「浅草博徒一代」

 「浅草博徒一代 アウトローが見た日本の闇」(佐賀純一 新潮文庫)読了。余命幾許もない博徒を治療した著者が、彼の人柄に惹かれて聞き取った話をまとめた本です。時代は大正から昭和、恋と駆け落ち、博打、中国での兵役、殺人と服役、関東大震災、そして大空襲。浅草一帯に勢力を張った博徒、伊地知栄治氏の波乱万丈のアウトロー人生に引き込まれてしまいました。日本近代史の裏面と闇を語る証言としても貴重です。一つ一つのエピソードももちろん面白いのですが、何より彼の語り口が魅力的。己の人生を誇りもせず卑下もせず、満足もせず後悔もせず、淡々とざっくばらんに語ってくれます。なるほど、ボブ・ディランがこの英訳を読んで影響を受け、アルバム『Love and Theft』の歌詞に類似性が認められると話題・問題になったのも頷けます。
 関東大震災の時に指のない水死体がたくさんあったという話は初耳でした。高価な指輪を盗むために、膨れた指を切り落としたらしいです。刑務所から脱走した者は受刑者から英雄扱いされると勝手に思い込んでいたのですが、さにあらず。捜索費用捻出のため囚人の食費が減らされるので、凄まじい憎悪を向けられるのですね。もし仮に刑務所に入ることになったら、ちゃんと服役しましょう。敗戦直後の証言も興味深い。軍人も民衆も、軍の物資をかたっぱしから隠匿し盗み売り払った状況がよおくわかりました。「例の天皇陛下の放送だ、…あれでみんなが泥棒になった」という三郎の言葉、かみしめましょう。
 彼の語り口の魅力にふれてほしいので、長文ですが引用します。
 囚人の中には、…ご機嫌とりをやらないものもいます。そんな人間は、自分を絶対に曲げない、意地になっている。自分が相手に勝てるか勝てないかを考えないで、がむしゃらに喧嘩する野良犬のようなもんです。そんな囚人は、刑務所から出てもなに一ついいことが待っているわけじゃない人間が多いんですね。女房子どもがいるでなし、これという仲間がいるというわけでもない。もしそんなのがいれば、人間というものは目の前の苦しさには我慢出来るものです。

 バクチで儲けようなんて思って来るものはいましょうが、それは馬鹿というものです。バクチに金を賭けるということは、わたしに言わせれば擂鉢に金の延べ棒を入れてゴリゴリと擂るようなもんで、だんだん小さくなって、しまいにはなくなっちまう。…金は全部擂鉢、つまり胴元のところに吸われるように出来ているんですから…

 バクチ打ちというのは、今の暴力団とはまったく違います。バクチ打ちというのは、サイコロ一つで生きて行く一種の職人です。だから人情というものが大切で、人を痛めつけて自分だけ儲かりゃあいいというような考えでは、到底生きてはいけない世界ですよ。
 大事なのは希望と人情、そしてバクチに手を出さないこと。しかと受けとめました。それにしても最後の一文は、臓腑にずっしりと響きます。政治家・官僚・財界が声高に叫ぶ「市場原理・競争・自己責任・民営化」というのは、要するに人を痛めつけて自分だけ儲けりゃいいということですよね。堀江貴文氏を筆頭に、多くの企業経営者の行動基準だと思います。ま、彼は政治家の厚い庇護がないため逮捕されたのではないかな。けちらずにもっと自民党に政治献金をしていればよかった…と本人も悔やんでいるかもしれません。余談ですが日本の刑事裁判においては被告人の有罪率は99.95%(!!!!!!!!!!!)ということなので、起訴されたらほぼ間違いなく氏も有罪でしょう。それにしても、この数字には慄然とします。裁判所って何のためにあるのでしょうね。

 政官財関係諸氏に、博徒を見習えなどという無理無体な注文はしませんが、せめて彼らの人品・人格・人情に少しでも近づく努力をしてほしいものです。
by sabasaba13 | 2006-01-24 06:05 | | Comments(2)
Commented by k国 at 2006-01-25 07:54 x
全く同感です、堀江氏が自民党に政治献金してたら当分は見逃してくれたでしょうし、摑まらない為の裏情報も入ったでしょう
これは耐震疑惑問題を、このままで終わらせたいが為の国民の目先を
変える手段でしょう。
一番問題がある検査機関には最近触れてません、極端に言えば検査機関がしっかりしてれば姉歯氏も偽装は出来なかったのです
そんな節穴機関は野放しです、天下りが山ほど入ってますので国土交通省との癒着があるはずなんです
業者をつつけば政治家の名前も出てくるでしょう、完全な目先外しですね
マスコミは完全に引っかかってる気がする、耐震疑惑も尻尾を切って終り
Commented by sabasaba13 at 2006-01-25 20:01
 こんばんは。なるほど、国民の目を耐震疑惑問題からそらすためには、絶好のタイミングですね。本日のタブロイド新聞の見出しが(起訴されてもいないのに)堀江、堀江、堀江と連呼していたので、耐震疑惑の方はすぐ忘れてしまうかもしれません。メディアについては、引っかかったというよりも、阿吽の呼吸・暗黙の了解・俺の目を見ろ何にも言うな状態で、堀江氏バッシングにしばらく勤しむでしょうね。「ご臨終メディア」(森達也+森巣博 集英社新書0314)を読むと、現今の日本メディアの腐臭がほんとに漂ってきます。ノンスメル(古いなあ)が欲しくなりました。
<< 野田編(1):もの知りしょうゆ... 麻婆豆腐 >>