「父親たちの星条旗」

c0051620_663253.jpg 先日、「父親たちの星条旗」(監督:クリント・イーストウッド)の試写会を、有楽町よみうりホールで見てきました。太平洋戦争末期における硫黄島の戦いをテーマとした映画です。この島は東京とマリアナ米軍基地との中間に位置していたので、アメリカ軍はB-29による日本本土空襲の中継基地、そして掩護戦闘機隊の出撃基地とするため同島の攻略を企図しました。(1945.2.19) 約2万3000人の日本軍守備隊は、島内に無数の地下道を張り巡らし徹底した陣地持久戦によって抵抗したため、米軍の損害が続出しました。しかし米軍の猛攻によって、3月末には日本軍の抵抗は終わりを告げますが、米軍の損害(死傷者数2万5000人)が日本軍のそれを上回った唯一の地上戦闘として有名です。
 また、凄まじい激戦が行われた擂鉢山の頂上に数人のアメリカ兵が星条旗を立てる場面を撮影した写真が有名です。この写真がアメリカ人の戦意高揚に大いに利用されたようですね。さてこの映画は、その旗を立てた三人の兵士を描いたものです。彼らすぐに本国に呼び戻され英雄に仕立て上げられ、戦時国債を売るためのキャラクターとして政府に徹底的に利用されていきます。しかしこの写真は、ある事情で旗を立て替えた時に偶然撮影されたものだったのです。多くの戦友を戦争で失いながら、自分たちだけが偽りの写真によって英雄扱いされることに苦しむ三人… さらにそのうちの一人はネイティブ・アメリカンで、その後も人種差別に苦しめられるというサイド・ストーリーもあります。
 それにしても何故、今、イーストウッドは硫黄島の戦いを描いたのか。第二次大戦後もくりかえし戦争を続けるアメリカ政府への批判だと思えてなりません。もちろん圧倒的な軍事力で一方的に敵を叩くのが今のアメリカの戦闘ですが、(イラク戦争でもそうですが)占領地を制圧するための地上戦闘がなくなるわけではありません。英雄を捏造しながら愛国心を煽り、貧窮階層出身の若い兵士を地上戦闘に駆り立て続けるアメリカ政府。登場人物の一人は死ぬ直前に、自らが経験した戦争について黙していたことを息子に謝罪します。どんなケースであれ戦場は醜悪で非人間的なものであるということを、きちんと伝えるべきだという監督の思いを感じます。
 そしてこの映画の本当の主人公は、戦場だと思います。CGを駆使した戦場の描写は圧倒的なものでした。今年の夏にテニアンサイパンに行って、上陸用艦艇(LVT)やトーチカの残骸をこの目で見てきただけに、より胸にせまってきます。狙撃、肉弾戦、誤爆、引き裂かれた肉体、自決、その描写にはヒロイズムのかけらもありません。もしここに一般市民がいたらどうなるのか、それは私たちの想像力の問題です。戦場がいかにおぞましいものか、それを感じるだけでも見る価値は十分あると思います。そして今、世界の各地でこうした殺戮が繰り返されていることにも思いを馳せるべきですね。
by sabasaba13 | 2006-10-31 06:07 | 映画 | Comments(4)
Commented by magic-days at 2006-11-01 09:03
実はこの映画は8月日本に向けてクリント・イーストウッド監督が
日本の皆様へと名指しでコメントを朝日新聞一頁に大々的に掲載
した時から、楽しみにして居りました映画放映です。
戦争と言う物をアメリカからだけでなく、日本からも見る事が
より真実に近付け公平であると思った彼らしい考えだと思います。
訳あって私は今は映画館に行けませんので、映画の感想を皆様に
お聞かせ出来なくて残念です。
散歩の変人さんの感想をより多くの方に読んで頂きたく、
風景写真さんお二方のアドレスを拙い私の日記に掲載しました事を
事後では有りますが御容赦ください。
これからもガッツの有る発言をこの世の中にかっ飛ばして下さい。
Commented by sabasaba13 at 2006-11-02 17:14
 こんばんは。この映画を見て、最新のコンピュータ技術を駆使し、かつ高い志があれば、ある程度まで戦場の残忍さ・恐ろしさ・いかがわしさ、そして何よりも非人間性を描けるのだなあと思いました。ぜひ誰かに沖縄戦の映画をつくってほしいですね。もし私に一財産あればプロデューサーになるのですが、何せ濁貧の身ですので…
 掲載の件、了承いたしました。また過分なお褒めの言葉をいただき汗顔の至りです。
Commented by syunpo at 2006-11-02 21:30 x
「ブックラバー宣言」&「コラムニスト宣言」のsyunpoです。
お久しぶりです。
今、この時期にこれだけの映画を撮ることのできたイーストウッドはやはり生半可な映画作家ではありませんね。
日本側から描いた「硫黄島からの手紙」とワンセットになっているようですが、これ一本で、充分完結しているフィルムだと思います。
Commented by sabasaba13 at 2006-11-04 22:15
 こんばんは。まったくもって同感です。「戦場は邪悪だ」というのが彼のメッセージだと思います。
 「硫黄島からの手紙」の予告編を見たのですが、日本兵は国家や天皇のためではなく、家族のために戦い死んだという内容かと思います。戦死者を美化するような雰囲気が感じられますので、今のところ見る気は毛頭ありません。
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