「別冊太陽 宮本常一」

 「別冊太陽 宮本常一」(平凡社)読了。民衆の智慧を求めて日本全国をくまなく経巡り、それを明るく活気のある未来に生かそうとした希代の民俗学者・宮本常一。私にとって敬慕してやまない人物です。その後塵をほんの少しでも拝したいとしょぼくれた旅を続けていますが、氏の後姿さえ見えてきません。せめて氏の著作をよみながら、その精神を僅かでも吸収したいと思っています。本書は、宮本常一の生涯を、豊富な写真・資料・地図・ブックガイドをまじえながら再現し、さまざまな研究者からのオマージュを収録したものです。奈落の底に落ちる淵にいる地方を再生するため、そして地方を弊履にように捨てようとしている政治に抗うためにも、氏の人生と業績と思想をふりかえるのは必ずや得るところがあるでしょう。お薦めです。
 一読、やはり渋沢敬三との出会いが彼の生涯にとって大きな意味を持っていたことがよくわかりました。“モノ”からヒトの営みの跡を読み取り、人間の文化を解明するという彼の研究方法が、宮本常一に大きな影響を与えたのですね。滋味あふれる言葉も多々ありますが、一番心に残ったものがこれです。
 要するに私は、正しい意味の教育を確立したいのである。いちばん大切なことは、騙されない自己を確立することである。社会を、あくまで自然現象として眺めるほどの客観性をもって観察し、それに政治的なものを交えないことである。
 嗚呼、騙されやすく従順で頑丈な使い捨て労働者に育てようという教育をせっせこせっせこ強要している文部科学省の官僚諸氏にぜひともよく味わっていただきたいですね。

 なお氏が撮影した写真の魅力にはつねづね感服しておりましたが、その理由の一端がすとんと腑に落ちました。“自分が写真を撮影していないからこの場所にはそのようなものはなかった”“写真とは「見た」ことの確かさをとどめるもの” 本書にある言葉ですが、宮本常一の「眼」の力、あらためて恐れ入りました。ヒトの営みに対してつねに感受性を働かせ敏感であること、そしてそれを技巧にこだわらず写真におさめること、これも学びたいところです。
by sabasaba13 | 2007-11-29 06:08 | | Comments(0)
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