「ひとり旅は楽し」

 「ひとり旅は楽し」(池内紀 中公新書1742)読了。著者はドイツ文学研究者ですが、NHK-FMの「日曜喫茶室」の常連だったり、「地球の歩き方」に一文を呈したりと、学者ぶらないかなり気さくな方だという印象をもっていました。そうそう「となりのカフカ」(光文社新書164)もわかりやすく面白かったです。その池内さんがこれほど一人旅を愛してやまないとは知りませんでした。普通、旅行に関する本ですと、何やらノウハウを偉そうに伝授するとか、単なる自慢話に終始するとか、(本ブログのように)知ったかぶりの知識をひけらかすとか、鼻持ちならないものが多いのですが、この本は違います。
 場末の大衆酒場(死語?)で一杯やりながら、「そういえばこんなことがあったけ、また旅に行きてえなあ」と語りかけられるようなしみじみとした滋味に溢れた旅の本です。決して押し付けがましくなく、かといって読者を突き放し孤高の境地を気取るでもない、「淡き水の如き交わり」を読者、というよりも旅好きの人間と結ぼうとしているような気がします。
 訪れた町の本屋を丹念に見て歩く、足と連動させて嗅覚と視覚を研ぎ澄ます、タクシー運転手との会話を楽しむ、鉄道受け入れに反対し時勢に乗り遅れたがその結果古いものを残せた町の頑迷固陋さを褒め称える、蚊と闘う(小泉八雲は「なにやら邪悪な人間の魂が圧縮されて、あの微妙な風体と化し、かすかな泣き声をたてているのではあるまいかと想像したくなる」と言っているそうな)、風呂でおしゃべりする人を心がカラッポだと罵倒する… 旅とともに思考と感性が、空高く飛翔していくかのようです。高橋新吉という詩人の存在を知ったのも、この本です。
生きてゐる事は滑稽な事だぞ 馬鹿者共
生きてゐる事は滑稽な事だぞ 馬鹿者共
生きてゐる事は滑稽な事だぞ 馬鹿者共
生きてゐる事は滑稽な事だ            「滑稽」

留守と言へ
ここには誰も居らぬと言へ
五億年経つたら帰つて来る   「るす」
 わが意を得たのは、日本旅館と同窓会を嫌うという著者の識見です。前者に前者については、一人一室を断る、料理を作り置きしてある、部屋で食事を食わせる、スリッパが安っぽい、酒の銘柄を選べない、半纏やどてらをたたんで新品にみせかける、などなど。ポンッ 同感です。後者についてはもっと手厳しい。
 むかしから同窓会といったものが苦手だった。何十回となく案内をもらったが、とうとう一度も出なかった。たまたま同じ年に学校にいたというだけで旧交をあたため合うのはへんだと思うからだし、何の必然性もないのに集まってワイワイいうのはコッケイなような気がするからだ。同窓の縁でむつみ合うのは、ぬくもりの残ったトイレに腰かけるような不快感がある。
 パンッ これも同感。特に最後の喩えは秀逸ですね、時々使わせてもらおうっと。

 凡百の旅行記とは一線を画す好著です。ああまたどこかに一人で行きたくなってきた。
by sabasaba13 | 2006-01-31 18:23 | | Comments(2)
Commented by K国 at 2006-02-04 10:05 x
私も基本的に一人旅が好きでして、それもバイクか自転車での旅
車でも東北までの家族旅行はしましたが、バイクの後ろに最小限の荷物で旅をする気ままさにはかないません
キャンプが主体でうらびれたキャンプ場の方が好きなんです
似たようなバイク仲間が寄って来て一期一会の宴会で盛り上がります
それぞれが一匹狼ですので何かにコダワッテテ面白い
エスプレッソを飲むのが好きな奴とか、限られた荷物に積んでいるのです、名前も仕事も聞きません
次の朝、気おつけてな~の一言でそれぞれ分かれて旅立ちます
その時の写真を見ながらバイクのナンバーで愛知の人、茨城の人とかで
思い出す、旅は田舎に限りますね
Commented by sabasaba13 at 2006-02-04 17:42
 こんばんは。私の場合は、公共輸送機関と貸自転車と徒歩主体で、街中のビジネスホテルに泊まる一人旅です。そのため地元の方々とはいろいろ話ができますが、同好の士と触れ合う機会はほとんどありません。お話のような出会いと別れ、羨ましく思います。免許はたぶん取らないと思うので、これからも蝸牛のように地べたをはいつくばって旅をするつもりです。
<< 「<民主>と<... 「オリバー・ツイスト」 >>