「ご臨終メディア」

 「ご臨終メディア ―質問しないマスコミと一人で考えない日本人」(森達也+森巣博 集英社新書0314B)読了。瞬間消臭スプレー(無香料)を小脇に抱えながら読むことをお勧めします。現代日本のメディアが漂わせる屍臭・腐臭・腐卵臭に鼻が曲がってしまうこと請け合いです。
 森氏はオウム真理教を描く「A」「A2」などを作成した映像作家。森巣氏は世界中のカシノを渡り歩くギャンブラーで、著作業も営んでおられ、「無境界家族」というユニークな随筆を読んで以来贔屓にしております。個人の自由を抑えつける日本を嫌い、国家によるしばりが最も少ないと思われるオーストラリア国籍を取得した方でもあります。この両者が対談形式で日本のメディアを徹底的に批判したのですから、面白くないわけがない。マスコミの体質を知悉する森氏が静かな闘志を内に秘めながら相手の弱点を冷静に攻めれば、森巣氏は憤怒の形相で凶器(暴言)攻撃をくりかえしながらも意表をつく大技でTKOをねらいます。まるでドリー・ファンク・Jrとタイガー・ジェット・シンがタッグを組んだよう。メディアは「感情」と「論理・ルール」のどちらに軸足をおくべきかをめぐって時々仲間割れもしますが、両方とも大事だということで破局には至りません。

 確かに昨今の日本のメディアの下劣さは目を覆いたくなります。中身の無い醜悪なテレビ番組を垂れ流し、強い者(小泉首相・石原都知事)には媚び諂い、弱い者(イラクで人質にされた三人・堀江貴文氏)はみんなの憎悪や恨みを代行するかのように徹底的に叩いて懲罰し、世界の重要な動きを報道せず、視聴率が稼げそうな国内の話題を追いかける(タマちゃん!)…
 詳しい分析は本書にゆずるとして、一言で言うと、高い利潤と収入を守るために、視聴率や購買数を最優先し(人々が求めているとメディアが判断した内容を優先…)、面倒を回避し(政治家を追及しない、抗議を恐れる…)、その結果として国民の知る権利を代行するという重要な責任を放棄し、保身に走る。政治家や官僚・財界がメディアを操っているというイメージを持っていたのですが、そういう局面はそれほど多くないようですね。放っておいても政官財の望むようなメディアであるだろうと、完全になめられています。
 
 さあ、どうすればよいか? 森氏曰く「メディアを支配するメカニズムは、一にも二にも市場原理である。だから少なくとも、民意には大きく背かない。」「メディアにとっての最優先順位は、政権与党の顔色より数字である。」 つまりここまでメディアを腐敗させた原因は、われわれです。ということは、われわれの「民度」(社会や世界を人間的でまともなものにするための能力・意欲、と定義しておきます)が向上すれば、メディアを立ち直らせることができるというわけです。でも「民度」を上げるためには、質の高いメディアの存在が不可欠です。ニワトリが先か、卵が先か? でも諦めることだけはやめましょう。森巣氏もこう言っています。
 永い博奕体験から、私には言えることが一つある。それは、希望が絶望に変わるのは諦めたときなんです。諦めちゃいけない。絶望に陥ってはいけないのです。やれるところから変えていきましょう。
 まずはろくでもない新聞は買うのをやめ購買数を減らし、テレビ局に「脳の表面がスケートリンクのようになるよう下劣な番組は即刻中止してください」というメールを送るのが効果的かな。
 ん? まてよ。ということは政官財諸氏にとって「民度」が向上しない方が都合がいいわけだ。だから学校を二極化して(スクール・カースト制?)、「勝ち組」学校では中高一貫化によって大学入試勉強を重視し、「負け組」学校では奉仕・道徳・職業教育を重視するわけだ。そして学校全体に対しては「日の丸・君が代」を強制して愛国心を煽り、安全教育によって過剰なセキュリティ意識を植え付け、みんなの連帯を破壊し監視社会に慣れさせる。なるほど、さすがによく考えていますね。

