「棚田の謎」

 「棚田の謎 千枚田はどうしてできたのか」(田村善次郎・TEM研究所 農文協)読了。
自然はさびしい
しかし 人の手が加わると
あたたかくなる
その暖かなものを求めて
あるいてみよう
 本書の冒頭で紹介されている、テレビ番組「日本の詩情」の冒頭に流された宮本常一氏の言葉です。棚田を語るときに、ふさわしい言葉ですね。私もその暖かさに惹かれて、いつしか棚田ファンになってしまいました。本書は、三重県紀和町丸山の千枚田、石川県輪島市白米の千枚田を題材に、棚田の構造と歴史を考察した力作です。水の流れを忠実に再現した利水系統図や、井戸・井堰の図解を見ているだけでも、先人たちの知恵と工夫がひしひしと伝わってきます。これまで漫然と眺めてきたのですが、これからは棚田の見方が変わりそうです。また棚田の造成には、鉱山関連の土木技術が大きく影響しているといった重要な指摘も多々あり。中でも驚いたのは、古文書をもとに著者が試算した丸山千枚田(三重県)の工期です。この棚田造成に必要な工事人口は93,632人、年間300人が工事に加わったという史料があるのでこの数字で単純に割ると、驚くなかれ工期は312年強! 著者の言葉が万鈞の重みをもって響いてきます。
 丸山に暮らしてきた村人の宿願が、もし悲観的なものであったなら、今の丸山はけっして存在しなかっただろう。想像を絶する重労働の石垣の雛壇づくりがなし得たのは、親から子へ、子から孫へと地域の未来を明るくするための作業であったからだということを丸山の景観は、私たちに教えているのである。
 これこそ世間遺産にふさわしい存在です。しかし過疎化や後継者不足から、多くの棚田が荒廃しつつあるのが現状です。しかしただ残しておくだけではいけない。最後に載せられた真島俊一氏との対談で、氏は「棚田とは活用しないと残らない性格の文化財」と言われていますがまさしくその通り。不動産税の免除や耕作者へのバックアップ、さらに他所からやってきて棚田とともに暮らしたいという人の誘致と優遇など、あらゆる対策を講じる必要があるでしょう。もし「美しい日本」なるものがあるとするならば、棚田の景観は間違いなくそれを象徴するものの一つです。愛国心にみせかけた国家権力への服従を強要するため「美しい国」と連呼していたおじさんは辞任しましたが、福田憲兵曹長、棚田維持法を制定しませんか。アメリカ政府による国家テロの片棒をかつぐより、よほど真っ当な税金の使い方だと愚考しますけれどね。
by sabasaba13 | 2008-03-07 07:18 | | Comments(0)
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