白山通りに出ると、すぐ一葉終焉の地です。彼女はここで晩年の二年間を過ごし、「にごりえ」「たけくらべ」「十三夜」といった名作を書き上げており、"奇跡の二年"と呼ばれているとのこと。そして二十四歳で急逝。それにしてもそこに“しーんしふくの、コ、ナ、カ”が営業しているのには唖然。風情もくそもありゃしない。
珈琲を飲んで一休みした後、再び菊坂へ。一葉なじみの旧伊勢屋質店の蔵がまだ残っています。菊坂と並行する裏の路地へ入ると、そこは静謐な生活の場。幅二、三間の道に、下見板張りのよく手入れされた木造家屋が建ち並んでいます。学校帰りの子供たちや、路上で井戸端会議に余念のないご婦人がた。ふと脇のさらに細い路地を見やると、手押しポンプの井戸が現役で働いておりました。そしてしばらく歩くと、樋口一葉の菊坂旧居跡です。ここは一葉が18~21歳まで住んでいたところで、当時母と妹の三人家族の戸主として洗濯や針仕事で生計を支えていました。困窮のため、さきほど見た伊勢屋という質屋に通いつめたとのことです。ここから歩いて五分くらいかな。ここにも堀抜井戸と手押しポンプがありました。おそらく実際に彼女が使っていたのでしょう。近くに「菊水湯」という銭湯を発見。もしや夏子さんの行きつけの湯だったのかもしれません。銭湯遍歴の散歩だったら必ず入るのですが、実は私"烏の行水"人間なので、ここはカット。
というわけで、たっぷりと楽しめた一日でした。人類がsurvivalをするために、環境を破壊せず、他人に迷惑をかけず、金がかからず、面白い暇潰しを普及させることが喫緊の課題ではないかと愚考します。大風呂敷をふろげますが、一押しは何といっても散歩! 書を捨てよ、街に出でよ…いや本は捨てられないな。
本日の一枚は、菊坂旧居跡です。