「人間を守る読書」

 「人間を守る読書」(四方田犬彦 文春新書592)読了。映画・文学評論家四方田犬彦氏によるブックガイド、この魅力的なタイトルは批評家ジョージ・スタイナーが『言葉と沈黙』で唱えていた言葉に由来するそうです。
 野蛮な時代には読書が人間を守る側に立たなければいけない。野蛮で暴力的ではない側に人間を置くために必要なんだ。
 読書=他人の声に耳を傾ける行為こそが、野蛮や暴力から人間を守る。うーむ、いい言葉ですね。そして書物を読むというのは体験の代替物ではなく、現実の体験であり、体験に枠組みと深みを与え、次なる体験へと導いてくれる何かであると氏は主張されます。同感。そういう意味で、読書を忌避する方が増えている現状(確実なデータは知りませんが)については、常日頃危機感を覚えています。氏の言い方によれば、他人の声に耳を閉ざし、陳腐でチープな体験で満足してしまうということでしょう。労働者使い捨て政策を推し進めた小泉元軍曹や、ウルトラ・ナショナリストにしてレイシストの石原強制収容所所長が支持されるのは、那辺に理由があると思います。よって、みんなが「どりゃどりゃ」と思わず本を手にしたくなるようなブックガイドの刊行を期待します。
 著者が紹介する書物の森の全貌は実際に読んでいただくとして、私の目についた巨木は平井玄『引き裂かれた声 もうひとつの20世紀音楽史』(毎日新聞社)、ピーター・B・ハーイ『帝国の銀幕』(名古屋大学出版会)、川田順造『母の声、川の匂い』(筑摩書房)、マルクス・アウレーリウス『自省録』(岩波文庫)、ヴラジーミル・ナボコフ『ロリータ』(新潮社)。さっそく読んでみるつもりです。特に、映画・音楽に関する書物と漫画が多数紹介されているのは嬉しい限り。ジョー・サッコ、黒田硫黄、岡田史子、小山春夫といった漫画家の存在もはじめて知りました。ただ惜しむらくは、かなり難易度の高い書物が多いことですが、これは「何度でも読み返したい」という著者の意図ですから仕方がありません。活字を見ると蕁麻疹が出るような方々向けのブックガイドも、どなたかに書いてほしいな。今、喫緊に必要とされているブックガイドは後者だと思います。国民が批判精神をもつことを嫌悪し恐怖する政治家・官僚・財界の諸氏は必死に妨害するでしょうけれど。
 読書は何から人間を守るか。贅言ですが一つ付け加えます。恐るべき病、知的無関心から…
by sabasaba13 | 2008-03-18 06:07 | | Comments(0)
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