「ル・コルビュジエを見る」

 「ル・コルビュジエを見る 20世紀最高の建築家、創造の軌跡」(越後島研一 中公新書1909)読了。今年は彼の生誕120年目にあたるのですね。よって彼について紹介する企画が多々ありそうです。本書は自身が建築家である著者が、専門の知識を駆使しながらル・コルビュジエの創作の軌跡を、作品を中心に年代順に解読・解説したものです。何せ20世紀最高の建築家、彼の仕事を素人にもわかるようにしかも新書版に収めるのは至難の業だったと思います。その意気や良し、中身もまた良し、十二分に楽しめました。
 ル・コルビュジエと聞くと、どうしても彼が唱えた「新しい建築のための五原則」(1.ピロッティ、2.屋上庭園、3.自由な平面構成、4.水平連続窓、5.自由な立面)を頭に浮かべてしまうのですが、著者はこうした志向を「透明な広がり」と概括し、その最も優れた結実がサヴォア邸であると主張されます。その後は「深い闇」を求めてロンシャン教会堂という傑作を生み出す。これらの建築を、彼の前半生と後半生の二つの頂点と捉え、その他の作品群をその変遷の過程に位置づけていきます。ただし、建築=樹木という根本的な考えは彼の生涯を貫き、幾何学的な樹木(サヴォア邸)から、より自由な樹木(ロンシャン教会堂)へと発展したと考えることもできる。うーん、なるほど。これまで群盲に撫でられる象のように思えたル・コルビュジエが、少し身近な存在に思えてきました。こういう本に出合えるというのは本当に嬉しいですね。カラー写真や図版もたくさん載せられているのも、作品を理解し楽しむための大きな助けとなります。詩のような抽象的な賞賛がやや鼻につきますが、小さな瑕疵でしょう。また独自の寸法体系モデュロールについての説明がなかったのはちょっと残念。
 さて、となるとやはり実物を見てみたい。上野の西洋美術館だけでは飽き足りません。サヴォア邸、スイス学生会館、救世軍本部、ユニテ、ロンシャン教会堂、そして遺作となったラ・トゥーレット修道院礼拝堂。でも何処にあって、どうやって行けばいいのだろう? 心配御無用。巻末の関連文献で、ル・コルビュジエの作品に辿りつくためのガイドブックがちゃんと紹介されていました。今取り寄せているところ、読み終えたら報告します。
by sabasaba13 | 2007-12-02 22:06 | | Comments(0)
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