『チャップリンの独裁者』

 昨日、新聞のテレビ欄を見ていたらNHK-BSで映画『チャップリンの独裁者』を放映するとのこと。もう何度でも何度でも何度でも観たい名作です。山ノ神とともに、テレビにかじりついて視聴しました。
 製作は1940年、そう、すでにナチス・ドイツはポーランドに侵攻し、第二次世界大戦の幕を切って落としています。その時期に、アドルフ・ヒトラーを痛烈に批判するこの映画をつくるなんて、あらためてチャップリンに敬意を表します。
 もちろん喜劇としても十二分に楽しめるのですが、やはり本作の白眉は最後に語られる六分間のスピーチです。これまで何度も聴いたのですが、現在という危機的な状況においてはその輝きがさらに増し心の奥底に響きます。より多くの人びとに聴いてほしいスピーチです。
 実は以前に拙ブログで紹介したのですが、読み直してみるとかなり不十分でした。こういう時にインターネットは本当に便利ですね。全文と和訳がすぐにわかりました。Y's Factoryというホームページから引用させていただきます。感謝します。

 申し訳ない。私は皇帝になりたくはない。それは私の務めではない。私は誰も支配したり征服したりしたくないのだ。できることなら全ての人を助けたいのだ。ユダヤ人も、ユダヤ人以外の人々も、黒人も、白人も。
 私たちは皆、お互い助け合いたいのだ。人間というのはそういうものなのだ。私たちはお互いの不幸によってではなく、お互いの幸福によって生きたいのだ。お互いを憎んだり見下したりしたくないのだ。この世界では全ての人に機会が与えられ、肥沃な地は豊かであり、全ての人を養ってくれる。生き方は自由で美しいものになりうるのだ。
 しかし私たちはその生き方を失ってしまった。貪欲さが人間の魂を汚し、世界を憎しみで囲い込み、私たちをグースステップ式行進で歩かせて悲惨な殺戮状態へと追い込んだ。私たちは速さを発達させたが、自らを閉じ込めてしまった。豊かさを与えてくれる機会は私たちを欠乏状態にさせた。私たちの知識は私たちを冷笑的にさせ、私たちの賢さは私たちを無常で不親切にさせた。私たちはあまりにもものを考えすぎるようになり、ものを感じなくなっている。
 機械以上に私たちが必要なのは人間性だ。賢さ以上に私たちが必要なのは優しさだ。これらの資質がなければ、生きることは暴力的になり、すべてが失われるだろう。飛行機やラジオは私たちをより近づけた。これらの発明品のまさにその性質が、人間の善良さを大いに必要とし、私たち全ての団結のための世界的な兄弟愛を必要としている。
 今も私の声は世界中の多くの人々に届いている。絶望しかけている男性にも、女性にも、幼き子どもたちにも。人間に苦しみを与え無実の人々を収監する体制の犠牲者たちに。
 私の声が聞こえている人々に私は言う。「絶望するな」と。今、私たちにのしかかっている不幸はつかの間の貪欲さ、すなわち、人間の進歩の道のりを恐れる人々の敵意に過ぎないのだ。人間の憎しみは通り過ぎ、独裁者は死ぬ。そして独裁者が人々から奪った権力は人々のもとに帰るのだ。そして人に寿命がある限り[独裁者は死ぬのだから]、自由は決して消えない。
 兵士たちよ、あの人でなしの連中に自らを譲り渡すな。奴らは諸君を軽蔑し、奴隷にし、諸君の暮らしを統制し、諸君が何をすべきか、何を考えるべきか、何を感じるべきかを教え、諸君をしごき、諸君の食い扶持を減らし、諸君を家畜のように扱い、諸君を大砲の餌食として利用しているのだ。
 あの残酷な連中に自らを譲り渡すな! 機械の頭と機械の心を持った機械の奴らに! 諸君は機械ではない! 諸君は家畜ではない! 諸君は人間なのだ! 諸君の心の中には人類愛がある。諸君は憎むことはない。愛されぬ者だけが愛されぬ者と残酷な者を憎むのだ。兵士たちよ、隷属を求めて戦うな! 自由のために戦うのだ!
 ルカの福音書第17章にはこう書かれている。「神の国は人のうちにあり」と。一人の人間でもなく、集団でもなく、すべての人間の中に! 諸君の中に! 諸君には力がある! 機械を生み出す力が。幸福を生み出す力が。諸君、人民がこの世を自由で美しいものにする力を持っているのだ。この世を素晴らしき冒険にする力を! そして民主主義の名のもとに、その力を使おう。団結しよう!
 新しい世界のために戦おう。人に働く機会を与え、諸君に未来を、老人に安心を与えるまっとうな世界のために。こうしたものを約束することで、残酷な連中は権力の座に上り詰めた。しかし彼らは嘘をついている。彼らはその約束を果たしてはくれない。これからも決して果たすことはないだろう。独裁者は自らを解放するが、人民を奴隷にするのだ。
 今、その約束を果たすために戦おう。世界を解放するために戦おう。国境を廃止し、貪欲さをなくし、憎しみと不寛容をなくすために。理性の世界を求めて戦おう。科学と進歩がすべての人間の幸福につながるような世界を。兵士たちよ、民主主義の名のもとに団結しよう!

 ハンナ、僕が分かるね。どこに居ても元気をお出し。雲が割れ日がさし始めたよ。暗闇を抜け僕達は生まれ変わる。もう獣のように憎しみ合うこともない。元気をお出し、ハンナ。人はまた歩き始めた。行く手には希望の光が満ちている。未来は誰のものでもない、僕達全員のものだ。だから元気を。Look up, Hanna.

 なお最後のフレーズ、ハンナへの呼びかけは私が以前に見つけた和訳で、出典は不明です。ごめんなさい。

 それはさておき、今だからこそ心を揺るがされるスピーチです。特に私が強く共感するのは、下記の呼びかけです。"兵士"も含めた、私たち民衆への呼びかけと捉えたいですね。

 兵士たちよ、あの人でなしの連中に自らを譲り渡すな。奴らは諸君を軽蔑し、奴隷にし、諸君の暮らしを統制し、諸君が何をすべきか、何を考えるべきか、何を感じるべきかを教え、諸君をしごき、諸君の食い扶持を減らし、諸君を家畜のように扱い、諸君を大砲の餌食として利用しているのだ。

 私たちを、名も無き民衆を、世界中の虐げられた人びとを、軽蔑し、奴隷にし、食い扶持を減らし、家畜のように扱い、大砲の餌食として利用しようとしている世界のリーダーたちにぜひ聴いて、噛みしめてほしいスピーチです。
 習近平氏、ドナルド・トランプ氏、ウラジーミル・プーチン氏、ベンヤミン・ネタニヤフ氏、高市早苗氏、ぜひ耳を傾けてください。

 追記その一。恥ずかしながら、このスピーチの背景として流れているのがワーグナーの楽劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲であることに気づきました。なんて美しく胸に迫る音楽でしょう。ワーグナーを国威発揚に利用したヒトラーへの抗議かもしれません。

 追記その二。チャップリンの伝記映画が近々公開されます。もちろん観にいくつもりです。

by sabasaba13 | 2025-12-18 06:58 | 映画 | Comments(0)
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