2005年 07月 11日 ( 1 )

「アースダイバー」

 「アースダイバー」(中沢新一 講談社)読了。こういう街の見方/歩き方もあるのですね。だから読書はやめられない。大変興味深く面白い刺激的な本です。題名はアメリカ先住民の神話からとられています。「原初の世界は一面の水に覆われ、陸地がなかった。そこで勇敢な動物たちが、水中にもぐって陸地をつくる材料を探そうとしたが、ことごとく失敗に終わった。最後にカタツブリが渾身の力をふりしぼって水底に達し、水かきの間に一握りの泥をはさんで持ち帰った。この泥を材料にして、私たちの住む世界はつくられた。」 頭の中にあったプログラムを実行して世界を創造するというキリスト教的世界観とは明らかに違う、ゆるやかで柔らかい創生神話です。ま、人類全体で見ると前者の方が例外ですけれど。そして歴史という深い海の水底にもぐり、一握りの泥を持ち帰り、それを材料にして「東京」をゆるやかに再生しようというのが著者の意図だと思います。

c0051620_7403018.jpg では「東京」の歴史の水底とはいつか? 縄文時代です。約1万2千年前に更新世(氷河時代)が終わり、暖かい完新世が始まります。これにより植物相が大きく変化し、大量の木の実をもたらす落葉広葉樹林・照葉樹林が列島を覆い、木の実を煮るための土器がつくられ、加工・保存のため定住生活が始まります。つまり「東京」に人々が住み始めたのがこの時代です。
 また縄文早期は現代よりも温暖で水面が高く、かなり内陸まで海水が入り込んでいました。いわゆる縄文海進です。東京は五つの台地(上野台地・本郷台地・麹町台地・麻布台地・芝台地)が南北に連なり、左手を広げて横に置いたような複雑な地形をしているということは知っていました。しかし本書のCGによる復元地図を見ると、うーむ、これはフィヨルドですね。大小の谷が台地に縦横無尽に食い込んでいます。そして湿地帯の湿った文化=縄文文化と、台地上の乾いた文化=弥生文化とのせめぎあいの中から、この町の相貌がつくられてきたというのが著者の考えです。例えば新宿でいうと、台地上を走る甲州街道沿いには乾いた文化(中村屋、紀伊國屋、伊勢丹)、点在するかつての湿地帯には湿った文化(歌舞伎町、十二社)が栄えたというわけです。なるほど。該博な知識を駆使して、四谷・渋谷・明治神宮・東京タワー・麻布・赤坂・浅草といった街に著者はダイブしていきます。なぜモスラは東京タワーに魅かれるのかについての考察なぞは、目から鱗が落ちました。

 そして圧巻は、彼の叔父である歴史学者、故網野義彦氏の言葉です。十数年前に汐留操車場跡地を何に利用するかでもめました。その時の彼の言葉です。
 ぼくはあそこは天皇直轄領にすればいいと思う。そして開発の及んでこられないアジールにするんだ。アジールはとうぜん森に帰る。そしてこの森は、現代の文明から脅かされている、あらゆる生き物を守る場所の象徴になる。そうなったらはじめて、天皇制は世界にとってもたいした意義をもつものになるだろう。天皇というのはもともと、アジールを支配して守る存在だったんだからね。
 これにはまいった。自由な議論が出来ず、タブーがつきまとうかぎり、私は天皇制については否定的な立場をとっています。昭和天皇には戦争責任があるという発言をした本島等長崎市長に対しての恐喝・恫喝(1988)、さらには銃撃され重傷を負った事件(1990)を思い出します。しかしこうしたタブーを払拭した上で、“悪魔の碾き臼”のような資本主義・グローバリゼーションに対抗できる原理としての天皇制を立ち上げる。これは刺激的な発想です。こうした歴史・伝統を踏まえ、かつ未来に開かれた自由な議論をしたいですね。
by sabasaba13 | 2005-07-11 06:06 | | Comments(0)