「日本という国」

 「日本という国」(小熊英二 理論社)読了。私が畏敬する小熊英二氏が、いまの「日本という国」のあり方がどうしてできたのか、若者向けに語るとなれば、読まないわけにはいかないじゃないですか! 心底嬉しいですね、気鋭の学者が自らの仕事を、分かりやすく若者に伝えてくれる。今、学問の世界で一番欠けていて、しかも一番大事なのはこれだと思います。
 二部構成になっていて、前半は「大日本帝国」の基本的なしくみができあがった明治期、後半は「日本国」の基本的なしくみができあがった第二次大戦後の歴史について述べられています。わずか186ページでこの重要な両時期を語ろうとする力業には感服。当然、総花的な記述は無理なので、前半は教育、後半はアメリカ・アジアとの関係に焦点を絞っています。正直に言って、前半の教育に関する部分は論拠が弱いと感じました。学校で教えただけで、国家への忠誠心はそう簡単に国民に根付くものではないと思います。学校教育を含んだもっと広い意味での「教育」を論じるとともに、帝国日本の基本的しくみを規定した欧米・アジアとの国際関係にももっとふれた方がよかったのでは。後半部に関しては脱帽です。よくぞまあこのページ数で、これだけ手際よく戦後史をまとめたものです。靖国問題や、自衛隊、米軍基地についてもきちんとおさえてあるのはさすが。戦後の日本とは、アメリカの後ろ盾を利用して、戦争の賠償を軽くすませ、アジア諸国との友好関係を築く真摯な努力を放棄し、その上それをろくに自覚もしていないまま経済大国となった国だということがあらためてよくわかりました。これじゃあ友だちはできないよね。
 それにしても小中高等学校で受けた雑駁で無味乾燥な歴史の授業は、あれは何だったのでしょう。もし若い頃この本と出会えていたらなあと痛感します。著者の言です。
 この国のこと、そのしくみや歴史を知り、いまの状態がどうやってできてきたかを理解する。そういうことは、めんどうくさいけれど、必要なことだ。なんといっても、私たちはこの国に生きていて、この国が進む方向によって、自分の運命を左右されかねないのだから。
 自分の生き方や運命をより良くする方向に、この国を進ませる。そのための知識や判断力や戦略を身につけるのが、教育の重要な目的の一つだと思います。せめて副教材として、ぜひ学校等で利用してほしいですね。この本を教科書として認定する度量が文部科学省にあれば、日本の教育行政は真っ当なものなのですが。まあ無理でしょう。でも、この国の進路に対するみんなのコミットメントを嫌う政治家たちを、次の選挙でかたっぱしから落選させれば、変化は起こせると思います。

 これからこの国の進む方向について、この本を材料にしながら、みんなでワイワイガヤガヤと考えてみませんか。

 追記。朝日新聞が「新戦略を求めて」という新シリーズをはじめるぞと力んでいます。その意気込みを示す一文(06.4.23)の中に「日本が今後も米国との同盟を軸にすべきなのは疑いない。いざとなれば身を賭して民主主義を守る米国である。」とありました。はっはっはっ。論説主幹の若宮さん、アメリカ史を勉強して、民主主義を守ったケースと、破壊したケースと、どちらが多いか調べて方がいいですよ。それはさておき、日本政府の奉納する駐留経費(われわれの税金)目当てに居座る在日米軍の撤退や、予算と既得権にしがみつく自衛隊(「北朝鮮の特殊部隊2500人が全国の重要施設124ヵ所に攻めてくる可能性があり、それに反撃するために今とほぼ同じくらいの人員は必要だ」と財務省に言ったそうな)の廃止あるいは国際救助隊への改編など、もっと根本的なところからこの国の進むべき方向を考えたいですね。政治って可能性の芸術なんでしょ。
by sabasaba13 | 2006-05-02 07:05 | | Comments(0)
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