「ブラス!」

 やっとDVDプレーヤーを購入したので、ビデオにおさめた映画コレクションをせっせせっせとコピーしています。そして「ブラス!」をコピーしながらまた(もう何度目だろう)最後まで見てしまいました。無人島に映画ソフトを一本持っていけるとしたら、「第三の男」「灰とダイヤモンド」「マルクス兄弟 我輩はカモである」「リオ・ブラボー」「カサブランカ」「昼下がりの情事」「おもいでの夏」などなど候補作は数多ありますが、間違いなく最終選考に残るのがこの一本です。
 「ブラス!」(1996年イギリス 監督・脚本マーク・ハーマン)。サッチャー政権による新自由主義政策により、廃坑に追い込まれようとするヨークシャー地方の小さな炭鉱の町グリムリーが舞台です。炭鉱で働く男たちがつくるブラスバンドが全英選手権優勝をめざしますが、生活苦や失業による不安にため練習にも熱が入りません。バンドと音楽に情熱を捧げる指揮者のダニーも苛立ちをかくせません。そうした中、労働組合は投票の結果、幾許かの給付と引き換えに廃坑を受け入れます。そしてかつて炭鉱で働いていたダニーは、肺の病気のために倒れてしまいます。息子のフィルは、職を失い、妻子に出て行かれ、音楽を失い、そして父を失わんとする絶望により、自殺を図ります。さあグリムリー・コリアリー・バンドは選手権の開かれるロイヤル・アルバート・ホールに行くことができるのか。
 目をつむると、いくつもの名場面が浮かんできます。ダニーの病室の下で演奏される「ダニー・ボーイ」、一命をとりとめたフィルがその想いを父に打ち明ける場面、そして音楽ができる喜びを爆発させるかのような、選手権での「ウィルアム・テル序曲」の演奏。そしてクライマックスは、会場に駆けつけたダニーが行った優勝のスピーチです。ここで涙腺は全開。これは『チャップリンの独裁者』におけるスピーチと双璧をなすものです。
 彼らは言うでしょう、私には何よりもトロフィーが大事と。だが違う。以前は、音楽こそが大事と思っていました。しかし人間の大切さには及びません。そこで私たちはトロフィーの受領を拒否します。どうです? ニュースでしょう?
 これは私個人の独り言には収まりません。この10年来、政府は産業を破壊してきた。我々の産業を、さらには我々の共同体、家庭生活を。発展の名をかりたまやかしのために。二週間前、このバンドの炭坑も閉鎖されました。またも大勢が職を失った上に、大会に勝つ意欲、闘う意志まで失いました。しかし生きる意志すら失ったら…悲惨です。皆さんはアシカやクジラのためには立ち上がる。でも彼らはごく普通の正直で立派な人間です。その全員が希望を失っているのです。彼らはすばらしい演奏をします。でも何の意味が? では仲間と町へ帰ります。ありがとう。
 コミュニティや家族、そして何よりも人間の尊厳を虫けらのように踏みにじる新自由主義政策に対して、静かにそして力強く抗議を行うダニーの毅然とした姿は何度見ても胸を打たれます。小泉軍曹・安倍伍長による構造改革路線に脅かされ踏みにじられている私たちに、必ずや勇気を与えてくれる必見の映画です。

 そして忘れてはいけないのが音楽の素晴らしさ! グライムソープ・コリアリー・バンド(実在する炭鉱夫のブラスバンド)による演奏なのですが、時にはビロードのように滑らかに、時には獅子のように吼え、そして一糸乱れぬアンサンブル、その見事な演奏には感服します。サウンド・トラックもお薦め。余談ですがイギリスのブラスバンドには、クラリネットなどの木管楽器が含まれていないのですね。

 追記その一。残念ながらDVDは品切れのようです。

 追記そのニ。『チャップリンの独裁者』におけるスピーチも載せておきます。
 私は皇帝なんかになりたくない。征服も柄じゃない。ただ皆を助けたいだけだ。人間は互いの幸福で支え合って生きている。憎んではだめだ。大地は必ず皆に恵みを与える。だが私達は方向を見失った。欲望に毒され他人を貧困や死に追い込んでる。乗り物は速くなったが人は孤独になった。知識は増えたが豊かな感情を無くした。機械より人、知識より心が大切だ。でなければ人生は無だ。発明品は本来人に戒めを求めているのだ。今も私の声は全世界の人々に届いている。絶望している女や子供、組織の犠牲者などに。そんな人々に言おう、絶望してはならないと。欲望はやがてしぼむ。独裁者は滅び、再び民衆の力が芽吹くだろう。人は死ぬが自由は残る。兵士達よ、独裁者に耳を傾けてはならない。君たちは感情までも統制され操られている。独裁者の心は冷たい機械でできている。君たちは機械じゃない、人間なんだ。愛を持て、憎しみは捨てよう。諸君、「神の国は汝らの中にあり」と言うが、特定の人でなく皆の中にあるんだ。誰でも人生を楽しくする力をもっている。その力を結集し社会のために役立てよう。働く意欲がわく社会のため。独裁者も初めはそう言って人心をつかんだ。だがそれは嘘だった。独裁者は自分の欲望だけを満足させたのだ。国家間の障害を取り除こう。偏見をやめて理性を守るんだ。そうすれば科学も幸福を高める。諸君、持てる力を集めよう。ハンナ、僕が分かるね。どこに居ても元気をお出し。雲が割れ日がさし始めたよ。暗闇を抜け僕達は生まれ変わる。もう獣のように憎しみ合うこともない。
 元気をお出し、ハンナ。人はまた歩き始めた。行く手には希望の光が満ちている。
 未来は誰のものでもない、僕達全員のものだ。だから元気を。Look up,Hanna.

by sabasaba13 | 2006-12-23 09:31 | 映画 | Comments(0)
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