「異国を楽しむ」

 「異国を楽しむ」(池内紀 中公新書1885)読了。拙ブログで以前に紹介しました、一人旅の達人、ドイツ文学者池内氏の旅行記海外版です。とはいえ名所旧跡をならべたてるという内容ではなく、異国での旅を楽しむための全体的な手法を教授してくれるのが本書です。肩の張らない平明な文体で、著者のさまざまな経験をおりまぜながら旅の楽しみを語ってくれます。もちろん美しい光景や名所・旧跡を訪れるのも楽しいのですが、やはり海外旅行の醍醐味は異文化および他者との出会い・ふれあいですね。私を育んだ文化とこんなに違うんだ、あるいは似ているところもあるんだ、と気付くことは無常の喜びです。そうした経験は何回かしたのですが、そのたびにいかに世界や人間は豊かなものであると思い知ります。著者はそうした経験をするためのちょっとした手法をもっておられます。やはり変人とは違いますね。たとえば、
 …食べたい料理の絵を(白い紙片に)つけ、料理名を綴りで書いておく。リトアニア料理に「チェペーリナイ」というのがあって、わが国の団子にあたる。マッシュポテトでやわらかくつつんだ中に、挽肉と、チーズが詰まっていて絶妙にうまい。稚拙な絵を見たとたん、ボーイの顔がこぼれるような笑顔になった。
 うん、これはさっそく使わせてもらおう。外国の方が、「さばのしおやき」と綴ってある稚拙な絵を見せて、「これがたべたい」と言ってくれたら、わたしゃ天にも上るように喜びますね。割り勘で佐賀関半島まで連れてってあげちゃいます(たぶん)。ポイントはやはり手書きの絵だということでしょう。人類学者の山口昌男氏がフィールド・ワークに行くと、まず現地の人々の似顔絵を描くそうです。これでたいがいの場合、和やかな雰囲気が生まれてくるとのこと。デジタル・カメラのディスプレイを見せても、心の交流は生れませんよね。人間の温もりが介在していないのですから。
by sabasaba13 | 2007-06-27 06:06 | | Comments(0)
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