者」を適用して逮捕したことに「構成要件に該当するとは思えない」。
 関西生コン事件を含め、「賃上げなど労働条件改善の運動に対する検察、裁判所の理解も不十分だ」とも指摘した。
 ジャーナリストの青木理さんは「警備公安警察が、労働運動や組合運動をする人たちを広範に監視したりする例はこれまでにもあった」とした上で、「ビラを配っただけで逮捕するのは、言論、表現の自由にも関わる労働運動の根幹を揺るがす問題だ。犯罪が発生していないにもかかわらず警察権を幅広く捉えて調査したり逮捕したりすることは、社会の一番大切な草の根の動きをつぶしかねない」と語った。
 関西生コン事件を取材してきたジャーナリストの竹信三恵子さんは「公の場所での行動に対する取り締まりは、最近、頻発している」と危機感を募らせる。
 集会をしたり、ビラをまいたりして労働条件の獲得を広く社会に訴えること自体、団体行動権でも認められているとし、相次ぐ警察の介入に「自由な発言や行動など一般の人々の権利を大きく侵害するものだ」と批判する。
 竹信さんは、戦争をできる国にしたいとか、軍事費に公金を回したいという狙いから、労働者や生活者の声を抑え込む狙いがあるとの懸念を示した上でこう訴える。
 「私たちは今、岐路に立っている。政権の一部の人たちだけで政策判断がされ、賃上げの声も封じ込められ、社会が壊れてしまうことがないよう、物言う人を孤立させないよう皆で支えることが必要だ」
◆デスクメモ
 関西生コン事件でも同じように捜査当局は「今後も活動を続けるか」と問う。有罪にできなくても、逮捕することで所属する労働組合や団体に圧力をかけるのが目的なのか。長年続いた活動を「今日は逮捕する」と判断したのはなぜか。「逮捕は適法」の説明だけでは納得できない。(祐)


『東京新聞』(25.11.1)
結局多数が無罪になった捜査はセーフ、検察官の発言もセーフ… 「関西生コン」労組の訴えを東京地裁が棄却

 ミキサー車運転手らでつくる産業別労働組合の「全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部」や組合員らが、生コンクリート製造業者への恐喝容疑などで摘発されたのは組合活動の不当な弾圧に当たるとして、国などに計約2000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は31日、捜査や取り調べの違法性を否定し、原告の請求を棄却した。原告側は控訴する方針。
 一連の事件は2018年以降、大阪、京都、滋賀、和歌山の各府県警が組合幹部らを摘発。刑事裁判では起訴された延べ66人中、12人の無罪が確定している。
 大寄麻代(おおより・あさよ)裁判長は判決理由で、逮捕・勾留を巡る警察や検察の判断について、いずれの事件も多数の組合員の組織的な行為が問題になっていたと指摘。「合理的な根拠が欠如していたとは言えない」として違法ではないと結論づけた。
 審理では取り調べの録音・録画が法廷で再生された。大津地検の副検事(当時)が組合員に「どんどん削っていく」などと発言した取り調べを、大寄裁判長は「表現方法が適切だったかは疑問の余地がある」と指摘したものの、「組合を弾圧し、弱体化させる意図を述べたものとは解されない」とした。
 黙秘する組合員に、別の検事が脱退を勧めるような発言をした点も「反省を促し、供述を得ようと説得を試みたものと理解できる」と判断した。(小野沢健太)
   ◇   ◇
 「いい流れだと思っていたが、まさかの棄却。え、なんで、という思い」。判決後の記者会見で、原告で組合執行委員の西山直洋さん(57)はあきれた様子で話した。刑事裁判では、西山さんが被告になった事件も含め、無罪判決が相次いでいるからだ。
 原告弁護団長の海渡雄一弁護士は「多くの無罪判決が出た違法捜査と思われる事件を、公平な立場で判断したとは思えない」と語気を強めた。
 この日の判決は、無罪となった刑事裁判で信用性が否定された証人の供述内容を「信用性に疑問があるとはいえ存在していた」と言及。供述などを基に身柄拘束した警察や検察の判断を違法と認めなかった。海渡弁護士は「無罪判決にけちをつけている。すべて棄却という結論を先に固め、都合のいい事実をつなげたようにみえる」と非難した。
 「黙秘します」と143回繰り返した組合員に、検事らが黙秘の理由や組合を続ける意思を執拗に尋ねたことも、判決は「説得行為」と違法性を否定。弁護団の太田健義弁護士は「なぜ黙秘している人に反省を促す必要があるのか。検察官にそんな権限はなく、このような裁判官の認識は非常に恐ろしい」と断じた。
 捜査当局による「脱退勧奨」と取れる言動に賠償責任が認められなかった判決は、他の労組運動への影響も懸念される。西山さんは「この判断が一般化していくことはあってはならない。最後まで戦っていく」と語った。(太田理英子)

 関西生コン事件については、以前に拙ブログに上梓した記事、『ここから』の映画評、そして京都地裁の判決をぜひご照覧ください。
 ストライキやビラ配りへの弾圧、労働組合の弱体化、警察と検察と司法がぐるになって、企業に立ち向かう労働者を黙らせ、おとなしくさせようという動きです。それも真綿で首を絞めるようにじわりじわりと… メディアもこうした動きを全く取り上げません。
 その背景には、激増した非正規労働者が「関西生コン」労組のような産業別労働組合を結成することを、企業が必死で食い止めようとしている動きがあるのかもしれません。
 しかし、自由民主党、国民民主党、日本維新の会、参政党が「スパイ防止法」の法案提出の準備を進めている状況を見ると、事態はもっと深化したものである可能性も否定できません。政府や企業に抗うもの、現在の秩序を変えようとするものを取り締まろうとする動きです。
 現状から大きな利益を得ている者や組織が、それを死守するためのなりふりかまわない弾圧。それに協力することによって、おこぼれにあずかろうとする警察と検察と司法。それを報道する硬骨のメディアを応援しながら、しっかりと監視していきましょう。

 おとなしくなんかなりません。黙りません。


by sabasaba13 | 2025-11-09 06:55 | 鶏肋 | Comments(0)
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