教育雑感

 高校必修教科問題をマス・メディアが喧しく取り上げていますが、やれやれまたバッシング・シンドロームがはじまったかと暗澹たる思いです。これも一種の“いじめ”だと思いますけれど。もちろん学校側の行為には弁解の余地はありませんが、そこまで学校を追い込んだ文部科学省や各自治体の教育委員会の責任をメディアはきっちりと追求して欲しいですね。かなり自信のある推論ですが、業績(=偏差値の高い大学に合格した生徒数)が下がった学校に対しては公式/非公式の様々な措置が行われているのだと思います。予算の削減、管理職に対する業績評価の減点や再雇用先への悪影響、あるいは叱責や痛罵などなど。知人の話によると、東京都ではいわゆる“進学校”と認められると学校予算が優遇され、何かしらの実績を出せない学校から削った予算がまわされるそうです。いやはや、ここまでくると生徒の人権蹂躙ですね、偏差値の高い大学に合格できない生徒の教育条件はどうなってもいいということですから。これこそ「アンフェア」な行為であり「いじめ」です。

 そして今一番懸念してるのが、今国会で安倍伍長が強行採決しようとしている教育基本法改悪/改正です。前述の方向をさらに推し進め、最終的には少数の詐欺師(勝ち組)と大多数のカモ(負け組)それぞれに合わせた教育をし、両者の険悪な関係を弥縫するナショナリズムという甘い蜜をすわせるために、政府による教育の統制をもっともっともっと強化しようというものです。そしてこの事件やいじめに関する過剰な報道は、そのための地均しにメディアが協力しているような気がします。すべて学校が悪い→教育内容の統制や学校への監視・管理を厳しくせよ→そのためには教育基本法を変えるべきだ、という刷り込みですね。私としては、構造改革という壮絶ないじめによって、どれくらいの人たちが自殺に追い込まれたのかについても報道してほしいのですが。ま、それはさておき、もしこの改悪/改正案が可決されたら、格差社会はさらに深刻な事態になるでしょう。それを十分承知の上で、多くの人が自民党や公明党、そして安倍伍長を支持しているのでしょうか。それならまだ納得できますが。

 そして臓腑を抉られるような衝撃を受けたのが、ある高校生のインタビューにおける答えです。「大学入試に関係のない世界史を勉強するのは無駄だ」 嗚呼、今の世界のしくみについての興味がなく、これからの世界のあり方を考えることにも関心がないということなのでしょうか。ただこれは若者だけの問題ではないと思います。実は、21世紀がはじまった時にNHKが放映した、「世界の市民が選んだ20世紀の世界十大ニュース」という番組がありました(1999.10.17)。その凄惨な結果を忘れることができません。
アメリカ
第1位 第二次世界大戦
第2位 世界恐慌
第3位 ライト兄弟初飛行
第4位 原子爆弾の投下
第5位 第一次世界大戦
第6位 ケネディ大統領暗殺
第7位 アポロ11号月面着陸
第8位 エイズの発見
第9位 DNA構造の発見
第10位 真珠湾攻撃

ドイツ
第1位 東西ドイツ統一
第2位 第二次世界大戦
第3位 ベルリンの壁崩壊
第4位 第一次世界大戦
第5位 ベルリンの壁構築
第6位 ペニシリンの発明
第7位 原子爆弾の投下
第8位 アポロ11号月面着陸
第9位 通貨ユーロの導入
第10位 ゴルバチョフ政権の成立

ロシア
第1位 ガガーリン宇宙飛行
第2位 アフガニスタン侵攻
第3位 第二次世界大戦
第4位 ソ連崩壊
第5位 世界初の人工衛星
第6位 チェルノブイリ原発事故
第7位 対ドイツ戦争
第8位 ロシア革命
第9位 ゴルバチョフ政権の成立
第10位 第二次世界大戦の終結

日本
第1位 阪神大震災
第2位 地下鉄サリン事件
第3位 アポロ11号月面着陸
第4位 原子爆弾の投下
第5位 神戸小学校殺人事件
第6位 ダイアナ妃の死
第7位 日航ジャンボ機墜落事件
第8位 昭和天皇の死
第9位 真珠湾攻撃
第10位 サッカーW杯初出場
 他の三ヶ国が歴史を動かす当事者となった超大国であり、自国に関する事件・出来事が多いということを割り引いても、その意識の差には愕然とします。事件が与えた歴史的な影響についてまともに考えず、最近起きた衝撃的な事件にしか目が行かない。子どもは大人の言うことではなくて、することを真似て育ちます。これでは歴史を学ぶのは無駄だと公言する若者が増えても当然でしょう。子どもだけではなく、大人の学力不足も深刻な問題です。さて学力とは何ぞや? 少なくとも、偏差値の高い大学の入試で高得点を獲得するための能力であってはならないと思います。教育に関する論議も、こうした根本的なところからはじめるべきではないのかな。学力とは何ぞや? いろいろな意見や定義があると思いますが、官僚・政治家に騙されない力というのはいかが。

 追記。競争がいかに人間性を害するかについて考察した「競争社会をこえて ノーコンテストの時代」(アルフィ・コーン 法政大学出版会)という素晴らしい本があります。お薦め!
by sabasaba13 | 2006-11-01 06:02 | 鶏肋 | Comments(0)
<< 「気の向くままに」 「父親たちの星条旗」 >>