「レイシズム」

 「レイシズム」(小森陽一 岩波書店)読了。「はじめに」を読んで、先日六本木ヒルズをはじめて訪れた時に感じた強烈な違和感をある程度理解できました。もやもやしていたことを言葉にして、考察・批判の対称にするという行為は知識人の大切な役割ですね、小森氏に感謝します。
 …グローバリゼーションの成功者たちを、「六本木ヒルズ」の定住組であるとすれば、その下に「六本木ヒルズ」を職場とする通勤者たちが階層的に位置づけられ、夜や休日に、「六本木ヒルズ」に憧れ、羨望しながら食事をしたり映画を見に来る人たちが、さらにその下に位置づけられていく。その構造を見れば、「六本木ヒルズ」は、階層と階層の格差を、毎日ひとつのスペクタクルとして上演する、「新しい人種主義」のパビリオンだと言えるだろう。
 そうか! あの不快感はみんなの“差別への憧れ”を壮大な規模で見せられた結果だったんだ。本書は、グローバリゼーションが進む今の世界で静かに広まりつつある「新しい差別主義」を視野に入れて、人種差別(レイシズム)の本質を考察しようという試みです。
 アルベール・メンミは、広義の人種差別をこう定義しています。「差異(生物学的差異を含む)に準拠し、それを利用して他者を苦しめ、そこから利益を得ようとすること。自分の価値を高め、他者の価値を下げることで、言葉による攻撃が、実際の攻撃に向かうことになる。」 なるほど、こう考えると、日本社会に蔓延している様々な現象を理解する視座を得られます。いじめ、ナショナリズム、職場における女性への差別の横行なども、レイシズムの一種なのですね。著者は、人間が言語を習得する段階で、ある者を同化して「われわれ」という関係を作り出しことで特定の者を「他者化」する、つまり排除の構造の根深さを指摘しておられます。また「書く」という行為が差別を排除を生み出すというサイードの考察にふれながら、それを徹底的に突き詰めることによって、アジアを差別する/欧米人に差別される日本人のグロテスクな姿を描いた永井荷風の『悪感』を紹介しています。このテキスト分析は見事ですね、ぐいぐいと引き込まれてしまいました。
 そしてこの「われわれ/かれら」「優/劣」「美/醜」という紋切型の二項対立を克服するために、「なぜ?!」という問いかけをしつづけることを提言されています。言い換えれば、歴史的になぜそのような二項対立がうまれたのかを検証すること、そしてその検証によってこうした差別の構造が明らかとなった時に、それを転覆する勇気と技倆をもつことをためらわない。著者の言です。
 「なぜ?!」という問いかけを発するということは、疑う、という行為の実践である。ある一つの言語システムの中において、「正常」だと見なされていることを、もしかしたら、そのこと自体が異常なのかもしれない、と疑うことこそが、「知識人」の果たすべき役割なのである。
 教育基本法改悪に対して先頭に立って「なぜ?!」という問いかけを発し、それを廃止させる勇気と技倆を見せてくれる筆者だからこそ言える言葉です。幇間やタレントのような学者は増えたのに、「知識人」と呼ぶにふさわしい学者は減りつつあるような気がします。でも「なぜ?!」と問いかけることは、われわれだってできるはずです。まずここからはじめましょう。
 女性、中国人・朝鮮人、真っ当な裁判官、姜尚中氏に対して、差別的な言辞を放言するレイシスト石原慎太郎強制収容所所長に、何故選挙で数百万人が投票するのでしょう。なぜ?!
by sabasaba13 | 2006-11-28 06:12 | | Comments(2)
Commented by knockla at 2006-11-28 16:27
はじめまして。のっくらと申します。
たまたま見つけていくつか読ませて頂きましたが、
非常に共感できるテクストが多いブログです。
(森達也さんの記事ですとか)
リンクさせていただきました。m(__)m
Commented by sabasaba13 at 2006-11-28 20:25
 こんばんは。ちらかっておりますが、どうぞ気軽にお立ち寄りください。なお9月に西舞鶴に行ってまいりましたが、「つげ義春の漫画を読んだ後のような気持ち」という卓抜な比喩には頭が下がります。
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