トゥー・ハンズ

 レオン・フライシャーの「トゥー・ハンズ」を聴きました。彼は、ジストニアという病気により右手が完全に麻痺してしまったピアニストです。35年におよぶ必死のリハビリによって回復し、レコーディングしたのがこのアルバムです。ピアノが弾ける喜びが慈雨の如く心を濡らしてくれます。シューベルトのピアノ・ソナタ第21番(遺作)もしみじみとした良い演奏ですが、圧巻はJ.S.バッハの「羊は安らかに草をはみ」ですね。カンタータ第208番《わが楽しみは愉快な狩だけ》BWV.208のアリアを、エゴン・ペトリがピアノのために編曲した曲です。かなり遅めのテンポで一音一音を慈しむように弾いた演奏で、心のひだひだにじわっと染み込んできます。それにしても、こんなに単純な和声・リズム・旋律でこれほど人の心を揺さぶれるとは。バッハの力量に感嘆するとともに、あらためて音楽に感謝したいですね。昨今「癒し」という言葉が巷に溢れて辟易しております。しかしその実態は、感覚を麻痺させて痛みを一時的に忘れさせてくれる麻酔薬の如きものです。まあそれが悪いとは一概には言えませんが。私がほしいのは、滋養強壮剤です。この曲を聴いていると、心身にほくほくと栄養分が行き渡るのを感じます。聴いた後は無性に人に優しいことをしてあげたくなり、山ノ神の肩を(肩ですよ肩!)揉んであげたりする健気な私です。ブッシュとシャロンに聴かせてあげたい。
by sabasaba13 | 2005-02-16 06:30 | 音楽 | Comments(0)
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