瀬戸内編(7):祝島(08.2)

 そして坂道をのぼって、集落と海と対岸の島を見張らせる小高いところへ連れていってもらいました。小さな小さな島の村、そして美しい海… 自然に抗い自然に寄り添い自然に抱かれながら幾世紀もの歳月を過ごしてきた村が、今眠りにつこうとしています。その歴史を想うと、ふと荘厳さを感じてしまいました。ご主人に核発電所の建設予定地の場所を訊ねると、指差してくれたのは海を挟んですぐ眼前に見える長島でした。宿に戻り、さあ待ちかねた夕食です。メバルの煮付け、アジの刺身、本日獲れたばかりの海の幸に舌鼓を打ち、それはそれは柔らかくて美味しいひじきを堪能。鉄の大釜と薪でじっくりと炊き天日で干すという昔ながらの方法で作られているそうです。
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 食後は能弁なご主人からいろいろな話を聞かせていただきました。ご自身の波瀾万丈の人生譚については、プライベートな内容を含むので割愛。まずは島の様子や暮らしについて。先ほど、お年寄りによく出会ったという話をすると、ご主人曰く、島民の平均年齢は75歳だと言われました。ななじゅうごさい?! 平均寿命の間違いではないかと耳を疑いましたが、本当のようです。豊富な海の幸や畠でとれる作物など生活費はあまりかからないのですが、いかんせん、小規模な農業と漁業が中心で現金収入が少ないそうです。特に子どもの教育が深刻で、例えば、高校の入学金だけで一ヶ月の収入がふっとんでしまう。よって子どもが上級学校に入る学齢になると、よりよい収入を求めて島を離れてしまうケースが多いそうです。このままでは祝島で暮らす人たちがいなくなってしまう。でもどうしたらいいのでしょう?
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 もちろん、他の離島や過疎地でも同様な状況が起きているのでしょう。どうしたらいいのでしょう? こうした問題を真摯に受け止め考え、地元の人々とともに対策を立てるのが学問や学者や知識人の役目ではないのでしょうか。その使命を全うしようとした稀有な人物・故宮本常一氏の言葉が脳裡をよぎります。[「ふるさと山古志に生きる」(山古志村写真集制作委員会 農文協)より]
・この土地の産業を盛んにして、雇用の機会を増やしていく以外に方法はない。
・仲間づくりをすること。
・「人間とは何だ、人間の幸せとは何だ」というような考える力をもつ。
・素性のいい観光客がたくさん来るような村をつくる。
・意見をお互いに出しあえる場をつくる、多くの人と交流する、そういう村をつくる。
・横へ手をつないでたえず情報と技術の交流を図る。その輪を拡げることが大きな力となる。
・地元の持っている資源と村の人達の持つ技術を効率よく生かす産業が大事。
・頭の中で考えるのではなくして、現実に近い形でもって把握していく。
・風景、味、文化、遊び、そして産業といった広い意味での生活の豊かさをもつ。
・人に媚を売って、金をもうけようというのではなくて、山古志の人達の生活を豊かにし、その中へ都会の人間を引き入れる。決して自主性を失わず、都会の人間と対等につき合う。そうすることで、もてなしただけのサービス料はいただくことはできるし、多くの情報や知恵も得ることができる。
・目的をもった仲間が集まり、お互いに研究しながら新しい方向を見い出していく。その「核づくり」が一番必要。これに対して工場へ勤めて賃金を得るという生活には、生産のための工夫がない。むしろ人の気持ちをバラバラにしてしまう。

by sabasaba13 | 2008-09-09 06:04 | 山陽 | Comments(0)
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