「夕凪の街 桜の国」

c0051620_7285110.jpg 映画「夕凪の街 桜の国」を見てきました。以前に拙ブログで紹介した、こうの史代氏による同名の漫画を忠実に映画化した作品です。正直に言って、あの独特の詩情をうまく再現できるのかと心配でしたが、杞憂でした。なかなかの力作です。
 前半は被曝した主人公の女性が、13年後に放射能障害を発病し死に至るまでを描いた「夕凪の街」、後半は彼女の弟とその娘を軸に現在の視点から被曝を描く「桜の国」という二部構成になっています。何といっても感服したのは、主人公を演じた麻生久美子の演技です。妹の死を看取った彼女は、自分だけ幸せになっていいのだろうかという自問し続け、恋する相手ができても素直にその手の中に飛び込むことができません。穏やかな表情の中に、一瞬風のようによぎる喜びや悲しみや苦悶、それを見事に表現していました。そして「原爆は落ちたんやない、落とされたんや」、あるいは「嬉しい? 原爆を落とした人はわたしを見て、やった! またひとり殺せたとちゃんと思うてくれとる?」という台詞のように、原爆投下を人為的な虐殺行為として見据える意思の強さも、上手に表現されていたと思います。一つ解せないのは、原作にあった「腐っていないおばさんを冷静に選んで下駄を盗んで履く人間になっていた」という告白が消えていたことです。これがないと、非人間的な状況に突き落とされた被害者が、非人間的な行為によって生き延びる加害者となるという悲劇を伝えられないのではないかな。そこに彼女の真の苦悩があると思うのですが。
 後半は、被曝により亡くなった方の分まで幸せになろうという、シンプルなメッセージでしめくくられます。もちろんそれも大変重要ですが、はたしてそれだけでいいのだろうかという疑問も感じます。原爆を落とした人に対して被曝者が言いたかったこと、それを想像し考え受け止める視点が欠けているように思います。
 ぶちぶち言いたいことを言いましたが、いろいろと考えさせてくれるのは良い映画の証拠です。原作の漫画とともに、多くの人に紹介したいと思います。
by sabasaba13 | 2007-08-07 07:29 | 映画 | Comments(0)
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