「核大国化する日本」

 「核大国化する日本 平和利用と核武装論」(鈴木真奈美 平凡社新書336)読了。この本が多くの人に読んでもらえたら確実に日本はまともな方向に変われるものと確信します。お薦め、万人必読の書です。マス・メディアによりしばしば取り上げられる北朝鮮の核実験、ほとんど取り上げられない六ヶ所村再処理工場の本格的稼動や劣化ウラン弾の使用など、今の世界を脅かす核問題についての簡潔にして核心をついた見通しを提供してくれる見事な本です。
 冒頭部分でいきなり鉄槌をくらいました。日本では、軍事利用すると「核」、平和利用すると「原子力」と、表現を変えていますがこれは日本だけの慣例であるという指摘です。なるほど、英語では“nuclear”という言葉で、双方を表現します。「核」の危険性をぼやかし曖昧にするための官僚用語ですね。
 中心となるテーマは、今日本政府が進めている原子力発電における再処理-高速増殖炉路線についての概説とそれに対する批判です。高速増殖炉とは、プルトニウム燃料を使うと同時に、使った以上の量のプルトニウムが炉内に生成されるようという「夢の原子炉」です。しかし大変難しい技術であることから、開発から撤退する国が相次ぎ、今でも商業利用をめざして巨額の資金を投入しつづけているのは日本だけです。おまけに実現の見通しも全くたっていません。それなのにプルトニウムを使用済み核燃料から取り出そうという再処理計画は着々と進められています。高速増殖炉開発の目処がたたないので、そのつなぎとしてプルトニウムとウランを混ぜた核燃料(MOX燃料)で発電を行おうというのがプルサーマル計画。
 著者はこの計画の杜撰さ、無謀さ、危険性、天文学的数字となる経済的コストについて、冷静かつ論理的かつわかりやすく述べられています。一読して、茫然自失。見果てぬ夢にかけるコスト、再処理工場から排出され内部被曝を引き起こす多量の放射性物質、目処がたたない放射性廃棄物の処理、地震や航空機事故や人為的ミスによる事故の可能性、そしていわゆる“テロリスト”による盗難の恐れ、それを防ぐための莫大なコストと治安強化、などなど。とても書き尽くせるものではないので、詳細はぜひ本書をご覧ください。ただ間違いないのは、スプーン一杯で2000万人を殺せるプルトニウムを40トン(粗製核爆弾5000発分)あまり抱え込み(2004年末)、高いお金(=われわれが払う税金と電力料金)をかけてもっともっともっともっと取り出そうとしているのがわれらが日本という国です。愚にして狂、盗難や事故というリスクを考えると、これは世界の安全保障にとって大変な脅威です。
 また核や核燃料サイクル、核拡散に関する基本的な知識・情報ももりこまれているので、大変勉強になりました。北朝鮮の核実験を弁護する気は毛頭ありませんが、諸悪の根源とばかりにかの国に罵声を浴びせるだけでは、核拡散という恐るべき事態は解決しないことが納得できました。核兵器を独占し続けようとする米英ロ仏中、国際社会から黙認されているイスラエルの核兵器保有、それに対抗するためのイランの動き、さらに政治的・経済的思惑からアメリカが認めたインドの核兵器保有といった状況を見て見ぬふりをして、北朝鮮だけに制裁を(あるいは武力攻撃を)加えるというのではあまりにも虫がよすぎます。長期的には核廃絶を展望した上で、全世界的な規模での対策を考えるべきでしょう。そういう意味で中川政調会長や麻生外相の「核武装について議論すべき」という意見は、理想と政治的リアリズムを欠いた妄言ですね。著者曰く「北朝鮮のように核拡散防止条約(NPT)脱退を一方的に宣言して核爆弾を製造しよう、あるいはイラクのように国際原子力機関(IAEA)の査察を欺いて秘密裏に核兵器製造の準備をしよう、と提唱しているに等しい。」 こうした人物を要職につけている自民党の識見をあらためて根底から疑うとともに、彼らに投票した有権者の識見の欠如にも驚きます。

 さてそれでは何故、官僚や電力会社や科学者は絶望的破綻が目に見えている再処理-高速増殖炉路線をレミングのように突っ走っているのでしょうか。著者は、政財界の利権、科学者の夢、核兵器製造の技術的ポテンシャル維持、国際的に認められた再処理という貴重な既得権の保持などをあげられています。愚考のすえ、もう一つつけくわえましょう。責任追求の回避! これだけ莫大な資金をつぎこみ自然を汚染しながら、いまさら「やっぱできませんでした」とは言えませんよね、関係者諸氏。中国侵略の失敗を認めて責任を追及されるぐらいなら、一か八かのるかそるか、ヨーロッパ戦線でのドイツの勝利を信じて対米戦争を選んだという史実を思い起こさせます。責任を追及されるぐらいなら国民を道連れに地獄へ堕ちてもかまわないという行動パターンは、日本の官僚(注:もちろん軍人を含む)のお家芸ですからね。

 以前、日本はせめて人類に教訓を与えるような滅び方をしてほしいと書きました。しかし最悪のシナリオが存在することを、この書から教えてもらいました。原発事故により国土の何分の一かが放射能汚染され人の住めぬ不毛の地となると同時に、放出された放射能が東アジア、太平洋、そして全世界を汚染してしまう… そうなったらこの「美しい国」は人類の歴史に永久に名をとどめるでしょう、永久に。

 追記。本書に次のような記述がありました。
 六ヶ所村再処理工場も、当初、(クリプトン85という放射性希ガスの)回収装置の導入を予定していた。ところが、いつのまにかその施設が設計図から消えてしまったのである。つまり全量、垂れ流しだ。…(トリチウムも)垂れ流しである。…炭素14も垂れ流しである。
 姉歯建築士のしたことが天使の所業に見えてきます。
by sabasaba13 | 2006-10-30 06:12 | | Comments(2)
Commented by 磯野鱧男 at 2006-11-20 20:16 x
TBありがとうございました。

>姉歯建築士のしたことが天使の所業に見えてきます。

それはないと思いますが……。(-_-;)
比較としては、ありかな???
Commented by sabasaba13 at 2006-11-21 21:01
 こんばんは。2/5は冗談ですが、7/8は本気です。姉歯建築士の設計した建築物はたしかに危険きわまりないものですが、遺伝子や世界各地や数千年後の未来にまでおぞましい悪影響を与えることはないと思います。悪魔だってもう少し気を使うのではないでしょうか。
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