「世界から貧しさをなくす30の方法」

 「世界から貧しさをなくす30の方法」(田中優・樫田秀樹・マエキタミヤコ 合同出版)読了。こういう素晴らしい本に出合えると、つくづく読書が好きでよかったなあと思います。
 今、地球と(人類を含む)生物は大きな岐路に立っていると思います。貧困と環境破壊と戦争・テロというアポリアをどう解決するのか、あるいはできないのか。この三つの問題は密接に絡み合っていますが、その原因は「大国の横暴」にあると思います。もちろん日本もその責の一端を担っています。てことは、一応「大国・先進国」と呼ばれる国々では選挙により政権交代が行えるわけですから(例外的な国もありますが…)、その経済的・軍事的に横暴な政策を市民の力によって変えられる可能性もあるわけです。よってこうした難問を解決するために大事なことは、一人でも多くの市民に地球の置かれている現状を、分かりやすくリアルに伝えることでしょう。アル・ゴア氏の講演もそうした努力の一環だと思います。
 本書の眼目は、「あとがきにかえて」に明白に述べられています。
 貧しさは、豊かな国の側が作った世界のしくみの問題だったのです。ですから現実の「貧しさ」を知らせること以上に、「貧困を生み出すしくみに気づいてもらう」ことが大事なのです。
 というわけで、豊かな国の側(私たちが住んでいる側です)が、より貧しい国の側から大きな利益を搾り取るためにつくったしくみを、著者諸氏が実際に見聞きし経験した事実をまじえながら、ほんとうにわかりやすく訓えてくれます。そして素晴らしいのは、私たち一般の市民が可能な範囲で行える具体策をいくつも提示していることです。いくつか紹介しましょう。貧しい国の人たちを助けている企業の株式、製品、サービスは買うけれど、悪化させている企業のものは買わない。トービン税(ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・トービンが提唱)の導入に向けて努力するよう政府を促すこと。これは、外国為替市場で行われる投機的な取引に高額の税をかけ、税収を世界の貧富の差をなくすために使うというものです。そして暮らしに必要な食料やエネルギーをできるだけ地域や国内で自給するよう努力すること。結局、こうしたものを安く海外から手に入れようとすることが、グローバル企業に利益をもたらし、そして貧しい国から食料や資源を奪取するというシステムを作動させてしまうのですね。システムを変えるためには、そのシステムを知ってか知らずか作動させている人間(つまり私たち)の意識と行動を変えなければなりません。海外から安い食料やエネルギーや製品を何気なく買い求めることによって、多くの人々を貧困そして緩慢なる死においやっているという意味で、私たちは共犯者なのですね。
 そして愕然としたのが、世界の貧富の差を拡大しつづけるこのしくみに、われらの日本政府がおおいに加担していることです。例えばODA(政府開発援助)です。先進国のODAは「贈与」が中心ですが、日本のそれは半分以上が「借款=カネ貸し」です。借りた側は返済するために、円・ドル・ユーロといった強い外貨が必要となり、輸出できる農産物をつくらざるをえません。その結果、国民向けの食糧が減り飢餓に苦しむことになります。また貧しい国々の債務帳消しにとくに後ろ向きなのもわれらの日本政府です。実は途上国は借りた額の債務はすべて返済し終えており、今苦しんでいるのは利子の支払いなのですね。途上国が先進国を「援助」しているというわけです。こうした債務を帳消しにすればどれほど貧しい人々を救うことができるか。しかし「国民の大事なお金を帳消しにできない」等の理由で、日本政府はそれを頑強に拒んでおります。「国民の大事なお金」を湯水のように無駄遣いしている官僚・政治家諸氏の口からこんな言葉が出るとは、あらまっちゃんでべその宙返りです。傲岸不遜ここにきわまるとともに、それを伝えないメディアと知ろうとしない国民の責任も大きいですね。きわめつけは、日本のODAが「殺すための援助」になっている事例です。スマトラ島のアチェにある天然ガスに目をつけた日本政府はインドネシアに巨額のODAを行い、開発の促進を求めました。インドネシア政府は、アチェの人々を移転させて採掘や精製を行うとともに、排水や排気ガスによって人々の暮らしを支えてきた自然を破壊します。これに反発し独立を求めるアチェの人々に対して、インドネシア政府が武装ゲリラを掃討するという理由で数万人の民間人を虐殺・誘拐・拷問したのがアチェ内戦の実態です。また日本のODAにより建設されたコトパンジャン・ダム(インドネシア)によって立ち退きを強制された住民は、「日本の援助は時間をかけた大虐殺だ」と言っています。わたしたちはここでも共犯者です。

 地球と生物と人類の滅亡を避けるチャンスはここ数年の間にしかない、とアル・ゴア氏は言っておられましたが、選挙を棄権しない、そしてこうしたしくみにストップをかけようとしないろくでもない政党や立候補者に絶対に票を入れない断固たる決意をしたいものです。そして他者の痛みを感じるセンスをみがくこと。マエキタミヤコ氏の言葉を引用します。
 大事なのは、自分の利益のために、誰かのものを横取りしたり、悲しい目にあわせたりする人がいたときに、「それはやっちゃいけないことだよ」と思うセンスです。
 学力(何のための?)向上と称して教育における競争を煽り、国際競争力向上と称して労働現場における競争を煽る自民党+公明党+官僚+大企業がこの国を統治・管理しているかぎり、このセンスをみがくべきだという合意は生れっこないでしょうね。
by sabasaba13 | 2007-04-04 12:49 | | Comments(0)
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