 森巣博氏のアルゼンチン・バックブリーカー級の大技を二つ紹介します。この発想は凄い、凄すぎる…
 (北朝鮮を民主化するために) テレビを北朝鮮に送ればいいんです。韓国のテレビ放送は映るのですから、そこから情報を得るだけで変化が生れます。米25万トンなんて言わないで、テレビ25万台を渡す。

 (死刑制度に反対) もし死刑制度を継続するというのなら、執行の制度、刑務官が殺人代行するのをやめるべきです。選挙人名簿から無作為抽出し、その人に文化包丁でも渡し死刑執行をしてもらおうというのが私の意見です。それこそが国民の意思の遂行じゃありませんか。(「死刑囚が乗った踏み板をはずすボタンは、複数設置されています。要するに、誰が押したボタンが処刑に繋がったかがわからないようなシステムになっている」という森氏の証言あり)
 貴重な情報も多々ありましたので、いくつか紹介します。
 視聴率調査はビデオリサーチの一社独占体制で、わずか6600世帯へ調査を委託。

 刑務所では讀賣新聞しか読めない。

 SBS(オーストラリアの少数者のための公営放送局)で、日本人三人がイラクで人質にとられた時の自己責任論について放送された。なぜ自己責任となるのかとインタビューされた「産経新聞」の編集委員は、「ノーコメント」と答えた。

 日本テレビが、北朝鮮への25万トンの米の援助決定で調整しているといった報道をしたことが、小泉訪朝の妨害だと言い、首相官邸は取材陣の政府専用機への同乗を認めなかった。

 アブグレイブ刑務所におけるイラク兵への様々な形の暴力を、アメリカのメディアはtorture(拷問)と呼ぶかill-treatment(虐待)と呼ぶかで統一されていないが、日本のメディアはすべて「虐待」と報道。ちなみにフセイン政権による暴力はすべて「拷問」と報道。

 「A」を撮影しているカメラの前で、捜査側の人間が自ら転び、それをオウム信者にやられたとして公務執行妨害で不当逮捕をした(転び公妨)。警察は、どうせ報道しない(できない)だろうと、メディアをなめきっている。

 NHK番組「問われる戦時性暴力」の内容が改竄されたとして、取材を受けた市民団体が提訴を行った。判決は、改竄を行ったNHKの責任は問わず、実際に取材・制作を担当したドキュメンタリージャパンに賠償命令を下した。理由は、被取材者が、取材の結果に対して抱く期待は、法的保護の対象となる(期待権)ということであった。

 現在、パチンコで得た景品をおおっぴらに換金できる。景品を買い上げるシステムを警察が立ち上げたからだ。これによって警察は、共済組合から毎年数百万円の年金を頂戴できる仕組みになっている。

 セキュリティを求めて過剰な監視社会が到来すると、警察は天下り先が増えて喜ぶ。
 追記。今朝のニュースは懐妊一色です。ふう
by sabasaba13 | 2006-02-08 06:09 | | Comments(2)
Commented by K国 at 2006-02-09 18:07 x
商売柄、耐震疑惑が気になりますが一番の問題は検査機関がしっかりしてないからなんですけど、書類を提出した側の責任ばかり追及してる
検査機関がしっかりしてれば問題は起こらなかった
その点をマスコミは追求しない、天下りや政治家が出てくるのを恐れてるのかバカなのか
サラ金やプレハブメーカーはマスコミの大スポンサーですのでどうしても
手加減してる
木造の筋交いを入れる建て方は戦前には無かった、の本古来の建て方を無視した建築基準法を作って2x4やプレハブなどの安易な建て方を
認可する、明らかに職人減らしの政策、張りぼての家ばかりにして修理も出来ない、百年経ったらまともな家は無くなってしまう
建て替えることも出来ずに途方にくれた国になってるでしょう
本物の目を持たねば流されてしまう
Commented by sabasaba13 at 2006-02-10 20:20
 こんばんは。たしかに検査機関の不手際に対するメディアの追及は甘いですね。やはり政治家・官僚・財界との軋轢や面倒沙汰を避け、保身に走っているのではないかと思います。建築に関するご指摘は迂闊にも知りませんでした。あらゆる分野で、私たちの知る権利を代行していない状況があるのでしょうね。いかがわしい日本社会を耐えて「生きる力」よりも、「だまされない力」「社会を変える力」を身につける必要を心底感じます。
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