「持丸長者 幕末・維新編」

 「持丸長者 幕末・維新編 日本を動かした怪物たち」(広瀬隆 ダイヤモンド社)読了。つねづね知りたいと思っていたことがあります。日本の近現代史において、資産家・金持ち・財閥・地主・長者たちがどのようなことをしたのか? どうやって稼いだのか? 植民地支配とどうからんでいたのか、またその最終的な収支決算は赤字か黒字か? 政治権力とどういう関係にあったのか? その末裔たちが今も日本経済を牛耳っているわけだし、かなり生臭い話になりそうですね。寡聞にして、こうした歴史について本格的な研究がなされてきたのかどうかはわかりません。個別の事例やある時期を取り出しての分析はあると思いますが。金持ちの近現代史を鳥瞰できる本はないのかなあ、とずっとさがしていたのですが、ついに出ました! やはり広瀬隆氏が書いてくれました。「赤い盾」(集英社文庫)や「一本の鎖」(ダイヤモンド社)や「億万長者はハリウッドを殺す」(講談社 絶版)や「アメリカの巨大軍需産業」(集英社新書)などで、世界を動かす巨大資本の動きを克明に追求してきたのが氏です。また「東京に原発を!」(集英社文庫)や「危険な話」(八月書館)など、原子力発、もといっ核発電の危険性にずっと警鐘を鳴らし続けていることも忘れてはいけません。
 さて、本書ですが、産業と金融制度の変遷を通じて、日本の近現代史を解き明かそうという試みです。「日本を開国して近代化に着手したのは、明治政府ではなく、徳川幕府であった」というのが著者の主張ですが(私も同感)、前半では伝統や文化を守りながらじょじょに近代化を受容しようとした小栗忠順を中心とする幕臣や諸侯・藩士たちの努力について述べられています。幕府=反動、新政府=進歩、という図式はもうそろそろやめるべきだと思いますね。「小栗上野介は謀殺される運命にあった。明治政府の近代化政策は、そっくり小栗がおこなおうとしたことを模倣したことだから」という大隈重信の言葉がよく物語っています。気合を入れて幕府を擁護する気はありませんが、幕府=ひどい政権、新政府=もっとひどい政権という印象はもっております。何といっても、新政府は民衆の一揆に対して平然と発砲したのですから。
 後半は、明治期における政府要人と金持ちたちの動きをつづります。「長州を中心とした貧乏士族が積年の鬱憤を晴らすために決起した武力クーデター」という明治維新の定義は痛快! そして「金の力があれば強い武器を得られる」と身をもって実感した藩閥官僚たちが、長者たちを手塩にかけて肥え太らせ、やがて彼らにあやつられるようになっていくというのが著者の主張です。そして幕末・維新の動乱の過程で、権力者と結託し民衆から富を収奪しながら財を築いてきた長者たちの動きも詳しく描かれています。「資本は、頭から爪先まで毛穴から血と汚物をしたたらせながら生まれてくる」と言ったのはマルクスですが、ほんとですね。
 第二話の「国家狂乱編」は6月発売だそうですが、楽しみにしています。
by sabasaba13 | 2007-04-18 06:11 | | Comments(0)
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