「格差社会 何が問題なのか」(橘木俊詔 岩波新書1033)読了。現代日本における格差の現状とその要因、それによる社会の変化と将来像、そして著者の考える是正策をコンパクトにまとめた好著、お薦めです。
まず驚いたのが、書中で紹介されている、国際的データを比較してわかる日本の現状です。政府やマス・メディアが意図的に隠蔽しているような気がしますが、日本という国は社会保障と教育を軽視する、格差の大きい非福祉国家であるという現実を見据えましょう。いくつかあげますと、OECD(経済協力開発機構)が算出した所得格差を示すジニ係数によると、日本はポルトガル、イタリア、アメリカ、ニュージーランド、イギリスと同じ不平等性の高いグループに入ります。同じくOECD調査によると、日本の貧困率(平均的な所得の半分以下の人の割合)は15.3%で先進国中第三位、つまりワーストスリーに入っています。ちなみに第一位はアメリカ(17.1%)、第二位はアイルランド(15.4%)です。社会保障に関しては先進国の中でも最低レベルで、社会保障給付費が国民所得に占める比率は15.2%。なおアメリカは18.7%、スウェーデンは53.4%です。そして対GDP比で比較した公教育の支出額も先進国中最低レベルで、4.1%。ちなみにアメリカは4.9%、デンマークは8.4%。 そしてこうした傾向をさらに助長しているのが、ご存知、小泉軍曹と安倍伍長による構造改革路線です。著者の言です。 格差を容認し、助長している構造改革…は市場原理主義を基盤にしています。…すなわち極端に言えば、市場にすべてをまかせれば経済はうまくいくという論理です。新自由主義という言い方をしてもよいでしょう。この「悪魔の碾き臼」による変化については、さまざまな具体例を述べられています。それについてはぜひ本書を読んでいただくとして、市場にすべてをまかせるとどうなるか、一つだけ身の毛もよだつ事例をあげましょう。医師の責任が重く、しかも24時間体制で過酷な勤務を強いられる産科、産婦人科、小児科の医師が激減し、楽して稼げる美容外科、形成外科を選ぶ医師が顕著に増えているという事実。ま、そりゃそうだ、ある意味では当然の選択です。市場原理主義とは、金にならなきゃ女性・子どもの健康なぞしったこっちゃないということです。 そして効率性と公平性の両立は可能だとして、いくつかの具体的な提言をされています。雇用格差に関しては、同一労働・同一賃金の採用、最低賃金制度の充実、職業訓練などへの公共部門の積極的関与。地域格差については、地方への企業誘致、医療・介護設備の充実による地方への居住促進、そして農業従事者への所得保障。教育格差に関しては、奨学金制度と公立学校の充実。そして高額所得者に有利なようにゆるゆるに緩められてしまった累進課税制度の見直し。不覚にも知らなかったのですが、1986年には最高70%だった所得税が、今では37%なのですね。 さて、こうした非人間的でえげつない格差社会は、津波や地震のような自然現象ではありません。自民党・公明党・官僚・財界が意図的に政策としてつくりだしたものです。そして政策の方向性を、議論のすえに市民が決めるというのが本来の民主主義の姿であるはず。 いま、日本は選択を迫られています。一つの選択肢は、このまま、さらに「小さい政府」を実現させ、格差がさらに拡大するような道(アメリカ型)です。もう一つは、「小さな政府」から脱却し、格差がそれほど大きくなく、ある程度、福祉と教育が充実するような道(ヨーロッパ型)です。…日本にとってふさわしい選択肢を、国民に選んでもらいたいと私は希望します。そうですね、今わたしたちは重大な岐路に立っています。議論のすえに多くの人々が前者の道を選択するのでしたらまだ納得しますが(そして本気で国籍離脱と外国への移住を考えますが)、投票の棄権あるいは無関心や無知や保身や雰囲気による自民党・公明党への投票という選択をするのでしたら呆れ果て言葉を失います。こうした選択肢をきちんと提示しない政党やマス・メディアにも大きな責任がありますけれど。それはともかく、いろいろと教示される点多く、考えさせられた本でした。お薦めです。 追記。格差社会により階層の固定化が進み、親の階層を子が受け継ぐという事態にふれて著者はこう語られています。「特に政治家の場合には、親が政治家という理由のみで、もし無能な政治家が誕生し、万が一その人が指導的な地位の政治家になったのであれば、国民にとって危機的な状況さえ引き起こす可能性もあります。」 橘木さんは本当に紳士的な方ですね。私だったらこう言っちゃいます。「安倍伍長という無能な政治家が指導的な地位についたので、国民にとって危機的な状況が引き起こされました。」
by sabasaba13
| 2006-12-22 05:52
| 本
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Comments(2)
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knockla at 2006-12-22 10:44
>>投票の棄権あるいは無関心や無知や保身や雰囲気による
>>自民党・公明党への投票という選択をするのでしたら呆れ果て言葉を失います。 ああっ。その通り。 わたしは政治アレルギーでなぁなぁで流されやすい大多数の人々が 結果的に共犯関係になっていると思っています。 まぁ、今のやり方を見てますと アメリカ型に移行したいんでしょうねぇ。 こういう人たちの頭の中の世界地図って 「アメリカ!!日本!!中国!!そして朝鮮半島!!」 のほぼ4分割で成り立っているんだろうか、と思う時があります。笑
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sabasaba13 at 2006-12-22 21:57
こんばんは。どのような形であれ、政治を無視すれば政治に無視され、政治をなめれば政治になめられるということだと思います。投票率が80%を越えるという、自民党・公明党にとって悪夢のような事態が起きると、われわれの存在感も強くなるのではないでしょうか。
4分割理論は言い得て妙ですね、□一枚! もしかするとアメリカ=日本、北朝鮮、という2分割の世界地図かもしれませんが… (苦笑)
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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