「天然コケッコー」

 「天然コケッコー」(くらもちふさこ 集英社文庫)全九巻読了。映画「フリーダム・ライターズ」を見た時に、「天然コケッコー」という映画の宣伝用パンフレットを見かけました。面白いタイトルと、農村風景をバックにして線路の上に集う七人の小中学生たちの写真に惹かれて手にすると、原作はくらもちふさこ氏の漫画でした。ああ懐かしい! 実は蘭丸団シリーズを読んでしばらく氏の漫画に夢中でした。「おしゃべり階段」「いつもポケットにショパン」は何度読み返したことでしょう。抜群の描写力、自由奔放にして繊細な線、巧みで洒落たストーリー展開には脱帽です。しかし「チープ・スリル」「海の天辺」あたりからストーリーの伸びやかさが消え読みづらさを覚え、しばらくご無沙汰をしてきました。しかしこのままで終わるような方ではないと心の片隅で思い続けてきたので、いい機会です。映画を見る前に、原作を読んでみようと思った次第です。
 舞台は島根県浜田市あたりの海に面した農村、主人公は農家の娘、右田そよです。彼女が通う小中学校は廃校寸前で、生徒数は六人。そこにある事情で東京からかっこいい転校生、大沢広海がやってきます。この二人の関係を中心に、友人関係や親子関係、村の様子などをからめて、ゆったりとしたペースで話は進んでいきます。伸び伸びとしたストーリー展開がいいですね。相変わらず画力は素晴らしいのですが、それに加え、登場人物の表情・しぐさの表現が以前より豊かになったような気がします。また一話すべてにセリフがなく絵だけでストーリーを表現したり、右ページ全部をそよと広海の会話でコマ割りしたりするなど、実験的な手法にも取り組んでおられます。
 全九巻を一気呵成に読了、そしてえもいわれぬ爽やかな読後感につつまれました。思うに、このお話には競争や敵対関係がいっさいないのですね。人間の手が加えられたあたたかい自然の中で、友人・親・村人たちと時には仲たがいしたり仲直りしたり、日々何となく過ごしていく。しかし子供たちは目に見えない速さで少しずつ成長していく。促成栽培的に競争と成長を強要していく今の学校教育とは違う、自然と仲間に取り囲まれながら何となく成長していくという羨ましいような世界がよく描かれています。たぶん、そよが失いたくないけれど、間もなく失われていくと感じているのは、そういう世界なのでしょう。一読に値するゆるゆるとした漫画、これはお薦めです。
 なお氏の妹、倉持知子氏にも一時期惚れこんでいました。今でも私にとって「青になれ」は輝きを失わない永遠の少女マンガです。今でも活躍されているのでしょうか。
by sabasaba13 | 2007-08-16 13:04 | | Comments(0)
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